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穴の中の君に贈る言葉。#ショートショート

魂は、みえないでしょ。
僕は最近、たましいってこんなふうに
しわくちゃで。

道端に放置されてたら、きっとすっげぇ
でっかいバナナが、トラックかなんかの
タイヤに踏まれて腐って黒ずんでるのね
って、他人様から思われるようなもんじゃ
ないかと思うようになったんですよ。

僕の声は欠片だ。

それの成れの果ては、埋めてしまわないと
凶器になるから土の暖かさが感じるほど奥深くに
そっと埋めた。

在る夜の誘蛾灯の下。

電柱には妻の行方不明の写真がぬれたビニール
コーティングの下でゆがんだように笑っていた。

妻の写真の身体にはうっすらといくつもの
ぼこぼこする穴がみえていた。
 
何千年の眠りから覚めたみたいな気分で、
眼を見張る。

電柱の妻の写真の顔が、雨粒に濡れてゆがんだ
ように笑っていた。

彼女の声の輪郭を思い出しながら、僕は
逢いたかったと呟やきそうになって、がまんが
できなくて走った。

喉の奥からつっかえてたものがこみあげてきて、
嘔吐した。

久しぶり嗚咽に似たアメーバみたいなものが
どっさりと出た。

声の破片だった。

僕は、妻の写真のぼこぼこと凹んでいる穴を
見ていた。

そこから雨粒が滴っていて。

それはいちばん知りたかった中心に近づいて
いるようで、青ざめた。

妻が部屋から姿を消す前、僕が酷く妻をのの
しってしまったことを思い出した。

僕の声が殺したんだ。

やさしくない言葉が加速して、憎しみを纏った
それで、なんどもなんども貫いたのだ。

その欠片は、オリーブ色に輝いていた。

土の奥深くの穴に声を埋める時、僕も一緒に
そこに身をうずめた。

その穴の中から懐かしい妻の声が聞こえたような
気がしていた。

  


今週もギリギリ滑り込みました。毎週ショートショートnoteです。

お題は「穴の中の君に贈る」です。

お読みいただきありがとうございました!

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