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桐野夏生の『だから荒野』を読んだ感想・自分探しの旅に出ても自分が変わらなければ何も変わらない

こんにちは、ミルクです。

今日は桐野夏生さんの
『だから荒野』の感想を書いてみたいと思います。

あらすじ

主人公は夫と大学生と高校生の2人の息子たち(健太と優太)と暮らす専業主婦の朋美。

彼女は46歳の自分の誕生日に、夫と息子たちからの仕打ちに耐えきれずに
何も持たずに、衝動的に夫の愛車で家出する。

朋美の46歳の誕生日だというのに、夫や息子たちからはプレゼントどころかお祝いの言葉すらない。

朋美はお誕生日のお出かけのために張り切ってお洒落したものの
彼らから「キモい」だの「ダサい」だのと酷い言葉を言われて気が滅入る。

挙げ句の果てに、
この日のために朋美が自分で予約したイタリアンレストランも一緒に行った夫や長男に貶されて・・・

とうとう朋美は家族からの
心ない屈辱に我慢できなくなり、堪忍袋の尾がきれて、
衝動的に自分が運転してきた夫の愛車に乗ってレストランを飛び出してしまう。

と、ここからが朋美の逃亡?生活の始まりだ。

『今まで家族のために一生懸命頑張ってきたつもりなのに、家族の誰も私のことを理解してくれない・・・』

遠くへ、遠くへ。
誰も行ったことのない遠くへ、行ってみたい。
そこに何があるのか、見届けたい (朋美)

夫は会社人間で家族のことは妻の朋美に任せっきり
息子たちの不甲斐なさも全て朋美のせいにする。

夫は妻の朋美にはケチなくせに外面がよく
週末はゴルフ三昧で自分の趣味には惜しげもなくお金を使う。

大学生の長男は恋人には気を遣って優しいのに、母親の朋美には辛辣な嫌味ばかりで優しさのかけらも感じられない。

あんなに可愛がっていた高校生の次男は今ではすぐに自室にこもってゲームばかりで

母親のことも”あんた”呼ばわりして、二言目には「早よ、死ねや」

確かにこんな仕打ちが毎日毎日繰り返されたら私だって家出したくなる。

そんな朋美が爆発した〜


もう知らんで!

朋美は結婚する前に付き合っていた男性が長崎に住んでいることを思い出して、発作的に彼に会おうと思い立ち、東京から長崎へ車で移動し始めるのだが、途中で車を盗まれたり、数々のハプニングに出くわす。

しかし、最終的にはヒッチハイクでなんとか長崎にたどり着くのだが・・・

結婚して46歳まで専業主婦として生きてきた朋美は
ある意味、世間知らずでお人好しだ。

長崎へ向かう旅の途中で、親切心を出したばっかりに人に騙されたり、
危ない目にもあったりするけれども、起こってしまったことには固執せずに
クヨクヨしないで次の行動に移していく。

そんな大胆な行動を起こす朋美とは対照的に

『そんなことでは世間で、社会では通用せんぞ!』といつも朋美を馬鹿にしていた夫の浩光は
急に妻が家を出て行ってしまうと、どうしていいか分からなくて
おろおろしてばかりで失態を冒して、とても無様だ。

でも男のプライドが邪魔をして
浩光はなかなか朋美に「帰って来て欲しい」と言えない。


最終的には元の鞘におさまるのだけれども
(ネタバレすみません😝)

朋美は今回の一人旅でいろいろな経験からたくましくなっていく・・・

そして朋美はこれまでみたいに受け身でなくて
どんどん能動的に行動的になっていく。

夫や息子たちもあえて口には出さないが、朋美の存在の大きさや、有り難さを改めて感じたのだ。


『雨降って地固まる』

時々は大雨を降らすのも悪くない(笑)

朋美を長崎まで追いかけて来た次男の優太が言った言葉が印象的だった。

実は優太は東京の高校が自分に合わなくて悩んでいた。
自室でゲームばかりしていたのも、反抗的だったのも
誰にも本心を相談できなかったから・・・
そして朋美を追いかけて来た長崎で、のんびりした環境にほっとしたのか
優太はこのまま長崎で暮らして長崎の高校に通おうかとも考えていた。

そんな優太が朋美に言う。

『あのさ、お母さん。
俺、東京に戻ってもいいよ』
『何か変わるかなと思ったけど、どこにいても同じかもしれないし』


何かから逃げても
(瞬間的には逃げることが必要な時もあるだろう)
逃げ続けていたら何も変わらない。


自分の中身が変わらなければ、根本的には何も変わらない。

一時は離婚か、別居して長崎に住もうかと思っていた朋美も
実は優太と同じことを感じ始めていた。


この小説のタイトルにもある『荒野』の意味

夫や息子たちから逃げても、それは荒野が続くだけで沃野にはつながらない。

沃野は自分で耕さなければ手に入れることはできないと気づいた時に
朋美もまた東京の家族の元に戻ろうと決心できたのかもしれない。


私は朋美のように家族をほったらかしにして
実際に長期間 家出したことはないけれども、
一人になりたいと思ったことは何度かある。

そんな時に「何が私を留まらせてくれたのか?」と思い返してみると

やはり自分の気持ちを変えたり、見方を変えてみたりして
自分自身が変わったからだったんだと気がついた。

相手に代わって欲しいと望んでもそれは難しい。
けれども自分を変えることは自分で出来る。
いきなり全てを変えることは難しくても
少しずつ変えることがやがては大きな変化になっていく。

小さなことからコツコツと(西川きよしさんみたいだけど😆)

私の先に広がるのは荒野ではなく沃野にしたいから
そのためだったら、喜んで変わろうと思う。


最後までお読みくださりありがとうございます。
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