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天文学の話

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天文学に関連した内容を紹介していくマガジンです。内容は一般向けから、大学院生向けまで。
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『現代天文学入門』中間試験2024

『現代天文学入門』中間試験2024

今年も学部生の教養科目向けに『現代天文学入門』の講義を開講しており、中間試験を実施しました。ちなみに、2023年の中間試験の問題はこちら。

そして、2024年の試験問題はこちらです。

第一問は、「天文学は2000年以上の長い歴史を持っているけど、特に近年の天文学の発展は目覚ましいのは何故か?過去の天文学の歴史と比較して議論せよ」という問題です。近代科学の始まり、その後の科学技術水準の向上、国家

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「宇宙空間に位置エネルギーは存在するのか?」

「宇宙空間に位置エネルギーは存在するのか?」

以前、影響力の有名人が「位置エネルギーは存在しない」と発言して、物理学者の方々から総ツッコミを受けるという話がありました。

「宇宙空間には位置エネルギーが存在するのか」という問いに答えるためには、まず「位置エネルギー」が何かを明確にする必要があります。

「位置エネルギー」とは、物体の位置や状態によって決まるエネルギーの一種です。重力場における位置エネルギー、クーロン力が作る位置エネルギー、弾性

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お便り「宇宙に関する情報や発見の中で、到達するのに特に大きな革新や挑戦が必要だったのは、どのようなものですか?」

お便り「宇宙に関する情報や発見の中で、到達するのに特に大きな革新や挑戦が必要だったのは、どのようなものですか?」

個人的には地動説の確立を推したいです。

古代ギリシャ時代から16世紀まで、天動説と呼ばれる宇宙観が主流でした。これは、地球が宇宙の中心であり、太陽や惑星が地球の周りを回っているという考え方です。しかし、ポーランドの天文学者ニコラウス・コペルニクスは、地動説を提唱し、天文学に革命をもたらしました。

コペルニクスは、太陽が宇宙の中心であり、地球を含む惑星が太陽の周りを回っているという地動説を唱えま

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宇宙論で誤解されがちなこと

宇宙論で誤解されがちなこと

私の専門は宇宙論、特に観測的宇宙論です。宇宙論は宇宙の起源や進化、構造、さらには宇宙の終焉などを探求する科学分野です。壮大な世界を取り扱うからこそ、一般の人に興味をもってもらいやすい一方で、誤解をもたれやすい分野でもあります。そこで、いくつか誤解されがちな内容を取り上げていきたいと思います。

1. 宇宙は「ビッグバン」という『爆発』によって誕生した。

私達の住む宇宙は現在、膨張を続けています。

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「宇宙にある何かを好きなところから好きな手段で計測し正確な結果を得られる機会を神から一回だけ与えられたら何をどこからどのように計測したいですか?」

「宇宙にある何かを好きなところから好きな手段で計測し正確な結果を得られる機会を神から一回だけ与えられたら何をどこからどのように計測したいですか?」

とてもシンプルで、かつそこまで面白くない回答かもしれませんが、「宇宙に存在する星の距離」を一つ一つ測定してみたいです。例えば、我々にとって最も近い恒星は「太陽」ですが、太陽までの距離は約1億5千万㎞です。

太陽と地球の距離が分かると、「年周視差」と呼ばれる方法を使って、およそ1000光年程度くらいまでの星の距離を測定することができます。年周視差を用いた距離測定に関しては、以前、記事を書いたのでそ

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自分の論文を分かりやすく解説してみる

自分の論文を分かりやすく解説してみる

今回は自分の論文を可能な限り分かりやすく解説してみる試みです。

私が最近発表した論文は、2023年にPhysical Review Dから出版された"Impact of dark matter-baryon relative velocity on the 21-cm forest"です。

現在の宇宙には「電磁波は放射しないけど、重力的な相互作用をする」暗黒物質が存在しています。暗黒物質は銀河

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宇宙の加速膨張でエネルギー保存則が破れている!?

宇宙の加速膨張でエネルギー保存則が破れている!?

「宇宙の加速膨張で、宇宙の質量は増えますか?」という質問をいただきました。この質問について考えていきましょう。

現代では超新星の観測や宇宙マイクロ波背景放射による観測から、宇宙は加速膨張しているということが示唆されています。これは宇宙論研究者のみならず、物理学を少し勉強したことのある人にとっては驚きの結果です。一般相対性理論によると、時空と物質は密接に結びついており、重力とは時空の歪みであると理

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宇宙の端っこまでの距離は138億光年??

宇宙の端っこまでの距離は138億光年??

友人から以下の質問を受けました。

「宇宙年齢は138億歳なので、我々が観測できる宇宙は138億光年か?」

現在、我々が観測できる最遠方の宇宙は、ビッグバンの名残である宇宙マイクロ波背景放射(CMB)で、これは宇宙が約38万歳のときの姿です。現在の宇宙年齢が約138億歳であることを考えると、CMBは138億年前の宇宙の姿を見ているというわけです。

さて、その内容を踏まえた上で冒頭の質問に戻ると

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『宇宙のこども時代ってどうだった??』

『宇宙のこども時代ってどうだった??』

現在、日本に帰国中で、沖縄に帰省中なのですが、地元沖縄の沖縄市コザ銀天街にて『宇宙のこども時代ってどうだった?』というテーマで小学生相手に講演してきました。定員10名に対して満員となり、保護者の方も併せると20名程度参加していただきました。

小学生相手にどういう講演をしたら良いのか色々と悩むところで、あまり難しすぎる話はダメだけど、一方で、「分からない」という経験を大事にしてもらいたいということ

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宇宙での距離測定③

宇宙での距離測定③

これまで2回に渡って、宇宙での距離測定について紹介してきました。今回は最終回です。

過去2回の記事では、視線速度を用いた距離測定、セファイド型変光星を用いた距離測定について紹介しました。今回は超新星を用いた距離測定について紹介します。

そもそも、超新星(supernova)とは何でしょうか?

天文学辞典によると、超新星とは

大質量星や中質量の近接連星が起こす大爆発により突然明るく輝きだす天

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宇宙での距離測定②

宇宙での距離測定②

前回、年周視差を用いた宇宙での距離測定について紹介しました。https://note.com/bukuro1029/n/ncc8920474e51

今回は、宇宙における距離測定として、「星の明るさを利用する」方法をご紹介いたします。

今回、キーワードとなるのは、「星の見かけの明るさと距離」と「変光星」です。

まず、「星の見かけの明るさと距離」について以下の図を御覧ください。

例えば、ろうそ

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宇宙での距離測定①

宇宙での距離測定①

果てしなく広がる宇宙。太陽系から最も近い恒星であるアルファ・ケンタウリ星ですら光の速度で約4年、すなわち4光年かかる場所にある。我々の住む天の川銀河は直径10万光年程度と考えられている。

さて、当たり前の様に近くの星や銀河の大きさを出したが、ここで疑問に思って欲しい。「どうやってその距離測ったの?」と。光の速度で4年や10万年かかる大きさだと、さすがに我々が自ら行って距離を測るのは現在の科学技術

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宇宙論の教科書

宇宙論の教科書

総研大の天文学専攻が大学院生に薦める天文学のテキストがまとめられたウェブサイトがある。どれも名著ばかりで素晴らしいテキストの数々である。

しかし、こちらで紹介されているテキスト、大学院で初めてその分野を学ぶ人向けかと言われると、そうではない気もする。特に私が専門の宇宙論に関しては難易度の高いテキストが並んでいる。ということで、私の独断と偏見で、大学院で宇宙論を学び始める学生にお薦めするテキストを

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天文学で見かける三角関数

天文学で見かける三角関数

SNSで三角関数が話題になっている。「三角関数」という言葉が瞬間的にトレンド入りもしたようだ。この数日で、数年分の「三角関数」という単語を見たと思う。

きっかけは某議員の「高校では三角関数よりも金融経済を優先すべき」という発言とのこと。その発言に対するツッコミは多くの人がやっているので、ここではわざわざ発言へのツッコミはいれない。

それよりも天文学で三角関数が現れる場面はどういうのがあるだろう

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