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貧乏だった私に本があった【詩】

貧乏だった私には本があった
貧乏はいきなりやってきて
私の家族を操った
貧乏は産まれた家を引っ越せと言い
貧乏はお父さんを小さくさせて
お母さんをなきめそにした
貧乏はいつも箪笥の後ろに隠れていた
だから、お兄ちゃんとお姉ちゃんは知らない
一番最後の子どもが貧乏の影になった
学校の帰りに図書館があった
図書館はいつも開いていたが
本を読む大人は居なかった
この町は寄ってたかって勉強をしないで
それでいて分厚く固まっていた
無学は人を団子にするらしく
ほんとうの小さな町を作った
私は大人たちと笑って
飯をもらいながらも
この古い団子を
突き刺す一本の串になるためにはと
いつも腑は煮えくり返っていて
貧乏は子どもをひどく醜くさせたが
私には本があった
私には本しかなかったが
立身出世の近代文学が
どんなにこの町の娘を慰めたことだろう
その娘は大人になってから
甘やかすように絵本を読む
もう私の影は居てはいけないから


いつも最後まで読んでいただきありがとうございます。