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【お題小説】15.とりついた島はゴミの山

 最期くらいは少し贅沢をして、満ち足りた気持ちになって人生を締めたかった。穏やかな海に包まれて終わりたくて、観光船を予約したっていうのに、計ったように嵐になって欠航。笑ってしまった。
 本来船が出るはずだった港が見下ろせる、岸壁の上に立ってみた。雨が肌を叩きつける。濡れたシャツが悪夢のように張りついてくる。痛いし気持ちが悪い。ああ、生きてる限りこの感覚は続くんだ。
 もう痛いのも気持ち悪いのも嫌だ。贅沢はできなかったけど、これで終わらせよう。
 覚悟を決めようと瞼を伏せてスウゥッと息を吸っている間に猛風が背中を押して、わけがわからないまま夜の嵐の海に投げ出されていた。

 海中で揉まれている間に鋭いものに当たったのか、体中細かい傷がついて痛かった。濡れた肌に砂がべとりと一面張り付いて気持ち悪かった。
 どこの島ともわからない陸地に辿り着いてしまったようだ。痛いのも気持ち悪いのも終わらなかった。
 辺りを見回す。木片。海藻。割れたプラスチックの容器。空き缶。注射針。外国語の書かれたプレート。冷蔵庫。タイヤ。モーターらしきもの。黒くてどろりとしたもの。黄色くてびろーんと伸びたビニールような紐状のもの。ごみ。ごみ。ごみ。そして自分。
 いらないものの総動員。
 臭いし気持ちが悪い。なんでこんな世界で生き延びてしまったんだろう。

 このまま死のう。何もしなかったらそのうちくたばる。
 でもお腹がすいた。お腹がすいた。何か食べたい。食べたら生き延びてしまう。でもお腹がすいた。
 何か食べよう。
 ごみの中を漁った。黒っぽい緑色をした海藻をかじってみる。口の中がくしゃくしゃする。これを自分のお腹は消化してくれるだろうか。
 素手で掘り返すのはいやなので、手頃な木片を片手に、ごみの山をつつきながら歩き回った。割れて半分になったボートから、三週間前が賞味期限のあんぱんが出てきた。ちゃんと包装されたままだ。
 開ける。かぶりつく。甘さで喉が焼けつく。だが美味い。今まで食べた中で一番美味い。あっという間に腹の中に消えた。
 ボートの中には500ミリリットルのペットボトルの水も3本あった。1本の半分ほど飲んで喉を潤す。心地よくて気分がいい。ああ、けれど生き延びてしまった。

 ごみをひっくり返しながら歩く。歩き続ける。何かの種を見つけた。ごみとごみの間に地面を見つけたので、種を植えてみた。
 泥まみれのくまのぬいぐるみを見つけた。生きるのになんの役にも立たない。抱きしめてみた。柔らかかった。泥まみれなのに温かかった。

 それだけで一日が暮れようとしていた。一方の空だけ赤い。あちらが西か。
 遮るもののない日差しが目の奥まで射し込んで痛い。服の中が、塩と泥とでざりざりして気持ちが悪い。
 喉が渇いた。ペットボトルの水をまた口に含む。
 壊れたボートの中に入っていた水と食糧。あのボートの持ち主はどうなったんだろう。ここには誰もいないようだ。どこか別のところに辿り着いたんだろうか。それとも、海の藻屑となり果てただろうか。
 容器の底に残った水を、植えた種の上に落としてみた。土が水を吸って黒く色づく。
 こんなところでも芽は出るだろうか。こんなごみと死にまみれたような土地でも。
 心が痛い。こんな状況でも生きたいと思う己の浅ましさが気持ちが悪い。
 でもこのまま生きて眠りにつこう。そして明日を迎えよう。明日どうなるかわからない。すぐにでも力尽きて死ぬかもしれない。
 ただ願わくば、種が芽吹くところを見てみたいと思った。


お題はお題配布サイト「腹を空かせた夢喰い」様からお借りしています。


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