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自分の論文を分かりやすく解説してみる

今回は自分の論文を可能な限り分かりやすく解説してみる試みです。


私が最近発表した論文は、2023年にPhysical Review Dから出版された"Impact of dark matter-baryon relative velocity on the 21-cm forest"です。

現在の宇宙には「電磁波は放射しないけど、重力的な相互作用をする」暗黒物質が存在しています。暗黒物質は銀河の回転曲線の観測を説明したり、現在の宇宙の構造形成を説明する上でも重要な物質なのですが、その正体は不明です。

話は変わって、現在の宇宙で観測できる最古の電磁波は「宇宙マイクロ波背景放射(CMB)」です。CMBはビッグバンの名残の光子であり、CMBの観測はビッグバンの証拠とも言われています。CMBが観測される時期のことを「宇宙の晴れ上がり」とも呼びます。これは、CMB以前の宇宙は観測することができなかったのですが、CMB以降の宇宙は観測できるようになったので、あたかも霧が晴れた様子を例えてこう呼ばれています。

さて、晴れ上がり以前の宇宙では光子とバリオン(ここでは陽子や電子と思ってください)が強く結びつきながら運動していました。また、この時代には暗黒物質も存在しており運動していました。そして、暗黒物質の運動速度とバリオン運動速度には速度差が存在します。この「暗黒物質とバリオンの速度差」が今回の論文のキーワードです。暗黒物質とバリオンの速度差が生じると、宇宙の構造形成が妨げられること先行研究によって示されていました(*1)。特に初代星や初期銀河が作られる時代にも影響を与える事が示されています。

今回の私の論文では、まさにそういった過去の宇宙において、"21cm吸収線(21cm forest)"と呼ばれる方法を使って、暗黒物質のバリリオンの速度差を確かめる方法を提案しました。21cm線とは、中性水素から放射されたり吸収される電波なのですが、この吸収線を利用するという方法です。

星や銀河は「暗黒物質ハロー」と呼ばれる構造の中で形成されるのですが、この暗黒物質ハロー内には中性水素も含まれています。ということは、中性水素からの21cm線を調べれば、暗黒物質ハローをトレースすることが可能です。注目したのは、暗黒物質とバリオンの速度差が暗黒物質の形成される数を抑制するため、観測できる21cm吸収線の数も少なくなるだろうと予想して実際に調べました。そして実際に21cm吸収線の数が弱くなることを確かめたのです。

暗黒物質とバリオンの速度差は理論的には予想されているけど、観測的にはまだ確かめられていません。そのため、どういう観測を行えば検証できるかを示すのは大事であり、この論文での私の行ったことは、まさにそういった方法の一つを提案したというものです。

いかがでしょうか?少しは雰囲気をつかめたでしょうか??

*1 ”Relative velocity of dark matter and baryonic fluids and the formation of the first structures”, Tseliakhovich and Hirata, (2010)

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