じぶんのことを、好きになるその日まで。

『僕が夫に出会うまで』。


今すこし放心している。

頭の中でなにかが駆け巡るように

走っているのになにかその正体が

まだつかめていない感じがする。

ずっとこのタイトルが気になっていた。

気になっていたけど、手に取ってみる

まで少し時間がかかった。

読む前から、なにかわたしにバイアスが

かかっていたせいかもしれない。

七崎良輔さんが自ら、マイノリティとされて

いる性に対して葛藤し、崩れそうになっても

立ち上がりながらまた前を向いてゆく

そんな記憶と記録の物語だ。

七崎さんが、高校生の時、同じクラスの

ハセさんを好きになった時

こんな言葉が綴られている。

もしかすると人間は、生まれてくる前に、いろんな書類を
神様に提出するのかもしれない。その書類には生まれる国
や人種、性別などの事細かな選択項目があって、きっと僕
の書類には不備があったのかもしれない。でも生まれてし
まったのだから、その書類の不備を直すことはできない。
だからこれ以上ハセを好きになってはいけない。

じぶんの心にふたをしようとする七崎さん。

きっと狂おしいぐらいにハセさんのことが

好きだったんだなって思う。

でもこの気持ちがすごくわかるというと嘘に

なる。

わたしはこれまで生きてきて七崎さんの

ような好きを経験したことはないから。

でも人を好きになったことはあるから

好きということがどういうことかは

知っているつもりだ。

でもその好きは七崎さんの好きには

届きそうで届かないそんなもどかしい

思いを抱えながらページをめくっていた。

わたしはここまで読んでいて、これは

男の人が男の人を好きになるとは

どういうことなんだと、とても丁寧に

気持ちのひだまでをも見せてもらって

いるような気がしていた。

でもとあるページにたどりついて、

そうじゃないんだって気がついた。

それは、カミングアウトするか

しないかに自分でもさんざん迷い、

友人にも相談して悩んだ末の挙句の

果てにお母様へカミングアウトする

シーンが描かれている。

でも僕が一番つらかったのは、暴言や暴力を受けて
来たことじゃない。自分で自分を殺したいほど、
自分のことが大嫌いだったこと、それが一番つらかった。
でもやっとこの歳で受け入れられるようになってきたの!
だからお母さんにも受け入れてもらいたいだけ。

お母様に涙ながらに訴えるシーン。

このときわたしはやっとなにかこの

本への共感を感じたのかもしれない。

これは色々な世界でマイノリティで

あることへの思いもそうだけど。

自分が自分を好きになるまでの物語なのだと。

それは異性愛であっても同じことなのだ。

わたしは七崎さんのこの言葉に出会えた

ことがわたしが幼かったころから抱えていた

じぶんがじぶんを好きになれなかったあの頃の

じぶんに贈ってあげたい言葉がここにあった

ような気がする。

そして七崎さんのそばには七崎さんの想いに

駆け寄ってきてくれるお友達が多い。

彼女や彼たちがそばにいてくれたことが、

こうして七崎さんを前に進ませてくれたに

違いない。

彼の明るさまぶしいほどにわたしは

うらやましいのだけど。

この明るさは七崎さんの天性のものだと

思えて仕方なかった。

そして恋を失ってもあきらめないことの

七崎さんの行動に度肝を抜かれつつも

人は一生かけて人としてじぶんを

心にうそのないままじぶんを持て

余さずに生きるという生き方も

あるのだということを教えてもらった

気がしている。

出会うまで 出会ってからも 温める心
そばにいないのに そばにいると 感じるこころ


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