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問題を見つける前に必要なこと

研究者にとって大事なことは何だろう?

おそらく、研究者「以外」の方にとっては、「問題を解くこと」と思うかもしれない。確かに、それも大事だ。問題を解決した先に発展が待っている。

しかし、ちょっと待ってほしい。その問題はどこから出てきた?

日本の高校入試、大学入試では解くべき問題が与えられているので、あとはそれを解けば良い。問題の解き方は教科書や参考書に載っているので、あとはその解き方を暗記したり理解して、問題を解ける様に訓練する。

だが、研究の世界ではそもそも「問題を設定する事」自体が重要になる。むしろ、この部分が研究において一番重要で面白く、尚且つ、難しい部分ではないだろうか?

例えば「フェルマーの最終予想」という有名な数学の定理がある。この予想は17世紀にフランスの裁判官であるピエール・ド・フェルマーが余白に残した

$$
x^n+y^n=z^n (n\ge3)
$$

を満たす自然数の組$${x,y,z}$$は存在しないというものだ。フェルマー自身はこの証明を与えなかった。そして、多くの数学者がこの予想の証明に挑んでいったが、証明することなく倒れていった。それから300年以上の時が流れ、アンドリュー・ワイルズによって1995年についにこの予想が証明されて、「フェルマーの最終予想」から「フェルマーの最終定理」になった。この辺りの話は、サイモン・シンによる『フェルマーの最終定理』を一読するのをオススメする。

この話の重要な点は、300年以上も人々を魅了した問題を作ったというところだ。もちろん、フェルマーの最終予想を証明したワイルズは偉大である。しかし、証明しなかったとはいえ、この問題を生み出したフェルマーもまた偉大である。

もちろん、これは特殊なケースであり、実際の研究の現場では、数年から数十年スパンで解けそうな問題設定を行い、その問題に挑む。したがって、そのくらいの年月をかけて取り組むのに値する問題設定を行うのが重要である。

ここまでの話は、研究者ならよく聞く話である。しかし、ふと思ったのだが、そもそもどうやったら良い問題設定を行うことができるのだろう?

問題設定を行う前に、大前提として「何が重要か?面白いか?」という価値観を自分の中で持つ事が大事だと思う。例えば、私は最近、「情報」が重要だと思っている。高度に発達した情報社会においてその重要さは言うまでも無い。近年はAIの発展が目覚ましいが、これも統計に基づいた情報処理の一種だ。2022年のノーベル物理学賞は「量子もつれ」に対して与えられたが、量子もつれは量子コンピュータなどの量子情報と密接に結びついた考えである。また、生命はDNAに組み込まれた情報を次世代へと繋いでいくことで、生命の存続・発展を行っている。さらに最近では脳の認知メカニズムでも「統合情報理論」や「自由エネルギー原理」などが出てきており、学問の垣根を越えて「情報」がキーワードになっているため、情報が重要なテーマであることに賛同していただけるのではないだろうか?

しかし、自分の中で「何が重要か?面白いか?」という価値観があったととしても、そこから自分で問題を設定してアプローチしていくのは難しい。まずは問題を設定して、その後に物理学的アプローチ、情報理論的アプローチ、生物学的アプローチなど、色々なアプローチを試みていくのだが、それがまさに研究者のやっていることである。

話をまとめると、まずは自分の中で「何が重要か?面白いか?」という価値観があり、それをベースにして問題設定を行い、自分の興味あるアプローチをしていくというが研究である。したがって、まずは自分の中で核心となるものを見つけるのが重要であり、そういった核心を育むためには、常に世界や自然に目を向けて学び、思考することが必要なのではないだろうか。



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