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偏愛している今日の言葉たち。

いつの頃からか、日記帳の中身が
変わってきた。

10代の頃といまとではかなり違う。

若い頃は信じられないほどにその
日記の中は、わたしの「ことば」で
あふれていた。

主語はいつも「わたし」だった。

想いにおしつぶされそうに書かれていた。
その想いを振り払うために書いていたのだ、
きっと。

白い余白を余白のままとっておけない
かのように。

空白が怖かったのかもしれない。

スケジュールに余白があると負けた
ようなそんな気がしていた。

むりに予定を入れてむりに人と会い。

その結果じぶんのそぐわない方向に話が
進んでしまい、家に帰り着いてから
落ち込む。

その行動を恥じたことも何度もある。
なのに、余白恐怖症のために人と出会って
いたようなところがあった。

余白がこわいなんて今思えばどうかしてる。

余白がこわいことはなかなかなおらなくて。

自分の気持ちをどうのこうのと書くことにも
飽き飽きしていた。

そんなある日。

わたしはじぶんじゃないだれかの言葉で
日記帳を埋めようと考えた。

最初はそんな空白を埋めたいがための行為
だった。

そしてわたしの日記の白いページは誰かの
言葉ですこしずつ埋まるようになっていた。

そのために、新聞の切り抜きをはじめた。


切り抜きたちの部屋。
ミイが昔は嫌いだったのに今は一番好きだ。


もうガラパゴスだなって思うけど。
アナログ大好きなので、手書きも好きだし
いまだに紙の新聞をやめられない。

政治欄は、好きな国際政治学者の
藤原帰一さんの記事をよく切り
抜いたりしている。

毎日の表紙を飾られている折々の言葉と
日々の文化欄と土曜日の読書評。

好き嫌いが激しいし、勉強家でもないから
自分のアンテナにぴこっと感じたものだけを
このミーの箱に集めてきた。

情報というより、じぶんが会いたかった言葉
に会いにゆく感じだ。。

この部屋に集まった言葉たちを偏愛している。

時々わたしはことばのことどれだけ信じて
いるのかな?

って思う時がある。

小さい頃に、花がきれいだとなかなか
言えなかった。

きれいだね。
かなしいね。
うれしいね。
いやだったな。

どれもなかなか言えなくて。

でもそれを言うと、先生もおともだちも
喜ぶことを知った。

花はきれい。
注射は痛い。
どろんこはきたない。
うさぎはかわいい。
太陽は、赤い。

どれもその頃わたしがしっくりと
こなかった言葉ばかりだった。

実感が伴っていなかったのだ。

なかなか実感できないことは
声にできなかったので。

ちょっと黙ってしまって。
きれいだよねって促されて
きれい。

って小声で言うような子供だった。

でも小学生の頃ぽつりぽつりと
言葉を覚えてつらつらと日記帳に
書くようになった。

学校の帰り道前を歩く同じ小学生が
踏んでしまったたんぽぽを見て、
あっ!って
思った。

踏まれて痛かっただろうなって。

なんか体感した気持ちになった。

でも。

そんな私の気持ちとは裏腹に。

ぼちぼちとその人の後ろを歩いていた
わたしの眼の前でそのたんぽぽは
立ち上がっていた。

あ、すごいって思った。

踏まれても立ち上がれるんだとランドセルの
わたしはちょっと
びっくりした。

そして踏まれても立ち上がりたいと
思った。

ほんとうは強くなりたかったのだ。

そしてそれを詩にした。

でもうまく言葉にできなくて。

いつか詩が書けるようになりたいなって
思ったのがわたしと言葉のはじめての
出会いかもしれない。

あれから何十年も経って。

今もことばを日々綴っているけれど。

わたしが日課のようにこうやって言葉を
採集するのはどうしてなんだろう。

なにか手触りのようなものが欲しい。

それはきっといつもあたらしい世界が
どこかにあると信じたいせいなの
かもしれない。


現代詩作家の荒川洋治さんの言葉を
新聞で知った。

詩はどうなるのか見えないまま、どきどき
しながら、進む。とくには、そういう
面白さもある。ぼくにはその面白さが新鮮だ。
知ることのしあわせを見つけた。

2020年11月13日「まなびつながる広場」
『知は力なり』荒川洋治。

いい作品は、読む人を変える。別のところへ、みちびいてくれる。詩の感興、小説の見方、社会への対し方など、いろいろ、それらがあらたまるのだ。

同 前掲

そのことを知る前と知った後のじぶんの
変化をメモしておくといいと。

あ、そうなのだ。

わたしがこんなに佃煮にできるほどの
切り抜きを習慣にしているのは、じぶんの
これまでとちがう「変わったな」と思う
じぶんの心に出会いたいからなのだと
知った。

そうやってすこしずつ歩を進めてゆきたい。

そして昨日よりも一ミリでも変わりたいと
思える自分に会うために。




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