文芸ヌー

‪ …私たちの出会いは書き出し小説という素人文芸にあった。ならばその素人芸の可能性をさ…

文芸ヌー

‪ …私たちの出会いは書き出し小説という素人文芸にあった。ならばその素人芸の可能性をさらに探ることで、またなにか面白いことができるのではないだろうか。「ヌー」は書き出し小説を母体とする、テキストを中心としたみなさんの交流の場にしたい。(主宰 天久聖一「ごあいさつ」から抜粋)

最近の記事

月桂樹は夜も囁く(タルク石)

人生とは、選択の連続である。———シェイクスピア ——先客が居る、もちろん女性だ。 その通路を横目に澱みなく通り過ぎる。 閉店間際の通い慣れたドラッグストアで私は挙動不審だった。 我が家は妻が一人、娘が二人の四人家族だ。 亭主関白という言葉が死語というより生まれておらずカカア天下気味だが、娘たちも父より母の方が強いという認識が有るが権力に擦り寄るというより無関心というかフラットだ。 「シェアハウスみたいな家族」と妻が職場で言ったらしいが大体合ってる。 食事は気が向いた誰

    • 萬挙(インターネットウミウシ)

      放たれた矢が私の頬をかすめ、部屋干ししていた銀杏柄のTシャツを射抜き、壁に刺さった。 頬から流れる血を拭い、壁に刺さった矢を引き抜く。 矢に巻かれた紙を開くと、満面の笑みのサソリのキャラクターが表れる。 そしてそのサソリから出ている吹き出しにはこう書かれていた。 『選田原(えらんだわら)町 首領(どん) 萬挙(まんきょ)のおしらせ 投鋲窟(とうびょうくつ)のご案内 在中』 萬挙のお知らせと共に巻きつけられていた鋲をグッと握る。 ついにきたか。10年ぶりに萬挙が行われるんだ

      • 文学フリマ東京38に参加してきたよ(葱山紫蘇子/七世)

        こんにちは。葱山紫蘇子です。 いつもは書き出し自選や面白い読み物を載せている文芸ヌーですが、今回はヌーくんからのお許しをいただき、2024年5月19日(日)に開催された文学フリマ東京38の体験レポートをお送りしたいと思います~! ドンドンドンパフパフ~。 ということで、文芸ヌーとしては2022年11月20日の文学フリマ35以来、1年半年ぶり2回目の出場になります。高校野球の甲子園出場校みたいに書いてみました。 今回は以前に出版した『書き出し小説自選集①~②』に加え、202

        • 宣伝すれども家族にゃ内緒 〜仙台藩士 春の乱〜(タルク石&カズタカ)

          とつぜんですが、みんなさん、せんだい、というところをごぞんじですか? ぎうたんとか、ずんだーもちとか、おいしいものがいっぱいある、いいばしょです。 せんだいには「せんだいはんしー」というひとたちがいます。かきだししおせつがだいすきな、おもしろいおにいさんたちです。 こんかいのヌーたちのごほんを、せんだいはんしーのおふたりが、あちこちにもちはこんで、せんでんしゃしんをとってくださいました。 ヌーはとてもうれしかったので、それをおまとめして、れきしにのこしてもらうことにしました。

        月桂樹は夜も囁く(タルク石)

          「Not enjoy」(ベランダ)

           午前2時、ホステスが、他のホステスとの髪の引っ張り合いの、くんずほぐれつの喧嘩をした後に、憤怒と後悔の念をまといながらハイヒールを手に持って雨のなかうつむいてヒモの男が待っているマンションに帰る。そんな時間だ。東京都あきる野市、小さな雑居ビルの4階に位置する「Not enjoy」はまだ煌々と窓から光が刺している。偏差値32、私立表面張力ギリギリ大学の飲みサー兼テニサーの幹事長を務める俺はじっと看板版を見つめた。昨日も朝まで呑んで17時まで寝ていたので全然眠くない。意を決して

          「Not enjoy」(ベランダ)

          橋の上(カズタカ)

          会社帰りにコンビニに寄り、飲みたいわけでもないコーヒーを買った。立ち読みをした後ろめたさを埋める為だ。BLUE GIANTは相変わらず面白い。コーヒーは飲みたいわけではなかったけれど、飲んでみると当たり前のように温かく、ちゃんと美味しい。これがそこらじゅうで買えるんだから、良い時代になったもんだと、何度も思った感動に「偉そうだな」と自身ツッコミを入れる。 車通りの多い道を自宅に向かって歩く。夜だというのにトラックの多いこと。少し前は殆どのトラックの座席後ろにONE PIEC

          橋の上(カズタカ)

          ダンヒル(puzzzle)

           お得に機種変更するなら「今」を逃すともったいない!その封筒の色を見ただけで携帯会社からのDMであることが分かる。前回機種変更してから既に3年が経過していた。そろそろ変更を検討してもいいのかもしれないが、通信速度、音質、画質、何においても不満はないのだ。健康管理なんてスマホに求めていない。それでも「お客様限定クーポン進呈!」には多少惹かれ、開封くらいしてみようかと手をかけた。OPENと書かれたのりしろ部分にはミシン目が引かれミリミリミリと簡単に開封することができた。  新料金

          ダンヒル(puzzzle)

          ぼくのことを好いてくれるひとはみんないいひとだよ(葱山紫蘇子)

           ぼくのことを好いてくれるひとはみんないいひとだよ。本当だよ。藤元くんは家の前まで行っても水をかけてきたりしないよ。藤元くんはぼくの席の隣りの人で、クラスで1番仲がいいよ。いつも教科書を見せてくれるし消しゴムも貸してくれる。藤元くんはいつも何にも喋らないけど藤元くんは中条あやみが好きだよ、スマホの待ち受けにしてた。ぼくは藤元くんが好き。  鷲原くんも好きだよ。鷲原くんはいつもぼくのことを褒めてくれるよ。マサオ、お前は中学3年になっても、とうとう九九を覚えられなかったが体が大き

          ぼくのことを好いてくれるひとはみんないいひとだよ(葱山紫蘇子)

          なんだ、夢か(紀野珍)

           ▼夢リセット後①  ——目が覚めた。  カーテンに漉された陽光のゆらめく室内。ベッドに横たわる自分。枕もとのスマホが鳴らすアラーム音。喉の渇き。この状況を俺は知っている。いや、知っているだけじゃない。体験した。それほどまでにリアルな既視感があった。  寝たままでスマホを探り当て、アラームを止める。日付を確認する。二十三日。土曜日。いまの動作にも覚えがある。さっき見ていた夢、そのなかで同じことをした。  ——呪文を唱えてみないか。  夢で、泉は言った。言われて、自分はそうし

          なんだ、夢か(紀野珍)

          『美猿が来る』(正夢の3人目)

           美猿が来た。    その日、秋も深まり始めたとある一日は、何の面白みもないほど平日な、ただ消化されるだけの一日として始まった。  朝というのは思ったよりも喧しい。街行く足音、どこかの誰かの話し声、行きかう車のエンジン音。それぞれがそれぞれの「いつも」を動かしだし、それがひとつの喧騒という名の塊へと変わる。街はひとつの生き物として躍動を始める。  その日のY県O町も変わらず「いつも」を動かし始めた。昨日とも一昨日とも一年前とも変わらない「いつも」。誰もが今日を「いつも」だと信

          『美猿が来る』(正夢の3人目)

          コミュニティのノート(インターネットウミウシ)

          キックの鬼💸お金配りトレーダー @onikick9999 友達とワインバルで意見交換会。隣の席にめっちゃ美人の3人組がいたので、声かけたらあっさり連絡先交換できてウケたwwww 人生余裕すぎwwww 午前4:33 2023年12月26日 2件の表示 えぐろっきー @xhheyaksghwa1jda ちょww俺のやつまとめ記事になってるんだがwww 「女の人が変な男にナンパされてる…」見かねた店員が男に注意したところ……?勇気ある居酒屋店員の行動に「正論!」「出禁にして正解

          コミュニティのノート(インターネットウミウシ)

          書き出し自薦・鯨谷いさなの5作品(鯨谷いさな)

          皆様初めまして。Twitterで偶然出会った書き出し小説のおもしろさに心を奪われて投稿を始めた鯨谷いさなと申します。どなたかに推薦していただくスタイルの自選ですが、この度は勝手に名乗りを上げさせていただきました。 というのも投稿を始めたのと自選集2の発売がだいたい同じ頃で、いつかは載れたら、と憧れていました。なので今回を逃すとしばらく間が空くというお知らせを見て、居ても立っても居られない、けどこんなレジェンドの方々の中で手を挙げるとか大それたことはできませんよ!という思いとの

          書き出し自薦・鯨谷いさなの5作品(鯨谷いさな)

          片思いのはなし(もんぜん)

          中学一年生から高校三年生まで6年間、片思いをしていた。 相手は、中学一年生のころ、席が隣だった女の子。 授業中、ノートの片隅に書いた落書きを見せたり、変な顔をしたり、いつもふざけあっていた。よく笑う子だった。 ある日、数学の授業が自習になった。 自習時間特有のざわめきが教室を包んでいた。誰も勉強なんかしていない。 僕は消しゴムに彼女の似顔絵を書いていた。少しだけ変な顔にして、笑わせようと思った。 でも半分ぐらい書いたところで、彼女が僕に顔を近づけてきて、声をひそめて言った

          片思いのはなし(もんぜん)

          書き出し自選・不眠の5作品(不眠)

          大体の人は初めまして。一部の人はお久しぶりです。 書き出し小説大賞が始まった序盤に細々と送らせて頂いておりました不眠です。 twitterのアカウント名を適当に不眠なんかにしたせいで、疾患や精神についてのアカウントにフォローされがちです。 この度はヌーちゃんからお声掛けを頂きまして、自選に参加させて頂きました。  当時、天久さんに「常に採用のボーダー上で待機しつつ時に鮮やかな秀作を繰り出す」と寸評を頂いた時は、喜びとともに「俺いつもギリギリやないか…。」という焦燥を感じたこ

          書き出し自選・不眠の5作品(不眠)

          書き出し自選・ぴすとるの5作品(ぴすとる)

          安心して下さい 履いてますよ (全裸で頭に乗せたハイヒールを指差して) どーも、書き出し作家のぴすとるです。 獄中から失礼いたします。 (深く長いおじぎ) 僭越ながら今回書き出し自選を書かせていただきました。読んでいただき光栄です。 (おじぎでぶち撒けた空き缶をランドセルに戻す) 実は以前、他の作家さんからもお願いされていたのですが、みなさんの自選集がどれも素敵で「こんなの俺には絶対書けない!紙の鍵盤じゃ指が沈まない!」と逃げてました。 しかし今回文芸ヌーの中の人「ヌ

          書き出し自選・ぴすとるの5作品(ぴすとる)

          書き出し自選・茂具田の5作品(茂具田)

          お待たせいたしました。いや、お待たせしすぎたかもしれません。茂具田(もぐた)です。 (ダリみたいなヒゲ面に燕尾服で登場) つーかアンタ誰?と思う令和キッズも多いと思うので私の書き出し歴をお伝えしますと今は昔、第53回で初採用され以降5年ほど参加していました。 実のところ自選を書いて欲しいというお声がけは数名の方にいただいていたのですが、書き出しの投稿をしばらくお休みしていたので、その時はなんだかおこがましい気がしたのと単純に長文を書く気がしなかったのでお断りしてしまいまし

          書き出し自選・茂具田の5作品(茂具田)