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変化を恐れず、転がり続ける米津玄師に苔むさず。

「米津玄師の歌詞を因数分解して分かったこと」<第16章>

*プロローグと第1章〜15章は下記マガジンでご覧ください。

「転がる石に苔むさず」と言う諺には、全く違う2つの解釈がある。

 ひとつは、「石の上にも3年」と同義で「何事も腰を落ち着けてあたらないと身につかず大成できない」の意。国歌にまで「苔のむすまで」と歌われている、極めて日本的な「忍耐」と「保守」を美徳とする考え方だ。

 英文の「A rolling stone gathers no moss.」もイギリスでは同様の意味らしい。

 しかし、アメリカでは全く解釈が違い、「絶えず動き変化し続ける人は、錆びつくことも時代遅れになることもない」と言うポジティブで革新的な意味合いとなる。

 強迫観念のように「変わらなければ」と思い続けてきた米津玄師は、紛うことなきアメリカ的解釈の「転がる石」だ。荒波に飛び込み傷だらけになりながらも、それを輝きに変えたきた宝石のごとき「転がる石」だ。

君がつけた傷も輝きのそのひとつ

 ちなみに、米津玄師が歌詞に使用している宝石は6種類だが、その全てが貴石(ダイヤモンド・ルビーなどの希少で高額な天然石)ではなく、半貴石である。また、金、銀、プラチナなどの貴金属類は一切登場していない。

古い順に並べると、

瑪瑙(めのう):首なし閑古鳥
琥珀(こはく):ViVi
フローライト:フローライト
アイオライト:Loser
翡翠(ひすい):翡翠の狼
クリスタル:カムパネルラ

 ここで、Loserに出てくる”アイオライト”について少々触れておこう。

 アイオライトは少しくすんだスミレ色の石で「進むべき道を見つけ、目標を達成する道しるべ」となるパワーストーンとして、”迷い、希望を失った時に身に付けると良い”とされている。

「いつかは出会えるはずの
  ”黄金の色したアイオライト”を  
 きっと掴んで離すな」

 この「黄金の色したアイオライト」は、実在はしているが大変希少なものらしい。↓

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 米津が、あの”Loser”で「きっと掴んで離すな」と叫んだ石の由来を知ると、この巧緻を極めた言葉選びに改めて感服するしかない。彼の歌詞には一字一句、確かな命が宿っている。

人も時代も変わっていくもの

自分に飽きたくないという気持ちが強いです
 Yahooのインタビューで米津玄師は「変わっていくことを認めることが重要」と語っている。また、別のインタビューでは、「”時代に迎合する”と揶揄する言葉もありますけど、ちゃんちゃらおかしい。(中略)僕はずっと迎合し続けてきました。誇りを持って」と胸を張る。 

 時代や社会の変化、あるいは心身の経年変化は不可避である。

それを、常に的確に見据えて、無駄に抗わず冷静にアジャストし「変わっていくこと」を是としている米津玄師。
 彼は”無常”、”変身”などを含む「変化」関連の言葉を22曲で24回使用している。

 ”PLACEBO”と”まちがいさがし”では「変わり果てる」と言う最上級のワードで、すべてを「一変」させた恋の眩惑を表現し、”フローライト”では誰かによってもたらされた「変化」を歓迎している。

何もかもがいつの間にか
変わり果てる魔法

(PLACEBO)

君の目が貫いた
僕の胸を真っ直ぐ
その日から何もかも
変わり果てた気がした

(まちがいさがし)

君が思うよりも君は
僕の日々を変えたんだ

(フローライト)

 また、「あなたもわたしも 変わってしまうでしょう」と”変化の肯定”そのものがテーマとなっている”カナリヤ”。

「どんな今も呑み込んでいけば過去に変わっていく。進む方はただひとつ」と崖っぷちの変化の中を突き進んでいく”UNDERCOVER”。

 そして、米津の基本理念でもある「遠くへ行け」が唯一歌詞に盛り込まれている”ピースサイン”では「変わっていく僕を笑えばいい」と歌い、「さらば掲げろピースサイン。転がっていくストーリーを」と結ばれる。まさに、転がる石に苔むさず

 この曲には米津の「変化」に対する思想がギュッと凝縮されているような気がする。

変わらない何かって何?

一方で「不変」を願い「変化」を嘆いている歌詞もある。

どれだけ背丈が変わろうとも
変わらない何かがありますように

(灰色と青)

君のその笑顔が
明日も明後日もそのまた先も
変わらなければいい
(ブルージャスミン )

変わっちゃった二人が
分かち合うことなど
あり得ないと気づいた

(neonsign)

この落書きみたいな毎日が
年老いたその時も変わらずに
褪せた色に続いていけばいい

(トイパトリオット)

すべて変わってしまった
砂が落ちた 生活が落ちた

(街)

 現状に満足し幸せならば何も変わって欲しくないと思うのは人情だ。あらゆる変化に諸手を挙げるのは難しい。こうして変わっていくものの中にある「変わらないもの」「変わって欲しくないもの」が浮き彫りになることで、本当に大切なものが見えてくるのだろう。

しかし、米津もツィッターで言及しているように、この世は諸行無常だ。

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現状維持とは退化と同じである

「変化を受け入れず、その場から動かないことは、現状維持ではなく後退を意味している
ゲーテ、ナイチンゲール、松下幸之助、ウォルトディズニーなど多くの偉人が同じ意味の格言を残している。何十年か後に米津玄師の名もここに加わるかもしれない。

 さあ、グズグズはしていられない。年齢や立場や職業に関係なく、刻々と変化する毎日を前進し、1ミリでも遠くへ行こうではないか。

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*文中「アイオライト」の資料出典はこちら
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