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「情」の一冊「ドライ」の一冊

↑は篠崎にある「読書のすすめ」の店主、清水克衛さんのつぶやきです。

もちろん新刊を読むのはいいこと。欧米の本だって傑作ぞろい。でも折に触れて「東洋の古典」に回帰することの重要性を感じるのもたしかです。

子どものころ、ドラマ「西部警察」で大門団長が「俺は日本人だよ。白いご飯食べないと腹に力が入らない」みたいなことを言っていました。歌舞伎の市川海老蔵さんもドキュメンタリーで同じことを話していました。

この日本人の食事における「白いご飯」が、我々の読書における「東洋の古典」に当てはまる気がします。

とはいえシンプルな「白いご飯」にも様々な種類があるように「東洋の古典」もまた膨大に存在します。どれから読んだらいいかわからない、という人も当然いらっしゃいますよね。

私ならまず↓をオススメします。

現代語訳なので読み易く、そのまま日々の暮らしに応用できる考え方の宝庫です。

たとえば「適材が適所で働き、その結果として、なんらかの成績をあげることは、その人が国家社会に貢献する本当の道」「極端に走らず、頑固でもなく、善悪を見分け、プラス面とマイナス面に敏感で、言葉や行動がすべて中庸にかなうものこそ、常識なのだ」など。

日本人は良くも悪くも「私利私欲」だけでは満足できない性質を根っこに備えています。「公のため、人のため」が行き過ぎて同調圧力や全体主義に流れがちなのは昔もいまも課題ですが、緊急時でさえ「自分さえ良ければそれでいい」に染まらないのは素晴らしい。そしてこれらは気づかなくても「論語」に記されている生き方を体現しているのです。

機械的な効率よりも情を重んじ、我欲よりも組織の和を尊ぶ。少し前までの日本では当たり前だった「終身雇用制」はまさにこれでした。成果主義や実力第一は大いにけっこう。働き方改革も必要です。でも従来のやり方の全てが誤りではないのも事実。いいものはしっかり残しつつ「欧米とは異なる日本ならではの新しい働き方」を確立していければ。

一方で「論語」しか知らないと、上の人間からいいように使われてしまう危惧があります。「給料はアップできないけど情で報いるから頑張ってくれ」みたいに。そこで「身を守る術」として併読して欲しいのが↓です。

この本は「人の本性は『弱さ』にある」と看破しています。弱いから景気が悪くなると非正規社員を切る。サービス残業もさせる。でも会社の正体なんてそんなもの、とわかっていれば対処の仕方はあります。質素な生活にシフトチェンジして仕事に費やす時間を減らす、副業を始める、条件のいい他社へ移る、など。会社はそういう人間を繋ぎ止めるために、いわゆる「ニンジン」をぶら下げないといけなくなる。

会社と労働者は対等です。経営サイドに対して卑屈になることは何もない。納得できないときは、ドライに「ノー」と言えばいいのです。「韓非子」の思想を取り入れていけば、会社のエゴに振り回されて己を見失うケースがかなり減るはず。

他にも「相手を信用はするけれども、裏切られたときの保険はかけておく」「人に意見を聞いてほしいとき、やるべきこととは、相手の誇りをくすぐってやり、恥を忘れさせてやること」なんてブラックな心得も書いてあります。キレイごとだけでは生きていけません。こういう「大人の嗜み」も必要でしょう。

もちろん「論語」と「韓非子」どちらかに偏るのは無意味です。目指すは中庸。人の性は善であり悪でもある。一元論です。だからこそ両方を知ってバランスを体得することが大切なのです。

日本人は「論語」ばかりをありがたがる人が多いと感じます。これを機に「韓非子」もぜひ。

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