しののぬ

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【短歌日記】2023年8月前半

8月1日 見るだけで暑い暑い青い空 カーテン閉めても瞼閉じても 8月4日<バーベンハイマー騒動> キノコ雲 何色だろうとその下の 死と哀しみがうつらないのか 8月6日 左から右へと細かく揺れているあなたの瞳 嘘2秒前 8月11日 33度を超えると5分置き 1/1D5のSAN値チェック 「33度ごときでSAN値ww」 うっせーわ、軟弱物の紙POW舐めんな 8月12日<暑い日にトイレにしょっちゅう行く理由> おしっこが近いわけではないんです 尻が痒くて痒くて痒くて

    • 【お題小説】19.割れた懐中時計はまだ時を刻む

       強い視線を感じて、ノートと参考書から目を上げた。真正面から、彼女が僕を見据えている。 「どうしたの。勉強しないの?」  僕から視線を外そうとしない彼女にややたじろぎながら訊ねた。彼女は小さく肩を竦める。 「それはこっちの台詞」 「? やってるじゃん」 「それで勉強できてるわけ?」 「『それで』って?」 「さっきからずっと、カチカチ鳴らしてる。シャーペンの芯を出しては引っ込めて、またカチカチ出して……」  まったく気づいていなかった。いや、正直にいえば、シャーペンの芯の出し入

      • シン・仮面ライダーの衣装描写について考えた※ネタバレ

        ※ネタバレしかない ※記憶あやふや ※あらすじ説明・感想ほぼなし  ショッカーは、情報漏洩防止のため死ぬと泡となって消える。  何も後悔していないと真っ直ぐに一文字を見つめる本郷の眼差しは、何度見てもグッとくる。  本郷の赤いマフラーも、泡になってこの世界から消えてしまった。  しかしここでひとつ気になったことがある。  ハチオーグが死んだとき、彼女の羽織はその場に残っていた。  消えた赤いマフラーと、消えなかったハチオーグの羽織の違いはいったいどこにあるのか。  彼女

        • 【お題小説】18.ハイヒールは折りたたんでポケットへ!

           視界の右端がふっと暗くなった。通りの向かいのカフェのライトが消されたからだった。本日の営業が終了した。夜11時を過ぎたのだ。つまりこのレストランのウィンドウ前に2時間立ちっぱなしだったことになる。卓也が去ってから2時間。よく店の人間から退くように注意されなかったものだ。  慣れないヒールを履いた爪先が、血流が足りないとばかりにジンジン痛みを訴えている。そういえば寒い、ということにも気づいてしまった。コートの下のワンピースは、長袖とはいえこの季節には薄着すぎた。  いつか洒落

        【短歌日記】2023年8月前半

          【お題小説】17.フードを被っても中は丸見えなの

          「ルイより。二時の方向。西映ビル方面から遠見盛ストリートへ向かっているのを発見」 「テレジア、了解」 「フランツ、了解」 「アントワネット、了解。こちらに向かっているのを確認。後を追う」  黒いパーカーのフードを目深に被った男が視界に入った。ルイのいう通り、俺がいる遠見盛ストリートへと入ってくる。  酒を飲んでいるのか、足取りが危ういほどゆっくりだ。気を抜けば追い抜いてしまいそうになる。 「こちらテレジア。ターゲットに向かう形で歩行中。そのまま路地に連れ込みたい。応援を頼む」

          【お題小説】17.フードを被っても中は丸見えなの

          【短歌日記】11月3日~10日

          11月3日  うちに猫はいないけれど 帰り道 茶トラ色だからさみしくはない 11月4日 秋の海は触れた瞬間水底に引きずり込まれるそんな色して 11月5日<姉から猫画像> 見た目たぬき なつっこさは犬並みで 獲物狙う目ヴェロキラプトル 11月6日 表紙買いした本 DLした映画 公園の隅に溜まった落ち葉 11月7日<土台がはまらないという恐ろしいツイートを見かける> 等身大アクスタひとり招くなら 今推しの彼?思い出の彼? 11月8日<皆既月食> 「そういえば442年前何

          【短歌日記】11月3日~10日

          【お題小説】16.骨組みだけの羽で飛ぶ空

          私は自転車のペダルを漕いでいる。 さほど力を入れずとも、不自然なほどスイスイと進む。 眼下には重苦しい鈍色の海。 滑らかなフォルムのハンドルは、本来なら銀色に輝くはずだけれど、今は海の色と同化している。 空気力学の観点から開発された、空気の抵抗を受けにくい自転車。 風の力で、どこまでも飛べる自転車。 力尽きて漕ぐのをやめない限り、どこまでだって行ける。 真っ直ぐ前を見て、どこまでもどこまでも。 ……本当に? 私は不安に襲われて、空を見上げる。 白銀色の骨組みは、まるでメ

          【お題小説】16.骨組みだけの羽で飛ぶ空

          【お題小説】15.とりついた島はゴミの山

           最期くらいは少し贅沢をして、満ち足りた気持ちになって人生を締めたかった。穏やかな海に包まれて終わりたくて、観光船を予約したっていうのに、計ったように嵐になって欠航。笑ってしまった。  本来船が出るはずだった港が見下ろせる、岸壁の上に立ってみた。雨が肌を叩きつける。濡れたシャツが悪夢のように張りついてくる。痛いし気持ちが悪い。ああ、生きてる限りこの感覚は続くんだ。  もう痛いのも気持ち悪いのも嫌だ。贅沢はできなかったけど、これで終わらせよう。  覚悟を決めようと瞼を伏せてスウ

          【お題小説】15.とりついた島はゴミの山

          【お題小説】14.空虚を掴む

          からっぽのしっぽ  砂漠の海を帆船が進む。  がいこつの船長が、剣を振りかざす。 「よぅ、野郎ども。今日も行くぜ、からっぽを見つけに!」 「おぉ!」 「夜まで走るぜ、からっぽのしっぽを掴みに!」 「おぉ!」  いつもの掛け声ながら、拳を振り上げると気分が高揚する。  乾いた風が背中側から吹きつける。太陽が眩しい。絶好のからっぽ探し日和だ。  ぼくたちは自然と歌いだす。 そいつは山のようにでかいという 豆粒みたいに小さいという ギンギラ輝いているという 透明で見えやしない

          【お題小説】14.空虚を掴む

          【お題小説】13.「見えないでしょ?」「見えるよ」

          「カナ!」  下校中、カナが前を歩いているのが少し遠くからでも見えて、声を上げた。カナは完全に目が見えないわけではないけれど、見える範囲がものすごく狭いらしい。それで白杖をついているから、歩く姿は特徴的ですぐわかる。  あたしの声が聞こえたのか、カナは壁際に少し寄って立ち止まってくれた。カナの傍まで走っていく。背負ってる赤いランドセルがはっきり見えるところまで来て、あたしは足を止めた。  最初は、光の加減で変に見えるのかなと思った。でもカナのすぐ後ろまで近寄ると、はっきりわか

          【お題小説】13.「見えないでしょ?」「見えるよ」

          【お題小説】12.ガスマスク越しに空を眺める

          「本当にこの辺なんですかねぇ。土くればっかで、何かあった形跡もないんすけど」  地面を調査してもいつまでたっても何も出てこないことに焦れて、高宮がぼやいてきた。伝声器越しの声は硬く響き、肉声よりも感情が伝わりにくい。それでもうんざりした様子は充分滲み出ていた。  防護服は動きにくく、蒸し暑い。しかも一時間ごとに除染しなければならないため、いちいち地下まで戻らなければならない。少年から捜索の依頼を受けてからもう三日。成果は未だない。 「三年前の記憶でしょ。住居があったっていう座

          【お題小説】12.ガスマスク越しに空を眺める

          【お題小説】11.キーボードを叩き割る勢いで綴る

          (件名なし) 白石川ももか 宛先:akira-siraisshikawa1102@bocomo.ne.jp 本当はメールしたくなかった 忘れたかった でも家を出て何年たってもお前のやったことが忘れられない お前は「姉にやったささいな悪戯」気分なんだろうけど たしかにそうなんだけど 積もり積もれば恨みも募る ふとした瞬間に思い出してうがーーーーと叫びたくなる 実際夜中叫んでる こないだ管理人さんから苦情きた それもこれもお前のせいだ お前さえいなかったら謝罪に回る必要なかったの

          【お題小説】11.キーボードを叩き割る勢いで綴る

          【お題小説】10.アイの輪切り

          「何故人は誰かを『愛する』のでしょうか。『愛』とはどこからやってくるのでしょうか。……今の私には、納得のいく答えを皆さんに提示することができません。ただ、『愛』を感じている状態、特に初期の恋愛状態の特徴については、お話することができます」  女性にしてはやや低めの声が、マイクを通して小さな講堂内に響いている。十五人ほどの参加者を前に、大学時代の先輩、五十鈴藍先輩が白衣姿で壇上に立って語っていた。 「初期の熱愛状態において、脳内はアドレナリンやドーパミンといった化学物質が溢れか

          【お題小説】10.アイの輪切り

          【ホラー小説】烏の鳴く朝

           目が覚めたとき、まだだいぶ早い時間なんだと勘違いした。外は曇り空で、いつもより射し込む陽の光が薄く、そして何より家の中が静かだった。  学校に行く支度をするまで、あと何分寝てられるんだろう。そう思ってスマホで時間を確認した朔弥は、あと一分で家を出ないと確実に遅刻する時間だと気づいて飛び起きた。  なんで。そんな馬鹿な。やばい。どうしよう。  パニックの後に、猛烈な怒りが込み上げた。 「なんで起こさねぇんだよ、ババア!」  布団を跳ね除けながら、階下にいるはずの母親に向かって

          【ホラー小説】烏の鳴く朝

          【小説】天使たちのわらう顔

          「ユウちゃん、テストの点数みせて」 「わー、すごいね」 「さすがユウちゃんだね」 「頭の出来が、みんなとは違うもんね」 「ユウちゃん、走るのもすごーい」 「ユウちゃんだけ別次元だよね。みんなと離れすぎて、ひとりで走ってるみたい」 「球技もすごいもんね」 「ユウちゃんのドッチボールの球、誰も取れないよ」 「さすがユウちゃんだよね」 「ユウちゃんは、本当にすごいね」 「天使みたいだね」  緑茶がすっかり湯呑の中で冷め切り、内ポケットの煙草に手をかけては隣に座る澤北から「学校

          【小説】天使たちのわらう顔

          【お題小説】9.拒食症とカニバリズム

          ※自傷行為の描写あり ※性犯罪被害を示唆する描写あり 苦手な方はご注意ください。 拒食症とカニバリズム 「お姉ちゃん、いいこと思いついた!」  妹がそういうときは、まず「いいこと」じゃない。誇大広告どころか詐欺レベルで「いいこと」じゃない。 「お母さんが、肉食べろ肉食べろってうるさいじゃん。肉食べたら太るじゃん。ダメじゃん。でも、自分の肉を切り取って食べたら、余計な脂肪も取れて一石二鳥じゃん?」  ほらな。  妹とは会話がまともに成り立たない。  どれだけおかしいこと

          【お題小説】9.拒食症とカニバリズム