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「クロスオーバーの調和力」を感じる一冊

8日の仕事中に同僚から聞きました。

「鳥山さんって、あの鳥山さんですか?」と訊き返したのを覚えています。頭の中にファミコン版「ドラゴンクエスト2」の復活の呪文である「ゆうてい みやおう きむこう ほりいゆうじ とりやまあきら ぺぺぺぺぺ……」が浮かびました。我ながら相当戸惑っていたようです。

多くの書店が関連作品を版元に注文し、追悼コーナーを作ろうと考えているはず。もうしばらくお待ちくださいませ。

鳥山明さんといえば、やはり「ドラゴンボール」です。コミックス1巻を読み返しました。

昔は深く考えず、ただ楽しんでいました。改めて読むと、いまさらだけど天才を実感せずにいられない。「クロスオーバー」をハーモニーさせる力が半端ないのです。

主人公の名が孫悟空というぐらいだから、なんとなく舞台は昔の中国風。一方でプテラノドンみたいな動物も生息している。さらに車やバイクが出てきて、相棒のブルマも連載当時(1984年)の日本にいそうな女の子です。そこへホイポイカプセルなんて未知のツールが添えられる。

この時点で、古代を含む過去・現在・はるか彼方の未来が同居しています。加えて7つ集めたら願いごとが叶うドラゴンボールや空を飛べる筋斗雲、そしてウーロン&プーアルの変身能力といった純ファンタジー要素も入り込んでくる。

多種多様な世界観を併存させ、なおかつ読み手が興醒めする明らかな破綻や矛盾に顔を出させない。設定こそ斬新だけど、物語やキャラクターがそれに負けてしまっている作品は少なくありません。「ドラゴンボール」の1巻ではすべてが自然に調和している。面白いだけではなく「楽しければ細かいことは」みたいなハチャメチャでもない。

アニメ「OVERMANキングゲイナー」を思い出しました。「機動戦士ガンダム」の生みの親である富野由悠季さんの作品です。登場人物と主役メカがモンキーダンスを踊っているオープニングが話題になりました。一見は荒唐無稽。しかし富野さんはインタビューで「ノリで作ってはいません。すべて理詰めです」と話していました。

鳥山さんも同じではないでしょうか? ガチガチには決めてなかったかもしれませんが、少なくとも彼のなかでは作中で扱う諸々が一定の秩序のもとでムリなく共存していたはず。

とはいえ、ハードスケジュールの週刊連載を長期間続ければ展開の整合性が怪しくなることはありそうです。行き当たりばったりでどうにか乗り切るケースも。特に終盤の魔人ブウ編は不可解な点が目立ってきます。でも悟空が子どもの頃は大丈夫。人気の高さやキャラクターのパワーインフレに振り回されず、作者が作品をしっかりコントロールしています。

アニメ版や本格バトル漫画になった後の原作を追っている人は多いでしょう。しかし序盤のコミックスはまだという方は意外に少なくない気がします。お近くの書店で見掛けた際は1巻をぜひ。

鳥山先生、ありがとうございました。

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