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あたらしい父に会っている気がする。

父と1年ぶりに会った。

父が趣味ではじめたことに

お祝いすることがあったので

上京してきていた。

父と呑んだ。

父に母のことをすこし打ち明けた。

母は父にとって元の妻になる。

わたしは子供だから元子供では

ないのだな。

近所のお寿司屋さんだった。

思えばここのお店は母とはいかない。

父が上京してきたときだけに行く

店になっている。

去年ちらしずしを頼んだんだってね

と、覚えていたのでびっくりした。

にぎりにしとけばよかった、失敗

したって思ったんだよって笑った。

高齢なのに、父のそういうところ

いつも度肝をぬかされる。

母が今年のはじめから2カ月ほど

記憶にグラデーションあったことを

父に話した。

表情は曇らなかった。

淡々と聞いてくれた。

父は仕事柄、体のふあんなところに

耳を傾けることに慣れているせいか

フラットに聞いてくれたのかもしれない。

そして、その母がすこし転んで痛みを

感じた次の日から、元の母のように

魔法から覚めたみたいに、

形状記憶のように母の記憶がもどって

いたことを話した。

それは大変だったねって労ってくれた。

でも、ふしぎなのだけど。

父はそうなってしまっていた時間の母の

ことを、可愛そうだとか気の毒だとか

そういう視線ではみていなくて。

元に戻った時の母の方が、母なのだと

信じている風情だった。

昔父と母は折り合いが悪く、しょっちゅう

喧嘩をしていた。

その視線のぶつけあいをみていたわたしは

そんな憎しみ持っていたらどっちかが

その負のエネルギーで溶けてしまうのでは

ないかと恐れていたほどだ。

わたしも歳を重ねて。

あの日のふたりはそういう季節を

生きていたのだと思えるようになった。

憎んだり嫌ったりすることも夫婦の間に

おいては、季節にすぎないのかもしれない

と。

父は生まれてからわたしの父だったので、

あまりそれ以外の父のことを知らない。

父の顔をというか表情のあれこれを

知らなかったのだと思う。

子どもであったときは、父の感情は

勉強を理解していないわたしを叱る

もしくは、行儀の悪いわたしを

たしなめる。

その顔しか知らなかった。

お笑い見て笑うこともなかったし

冗談もいわなかった。

関西人なんやから、笑いの偏差値を

あげてっ!っておもっていた。

そしてなんやかんやありまして。

父は今も働いているのだけれど、

かなり高齢になってから絵を描き

はじめた。

それもはじめて知った顔だった。


へ~こんな絵を描くんやなって知った。

ちょっと発見だった。


そしてこの間もこの絵が飾ってある場所に

行って、飾られている父の絵を

はじめてみた。

不思議な感覚。

そして父に聞いてみた。

どうしていつも背中の絵をモチーフにしてるの?

って。

そうしたら、父はこういった。

正面だと顔の表情をね、描かないといけない

けれど

描いたら意味ができるでしょ。

だから、あまり絵の中に意味をもたせたく

ないんだよって。

そうか、それ似てるなってちょっと思った。

わたしも父のようには描けなくても

背中を描くかもしれないと。

妙に納得していた。

そして、わたしは父の背中のことを

小さい頃からすごく知っているような

気持になった。

そして翌日、わたしは父の同級生たちが

お祝いしてくれるという居酒屋さんに

向かった。

東京にあるお蕎麦の美味しい

居酒屋さんだった。

父の同級生たちは、とても豪快な

方達だった。

失礼ながら小さい時にやんちゃして

いたという方はやんちゃなおじいさまに

なっているように見受けられたし。

高校生の時の通っていた学校の神父様の

名前から、銅像にいたづらして叱られた

話から、サッカーがうまかったのは

○○で、勉強できなかったのは○○で。

みたいな昔話に花が咲いていた。

あと、○○中学から父たちの高校に

入ったのは22人!とかその数字の

覚え方すごかった。

すさまじかった。

つい昨日のことのようとはこういうこと

かもしれない。

お互いの名前も下の名前にちゃんがつく。

しげおちゃんみたいに。

父もちゃんづけされていた。

不思議な感覚。

そこにいる父はわりとおとなしかった。

時々喋るけれど、その話題を誰かが

かっさらってゆく。

これわたしと一緒だねって思った。

血は争えない。

でもそれが嫌じゃないよという感じ。

彼らの話を聞いていることも幸せそう

だった。

それもわたしと一緒。

隣でそんな父を見て居ながら年を重ねても

こんなふうに父には集ってくれる友達が

この歳でもいることはかなり幸せだろうな

って思った。

そして、わたしはここ数年の父を想うと。

生まれ変わったあたらしい父に出会い、

はじめましてをしているような

気がしていた。

人はこうやって親の新しい顔を知る

ことができるのだなって。

そしてむかし小さい頃、父を憎んでいた頃の

わたしに教えたらどんな顔をするんだろう

って、思ったりしていた。

怒るかな、いらだつかな、しゃーないなって

言うのかなって。

そんな父との関係に今は幸せを感じてる。

そして父とはこれから色々な季節を経てなんども、
なんども乾杯したい。








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