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卵の殻を破壊せずに生まれてみたい。

料理はあまり上手じゃないかもしれない。

誰かにふるまうことにちょっと自信がない。

だから時々美味しいねってほめられると

子供はいないのに、自分の子供がほめられたら

こんな気分かもしれないって気持ちになる

時がある。

でも、料理が上手なひとは大好きです。

ということで今日は企画に乗っかりました。

noteの企画プリンスたまごまるさんの企画です!

さっき勝手に命名しました。

そしてワディさん企画にも乗っかりました。

実際のあれはあれですので、ここは番外編という

ことで空想の卵料理で書いてみました。

🥚 🐣 🥚 🍳 🍳 🍳 🥚 🐣 🥚 🍳 🍳 🍳 🥚 🐣 🥚

また夜が来る。

夜は大好きなのに大きらいだ。

夜になるとわたしはいつも嫉妬している。

誰に?

眠れる人に。

昔好きだった哲史くんはよく眠る人で

彼と別れた原因は彼の眠りに対して、

わたしが嫉妬しすぎたせいだった。

その日もわたしはベッドを抜け出し部屋を抜け

家のドアをくぐりぬけた。

真夜中過ぎインソムニア通りを歩く。

インソムニア通りのことを知ったのは最近だ。

通りを一本東に入ったところにこんな一角がある。

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そこには、ふしぎな店が並んでいて

昼間は卵屋さんなのに夜は珍獣の卵を

売っているらしい店があるって聞いた。

ちょっとした噂になっているのだ。

眠れない人達の間では。

SNSの #珍卵不眠で検索したらこの店が

ヒットしたから店に行くことにしてみた。

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どこがドアかわからないのに、店の前らしき

場所に立ったらセンサーが気づいたのか

扉が開く。

こんな店内にふしぎなたまごを売っているなんて。

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店の壁には不思議な言葉が貼ってあった。

<鳥は卵の中からぬけ出ようと戦う。卵は世界だ。生
まれようと欲するものは、1つの世界を破壊しなけれ
ばならない>。

それをぼっ~とした頭で読んでいたら後ろから

声がした。

店主のゴルタママさんは、ママさんという名の

国籍不明で年齢不詳、性別不明らしき人だった。

あぁ、これですか。この言葉は創造することと

壊すことが、時系列に並んでいるのではないって

教えてくれるてるらしいですよ。

わたしもよくわからないんだけどって笑った。

笑うととてもさわやかな笑顔の持ち主だった。

鳥がやがて殻を破って逢いに行くのは、結局

自分自身なんですかね。

そしてゴルタママさんは、店の本棚から一冊の

本を取り出してきてくれた。

これです。これに載ってる言葉です。

その本を受け取って付箋の貼ってあるページを

めくった。

わたしは仮に卵がもし世界なら、殻から抜け

出ようともがく鳥を想像してみた。

小さい頃から、殻をやぶりなさいってなんど

言われてきたことか。

なんなら殻を破らずにわたしは生まれて

みたいってふと思いつつ。

それよりも、今は殻を破る前にわたしは眠りたい。

そう思った。

夜、店にたずねてくれる人はあまりいないんですよ。

あなたには、これを差し上げますと卵をもってきて

くれた。

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それは羊のたまごですよ。

ってタルゴママさんが言った。

わたしの持論ですが、人はみんなひとりずつ

生まれる時にそれぞれの卵をもって生まれて

きているはずなんです。それをどこかにみんな

忘れてきてしまう。

忘れた卵のことさえ忘れながら生きてしまうのが

現代人の常ですが。

あなたは、おみかけしたところ眠りを忘れましたね。

もともとは、この羊の卵を赤ちゃんの時に持って

生まれてきたはずなのに、いつしか忘れてしまって

いたんですよ。

どうぞ、これは羊の卵のレプリカですが、

差し上げますよ、お守りのようにして肌身離さず

持っているといい。

そしてまた微笑んだ。

今日はわたしがとっておきの卵料理をあなたに

つくってさしあげます。

卵料理ですか?

そう見た目はたぶんオムレツですね。

わたしはカウンター越しのキッチンで料理して

くれるゴルタママさんの手元をじっとみていた。

カシャカシャとボウルの中で卵をかき混ぜながら、

つつつと雫のような液体が注がれる。

サトウカエデの樹木であるメープルシロップ。

それを注ぎ入れながら、細かく刻んだ羊のチーズを

卵液の中に振り入れて再びシャカシャカとボウルの

中で泡を立てないように混ぜていた。

熱したフライパンにたっぷりの羊のバターを

滑り入れながら焼いてくれた。

香ばしい匂いがたちまちあたりを包んでいた。

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一口たべた時、口の中にはじめての甘美な味が

ひろがってゆく。

涙しそうな味がした。

すべてをたいらげたあとわたしは店のソファで

ずっと眠っていたらしい。

シープ柄のブランケットがわたしの身体には

掛けられていた。

何年ぶりだろう、こんなにぐっすり眠れたのは。

ゴルタママさんにお礼を言おうと思ったのに

あのひとはもうそこにはいなかった。

羊の卵をもって生まれて来たらしい赤ちゃんの

頃をわたしは想像してみた。

小さなてのひらににぎられた羊のたまご。

これからは夜が来るのが待ち遠しくなる。

眠れる誰かのことを嫉妬しないですむ夜が

わたしにやってくる。

みんなすやすやと眠れるといい。

赤ちゃんもこどももおとなもろうじんも。

ゴルタママさんに頂いた羊のたまごのレプリカを

てのひらに乗っけて、ただいまってわたしは呟いた。


       ぼくたちが ここにいること うつつでゆめで
        白すぎる たまごのからを 破って鳴いて       


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