「昔のままでいい」という「怠慢」

某大型書店で働いていた頃、年配のお客さんからマニアックな古い専門書に関するお問い合わせをよく受けました。

在庫をチェックして「申し訳ございません、あいにく当店には」と返答。すると「○○書店なのに?」と呆れられました。

「○○さんならあると思ってわざわざ来たのに」「申し訳ございません」「昔の○○さんはこういう本も置いてたよ」「申し訳ございません」「○○さんは…」以下繰り返し。

1月2日。大日本プロレスのアブドーラ・小林選手が全日本プロレスの三冠王座へ挑戦します。しかも反則三昧の流血戦を予告。「こんなの全日本じゃない」「馬場さんの『王道プロレス』はどこへ行った?」という声がさっそく沸き起こっています。

似ていると感じました。オールドファンの考える「全日本プロレス」は、たとえるなら本屋における「紀伊國屋書店 新宿本店」なのです。時代の変遷や経営の悪化に伴って同店が規模を縮小し、品揃えを一新するケースは大いに考えられます(あくまでも仮定の話)。全ては会社として生き残り、従業員を守るためです。

でもきっと昔からの常連の一部は受け入れない。「こんなの紀伊國屋じゃない」「昔の商品はどこへ行った?」と騒ぎ出す。じゃあ彼らの期待に応えたら売り上げが戻るか? たぶん戻らない。最悪のケースだって起こり得る。そうなっても彼らが責任を取るわけではない。

王者ジェイク・リー選手は「王道という言葉は王道という名の怠慢である」とツイートしました。時代や状況の変化から目を逸らし、「昔のままでいい」という無責任な言葉に甘え、思考停止してぬるま湯に浸かることを彼は「怠慢」と呼んだのです。心から賛同します。書店も一緒だから。

長年通ってくれているお客さんは大事。でも文化を残し、働き手の生活を守ることはもっと大事なのです。

仕事で行けないのがこんなに残念なのは久しぶり。「全日本プロレスTV」で見るのを楽しみにしています。

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