見出し画像

ひとみみぼれ。彼の言葉に何度も恋をする。

入学式。

新入生代表の挨拶で彼の声をはじめて聞いた。
後ろ姿しか見えなかったけど、芯が強い人だとわかった。中学生になったばかりだというのにその声はやけに大人びていた。


思えばあの時から、私は彼に恋をしていたのかもしれない。

偶然同じクラスで、席が隣だったり、何かと関わる機会が多かった。彼は典型的なみんなから好かれる人で、いつもやさしく話しかけてくれるんだけれど、なんだか緊張して結局1年の最後まで打ち解けられなかった。

というより、本音を言うとできるだけ関わりたくない存在だった。
彼と話さなきゃいけない授業は憂鬱で、表情は固まってしまう。なのに心臓はうるさいし、変な汗もかく。こんな自分が嫌だったから。

3年生になって、彼を気になっている自分に気がついた。気がついた途端どんどん惹かれていって、でも話しかけられなくて。見ているだけだった。

それなのに、1ヶ月程経ってからいきなり告白された。最初は冗談かと思った。嘘告とか、そういうのが流行ってた時代だったから。

でも驚くくらい彼の言葉は胸にすっと入ってきた。

迷わず私も好きだと伝えて、付き合うことになった。

よくわかんない女たちにいじめられた時も、親友と喧嘩した時も、受験に失敗したかもと落ち込んでいた時も、いつも彼が支えてくれた。 

俺がそばにいるから。いくらでも受け止めるから。1番の理解者になるから。誰に言われるどんな言葉より、私を強くした。

彼には不思議な力があった。
声を聞くだけで心が穏やかになったし、
私想いの言葉は心の壁を簡単に溶かした。
強がることさえできなかった。

ギターの弾き語り
誕生日のビデオレター
なんでもない日にくれた手紙

好きと言われるたび、感じるたび、私はまた彼に恋をした。

私の欠点さえも愛してくれた唯一の人。

関係は変わったけれど、昔と変わらず今も彼の言葉は透きとおっていて、胸にすっと入り込んではじんわりと温かくなる。

あと何回、彼と同じ時間を過ごせるんだろう。あと何回、私は彼に恋するんだろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?