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インタビューを受けて、過去に許された気がした。

つらい時、早く時が過ぎ去ればいいのにって想う。

今は昔よりも早く時が矢のように過ぎてゆく
けれど。

それでもつらい時は、その矢の形がどんな形か
みえるような、時間の流れ方をする時がある。

先月、以前お世話になったコラムニストの
上原隆さんから新刊のお知らせを頂いた。


10年ほどまえ、はじめて上原隆さんにお目に
かかった。

あの頃、わたしはひどい鬱を患っていて。

過去がどれもこれもぜんぶなくてもよかった
ようなそんな気持ちになっていた。

ひょんなことから、わたしのつたない短歌を
彼のブログで発見して、こんなほとんど売れて
いない歌人の短歌を取り上げてくれる方が
いらっしゃるんだと。

そんな想いで連絡さしあげたことがきっかけ
となって、お目にかかることになった。

わたしの歌集は以前好きだった人の想いが
ないまぜになりながら詠ったものだったので。

恋の話を聞かせてくれませんかということになった。

上原隆さんの著作は、折に触れて読ませて頂いて
いたのだけれど。

いつもタイトルに惹かれる。
短歌や歌のタイトルから引用されていて馴染み深かったり
新鮮だったりする。

『喜びは悲しみのあとに』


『友がみな我よりえらく見える日は』


『にじんだ星をかぞえて』


上原さんは、名もなき人、栄光を離脱せざるを得なく
なった方など。

市井の人々に寄り添いながらインタビューされる。

インタビューというよりも、同じ時間を共に過ごし
ながらすこしずつ問いかけてくださる。

上原隆さんにインタビューしてもらうという
経験を通じて思ったのは。

過去をもう一度再構築してくれる作業を手伝って
くださるということだった。

あの頃はひとりが好きだったし。

一人で十分だと思っていたけれど。

上原さんの過去への問いかけはどこかでわたしを
修復している時間だと気づいた。

彼がどうしてルポルタージュのコラムニストに
なられたかという話をweb上の対談で知った。

人に認めてもらえなかったり、向き合うべき状況から逃げ出してしまったり…こういうとき、私の自尊心はズタズタになります。

そこに気づかれた上原さんは

『自尊心が粉々になりそうなとき、人はどのようにして自分を支えるのだろうか』ということを追求していこうと、そう思ったわけです。探し求めていた『自分のテーマ』を、ようやく見つけたという感じでした。となると、他の人はどうしてるんだろうって気になりますよね。それでいろんな人に話を聞き始めたのがきっかけです。

なんどもnoteにはさらしているけれど。

父との折り合いが悪かったことや家族との軋轢や
恋人だった彼を見放すように別れてしまったことを
ぽつりとぽつりとお話しさせて頂いた。

この話はしたくない。

ここまでは聞いてほしくない。

そういう時彼は、ちゃんとわたしの想いに

寄り添ってくれる。

ちいさな自分の人生と言う時間の中で起きた
悲しみや挫折や怒りなどを決して感動の渦へと
巻きこむことをしない。

どこかで読んだことがあるけれど、彼の
ルポルタージュは感動を押し付けないのだと。

わたしが家族の話をするときは上原さんも
お育ちになった故郷やご両親のお話を
してくださる。

書くために聞くのではなくて。

ご自分も開いた心で失敗の経験もふくめて
お話して頂いた。

ただ共に時間を過ごす中で、あの時あんな
ことがありましてねって感じで話すことが
できたことが今思うと不思議な時間だったと
思う。

後に彼にインタビューを受けた後に、一度
メールで聞かれたことがあったものを今日みつけた。

Q 自分の話がストーリーになるとはどういうことでしたか。

A こんなに人をまっすぐ好きになる時間がちゃんとわたしに
訪れたことがまぶしいような、はにかんでしまうような。
今とは確実に違う時間が流れていたんだなと。わたしの取った
行動や言動は何も塗り替えられないことはわかっていても、
物語になることで過去の時間に救われているような、あえて言
うと、過去にゆるされているような感覚に陥って。

そんなふうに答えていた。

そして上原さんは

Q インタビューされたものがストーリーになって、物語化
されたことで、ご自分の中でどんなふうにそれが生きている
かを教えてください。

A  はじめはじぶんの中だけで大切にしたい体験をお話する
ということで、何かがちいさく消えていってしまうかもしれ
ないなっていう想いもありましたが。まったく逆でした。

自分の中で再び過去が息を吹き返したことで彼を好きだった
過去にほんとうの意味でピリオドが打てました。自分の過去
の想い出の中の順位みたいなものが変わったような気がして
います。切り取られた時間が物語になることで、やっぱり永
遠に近くなってしまうのかなと。ピリオドを打ったからこそ
大切な一葉の写真になったことをひしひしと感じています。

そんなふうにわたしはおよそ9年前に答えていた。

いろいろな失敗を含めた経験を物語にして頂いたことで、

わたしはまた前に進むことができたのかもしれない。


今も悩んだ時やひどく落ち込んだ時には、
上原隆さんの本を開くことがある。

うまく呼吸をできていないような感覚の時に
ひらくと、安堵するしそこに集ったさまざまな
人たちにどこか静かに迎え入れられている気が
するからだ。

時間って ちいさな声で ささやいた僕
問いかけを 探したままで 観覧車乗る



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