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アンコール

10
普通の環境で普通に育ち、真面目な好青年として会社でも上手くやっている主人公。 何不自由なく、平穏に生きて行くはずだった。 だけど… ー … 彼女を作って結婚をして家族をもうけて……
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アンコール 10 「不思議ちゃん」

アンコール 10 「不思議ちゃん」

 そうして、僕が独り暮らしをしている狭いアパートに辿り着くと、休日なのだからとはしゃぎ、持っていたコンビニ袋から焼酎のボトルを3本も取り出した。

 簡素なシングルベッドに、一人用のテーブル、カーペットだけはかろうじて敷いてはあったけれど、テレビもゲームも音楽を聴くような機器もない。
 仕事関係の資格を取る為の本やノートを片付けて、テーブルの上に大きさの違うグラスを二つ並べた。

 パソコンはあっ

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アンコール 9 【シロ】

アンコール 9 【シロ】

 朝に足を一歩踏み入れた夜、薄暗い静かな商店街の反対側の路地で、横に並んでビーチサンダルを引きずる彼女に問いかける。

 「あのさ、君の名前は?」
 「名前?何とでもどうぞ。貴方は?」
 「何とでも?ないのか?名前」
 「教えたくないの。貴方は、そうね、あたしの演奏のファンでしょう?」
 「まあ、そうだね。好きになったよ。歌声も、馬頭琴の音も、曲も」
 「あたしを今夜助けるし、ハイリブと呼ぶわ」

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アンコール 8 「できない」

アンコール 8 「できない」

 彼女も今日はもう帰るのだろう、と納得し、階段を上がったところで、もう二度と会うことはないだろうけれど、と心の中で呟きつつも、またね、と告げた。

 「ありがとう。気をつけて帰ってね」
 「ねえ、いつか行ってみない?モンゴル」
 「は?僕が?モンゴル?」
 「あたしのことを連れて行ってよ」
 「どうして、僕が君をモンゴルに連れて行くんだよ」
 「何度もあたしの胸を見たでしょ」
 「ちゃんと、目をそ

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アンコール 7 「サヨナラ?」

アンコール 7 「サヨナラ?」

 実は、彼女が演奏をしながら歌を歌っている時から気がついていた。

 真っ白なワンピースの胸元には、一輪だけ名も知らなぬ小さな花束の刺繍がしてあって、それを確認しようとすると、暗い店内でも下着が透けているのがわかってしまう。

ー すみれ色の、細かい花弁がびっしりと集まって出来ている、どこか寂し気な可愛らしい花だ。

 見たことがあっただろうか、彼女が刺繍を施したのだろうか、などと思い付くたびに目

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アンコール 6 「魅力的」

アンコール 6 「魅力的」

 店主は何も答えず、かわりに彼女がカウンターまでやって来ると、自分を貶した客だと言うのに頬に軽いキスを贈り、気をつけて帰って下さいね、と微笑んだ。

 客は、ポリポリとこめかみ辺りを指先で掻きながら、バツが悪そうな空気を蹴破るかのように、財布から札を数枚取り出すと彼女の着ているワンピースの胸元に捩じ込んで、そそくさと出て行った。

 「悔しくないのか?」
 「悔しくないよ。あたしは美人じゃないしね

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アンコール 5 「可愛くない」

アンコール 5 「可愛くない」

 その楽器はどうしたの、と、思わず口にしていた。

 詳しくはないけれど、高価なものなのではないだろうか、と思えた。
 ラーメン屋とベビーシッターのバイト代だけでは、1ヶ月の生活費ギリギリだろう。

 貯金をするタイプにも思えなかった、そんな彼女に、馬頭琴を購入することなど出来るのだろうか、と、失礼極まりないが、素直に疑問に感じたのだ。

 広くはない店内で、10人座れるか座れないかの、コの字形の

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アンコール 4 「馬頭琴」

アンコール 4 「馬頭琴」

 「…ラーメン屋か、ベビーシッターにでもなるつもりなのかい?」
 「将来の夢は、強い奥さんになることよ」
 「…好きになった男性には、夢を言わない方がいいかもしれないね」
 「そうかな?でも、愛する人がいなくちゃ、あたしの夢は叶わないのよね」
 「恋でもしたら?」
 「あたしは、あのコに恋をしているの」

 あのコ、と言うのはきっと人間のことを指してはいないのだろう。

 頬杖をついた彼女が、空い

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アンコール 3 「歌姫」

アンコール 3 「歌姫」

 そう、彼女は楽器を奏でて歌を歌う、そんな女性だった。
 自分とは正反対で、勉強なんてしたことがない、学校も嫌いだった、と言って笑う。

 中卒で、就職に役立つような資格も特に持ってはおらず、何たって、そもそもその気が微塵もないのだと言うことは雰囲気から伝わって来た。

 会社に勤められるような履歴書を書くことも出来ず、ボロアパートに住んでおり、この令和の時代にもまだ雨漏りをする天井が存在している

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アンコール 2 「彼女」

アンコール 2 「彼女」

 駅前の商店街にはドラックストアやコンビニ、弁当屋、小さなスーパーが何店か並んでいて、周囲にはマンションやアパートが並んでいる。
 その、明るい方ではなくて、隣駅まで続く道のある、暗がりになっている方へと行ってみると、あったのだ。

 看板はなかったけれど、地下に下りて行く階段があり、その窪みの終わりには木で出来たドアが見えた。
 バーなのかどうなのか、何故わかったのかと言うと、女性の歌う声が聴こ

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アンコール 1 「彼」

アンコール 1 「彼」

 二人の出会いのきっかけと言うのは、ありきたりかもしれないけれど、僕がとあるバーに飲みに行き、彼女を見かけたことからはじまった。

― けれど、僕にとっては特別な出会いであったことは確かで、ありきたり、と言う言葉では到底片づけられないものとなった。

 入社したばかりの会社の忘年会に参加をして、その帰りに飲み足りないと感じたので、一人暮らしをしていたアパートのある駅までたどり着くと、どこか近くで、

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