云南きのこ老師

中国の云南大学で大学教員をやっています。専門は天文学、特に観測的宇宙論。 キーワード:…

云南きのこ老師

中国の云南大学で大学教員をやっています。専門は天文学、特に観測的宇宙論。 キーワード:宇宙再電離、21cm線、SKA、暗黒物質、機械学習。 一般向けにオンラインで天文学講座やっています。 https://online-astronomy.peatix.com/

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  • 天文学の話

    天文学に関連した内容を紹介していくマガジンです。内容は一般向けから、大学院生向けまで。

  • 雑感

    特にテーマは決まっていないが、徒然なるままに雑感を書いていく。

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    Diracの"General theory of relativity"を読んでノートを作っていく。

最近の記事

『現代天文学入門』中間試験2024

今年も学部生の教養科目向けに『現代天文学入門』の講義を開講しており、中間試験を実施しました。ちなみに、2023年の中間試験の問題はこちら。 そして、2024年の試験問題はこちらです。 第一問は、「天文学は2000年以上の長い歴史を持っているけど、特に近年の天文学の発展は目覚ましいのは何故か?過去の天文学の歴史と比較して議論せよ」という問題です。近代科学の始まり、その後の科学技術水準の向上、国家として天文学にお金を費やすことができるようになった、人々の宇宙への関心の向上など

    • 宇宙とコミュニタリアニズムと個人の話

      我々の住む宇宙には星や銀河などが数多く存在します。これらがどの様に作られたのかを宇宙論的に理解するためには「階層的構造形成」というシナリオを考える必要があります。 まず、入れ物である「宇宙」がどの様なものであるかを規定するために、フリードマン方程式を考えます。フリードマン方程式は一般相対性理論の中核を担う「アインシュタイン方程式」で「一様等方宇宙モデル」を考えることによって得られる方程式のことであり、次の形で与えられます。 $$ \begin{aligned} & \le

      • 「宇宙空間に位置エネルギーは存在するのか?」

        以前、影響力の有名人が「位置エネルギーは存在しない」と発言して、物理学者の方々から総ツッコミを受けるという話がありました。 「宇宙空間には位置エネルギーが存在するのか」という問いに答えるためには、まず「位置エネルギー」が何かを明確にする必要があります。 「位置エネルギー」とは、物体の位置や状態によって決まるエネルギーの一種です。重力場における位置エネルギー、クーロン力が作る位置エネルギー、弾性エネルギーなどが代表的な例です。これらのエネルギーは、物体の位置や状態が変化する

        • お便り「宇宙に関する情報や発見の中で、到達するのに特に大きな革新や挑戦が必要だったのは、どのようなものですか?」

          個人的には地動説の確立を推したいです。 古代ギリシャ時代から16世紀まで、天動説と呼ばれる宇宙観が主流でした。これは、地球が宇宙の中心であり、太陽や惑星が地球の周りを回っているという考え方です。しかし、ポーランドの天文学者ニコラウス・コペルニクスは、地動説を提唱し、天文学に革命をもたらしました。 コペルニクスは、太陽が宇宙の中心であり、地球を含む惑星が太陽の周りを回っているという地動説を唱えました。これは、当時としては非常に大胆な考えであり、あまり相手にされませんでした。

        『現代天文学入門』中間試験2024

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          宇宙論で誤解されがちなこと

          私の専門は宇宙論、特に観測的宇宙論です。宇宙論は宇宙の起源や進化、構造、さらには宇宙の終焉などを探求する科学分野です。壮大な世界を取り扱うからこそ、一般の人に興味をもってもらいやすい一方で、誤解をもたれやすい分野でもあります。そこで、いくつか誤解されがちな内容を取り上げていきたいと思います。 1. 宇宙は「ビッグバン」という『爆発』によって誕生した。 私達の住む宇宙は現在、膨張を続けています。ということは時間を遡っていくと宇宙はどんどん小さくなっていき、ある瞬間には宇宙の

          宇宙論で誤解されがちなこと

          「科学で説明のつかないことはあるのか?」

          「科学で説明のつかないことはあるのか?」という質問をもらったので、これについて考えてみましょう。 「科学で説明がつかないこと」を考える前に、そもそも「科学とは何か?」について考えるところから始めた方が良さそうです。 科学とは、理論があり、それを検証する実験の両輪があることで成り立ちます。具体的には、科学では以下のアプローチが取られます。 1・帰納的アプローチ 帰納的アプローチでは、具体的な例から法則を発見する方法です。例えば、惑星の運動を理解するに辺り、ヨハネス・ケプ

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          「科学で説明のつかないことはあるのか?」

          「宇宙にある何かを好きなところから好きな手段で計測し正確な結果を得られる機会を神から一回だけ与えられたら何をどこからどのように計測したいですか?」

          とてもシンプルで、かつそこまで面白くない回答かもしれませんが、「宇宙に存在する星の距離」を一つ一つ測定してみたいです。例えば、我々にとって最も近い恒星は「太陽」ですが、太陽までの距離は約1億5千万㎞です。 太陽と地球の距離が分かると、「年周視差」と呼ばれる方法を使って、およそ1000光年程度くらいまでの星の距離を測定することができます。年周視差を用いた距離測定に関しては、以前、記事を書いたのでそちらを参考にしてもらえればと思います(*1)。 しかし、宇宙の広さを考えると、

          「宇宙にある何かを好きなところから好きな手段で計測し正確な結果を得られる機会を神から一回だけ与えられたら何をどこからどのように計測したいですか?」

          自分の論文を分かりやすく解説してみる

          今回は自分の論文を可能な限り分かりやすく解説してみる試みです。 私が最近発表した論文は、2023年にPhysical Review Dから出版された"Impact of dark matter-baryon relative velocity on the 21-cm forest"です。 現在の宇宙には「電磁波は放射しないけど、重力的な相互作用をする」暗黒物質が存在しています。暗黒物質は銀河の回転曲線の観測を説明したり、現在の宇宙の構造形成を説明する上でも重要な物質なの

          自分の論文を分かりやすく解説してみる

          宇宙の加速膨張でエネルギー保存則が破れている!?

          「宇宙の加速膨張で、宇宙の質量は増えますか?」という質問をいただきました。この質問について考えていきましょう。 現代では超新星の観測や宇宙マイクロ波背景放射による観測から、宇宙は加速膨張しているということが示唆されています。これは宇宙論研究者のみならず、物理学を少し勉強したことのある人にとっては驚きの結果です。一般相対性理論によると、時空と物質は密接に結びついており、重力とは時空の歪みであると理解されます。宇宙空間を入れ物として考えると、その入れ物の中に星や銀河、ダークマタ

          宇宙の加速膨張でエネルギー保存則が破れている!?

          大学に合格して、ちょっと時間ができたあなたへ

          大学に合格した皆さん、合格おめでとうございます! 新しく始まる大学生活に期待で胸をときめかせているのではないかと思います。私も大学の理学部物理系に入学した時の気持ちを思い出しました。 さて、大学入学までの間に少し時間ができると大学入学以降の準備をしたくなりますよね。私は大学に合格したあと、「ファインマン物理学 力学」を読んでいました。力学は物理学科に入学した学生全員が大学1年生の時に学習する内容であり、特に「ファインマン物理学」は長年、多くの学生に読まれてきた教科書です。

          大学に合格して、ちょっと時間ができたあなたへ

          理学部物理系新入生に勧めたい本

          大学入試合格発表に季節になりました。 ということで、今回は理学部物理系の新入生に勧めたい本を紹介していきたいと思います。 まず、大学1年生で最初に習う物理学の分野は「力学」です。ということで、おすすめの力学の教科書を何冊か紹介します。 まず、入門的テキストとしては 『物理学レクチャーコース 力学』 『物理入門コース 力学』 『物理学序論としての力学』 がオススメです。副読本としては、『ファインマン力学』もオススメです。 難易度がグッと上がりますが、意欲的な人た

          理学部物理系新入生に勧めたい本

          「なぜ重力を発見するに至ったのか?」に対する回答

          「なぜ、重力を発見するに至ったのか?」という質問が届きました。 とても良い質問ですね。これは中世の時代までの天文学の歴史とも密接に結びついたテーマです。 天文学の歴史は古く、少なくとも今から2000年前には古代ギリシャで、天体の運動について論じられていました。さて、古代ギリシャで論じられた天体の運動とは、「地球を中心としてその周りを太陽が周っている」というものです。いわゆる天動説ですね。この考え方はその後、16世紀−17世紀まで続きました。地球の周りを太陽が周っているとい

          「なぜ重力を発見するに至ったのか?」に対する回答

          科学者の責任と市民の責任

          最近観た『アインシュタインと原爆』が考えさせられる作品でした。この作品は、アインシュタインの生涯を著したドキュメンタリードラマです。アインシュタインは多くの方がご存知の通り、相対性理論の提唱者です。相対性理論の中でもとりわけ有名な式が、「質量とエネルギーの等価性」を示す $$ E=mc^2 $$ です。この式は、質量はエネルギーに転化した場合、莫大なエネルギーを取り出せることを示す式であり、その後、オッペンハイマー率いるマンハッタン計画にて、原子爆弾開発の理論的支柱ともな

          科学者の責任と市民の責任

          熱力学という美しい理論体系

          最近、熱力学を勉強し直している。自分の研究で使うため?いや、違う。趣味だ。完全に趣味で熱力学を勉強し直している。 大学時代に熱力学や統計力学の勉強はした。しかし、いまいち掴み様のない物理学の理論、それが熱力学だと思う。「熱」「温度」「エントロピー」、日常生活でも名前を耳にする単語だ。しかし、その物理学的な意味を掴むのは難しい。従来の熱力学の教科書だと、どうもすっきりしない記述であることも多い。 しかし、日本には田崎先生の『熱力学』がある。この教科書では、どうもすっきりしな

          熱力学という美しい理論体系

          宇宙の端っこまでの距離は138億光年??

          友人から以下の質問を受けました。 「宇宙年齢は138億歳なので、我々が観測できる宇宙は138億光年か?」 現在、我々が観測できる最遠方の宇宙は、ビッグバンの名残である宇宙マイクロ波背景放射(CMB)で、これは宇宙が約38万歳のときの姿です。現在の宇宙年齢が約138億歳であることを考えると、CMBは138億年前の宇宙の姿を見ているというわけです。 さて、その内容を踏まえた上で冒頭の質問に戻ると、答えはNoです。 例えば、「光の速さで1年かかる場所までの距離はどれくらいか

          宇宙の端っこまでの距離は138億光年??

          科学研究とお金

          最近、以下の本を同時並行で読んでいる。 インベスターZ (全21巻) Kindle版 https://amzn.to/3tkbMNw @amazonより 学術出版の来た道 (岩波科学ライブラリー) https://amzn.to/48mSBRS @amazonより 『インベスターZ』は投資を題材にした漫画で、「ビジネス」や「お金」の話である。一方、『学術出版の来た道』は、学術出版社の歴史を巡るテーマである。 ちょっとここで学術出版について補足しておきたい。研究者は自分

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