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「悩める書店員」にオススメの一冊

↑は先月書いた記事です。

世間のランキングとは裏腹に、私個人のそれではチェーン展開している書店よりも町の本屋を多く選んでいます。大型店で働いているにもかかわらず。

いや本当はわかっています。働いているからこそ、だと。

同じ業種でありながら、雰囲気や客層はほとんど別物。置かれている本の量や内容もかなり異なります。だからこそ足を運ぶたびに「こういうお店で働きたい」「一冊の本やひとりのお客さんをもっと大事にしたい」と考えてしまう。

業界に勢いのあった頃は、町の小さな本屋でも社員を募集していたのでしょうか? でも当時はいまの大型店みたいに連日賑わっていただろうし、結局は同じことかもしれません。

じゃあ会社を辞めて、自分で店を起ち上げるか? そこまでの覚悟はない。お金や生活のあれこれを言い訳にはできますが、結局は気持ちの問題です。ゆえに当面は町の本屋で積極的に買い物をしてエッセンスを吸収し、アレンジしたものを職場へ落とし込むことで己を納得させています。

書店員の大半は、私と同じくチェーン展開している大型店で働いているはず。そしてきっと似たようなジレンマを抱えている。こんなことがしたくて本屋に就職したわけじゃないと。そんな悩める同志にオススメしたい一冊があります。

著者の辻山良雄さんは、大手書店チェーンのリブロで長く働いていた方です。2015年の池袋本店閉店後に退社し、翌年1月に荻窪で新刊書店Titleをオープンしました。

帯に記されている「まともに思えることだけやればよい」が胸に刺さり、久し振りに同店へ足を踏み入れた際、最初に購入を決めました。

大型書店にいると、売りたくない本を他面展開しないといけない状況がしばしば生じます。不本意な業務命令に従うケースも少なくありません。自分の店でもそういうことは皆無ではないかもしれない。でも基本的には己の裁量ですべてを決められる。やっぱり憧れます。芋を洗うような職場ではなく、置きたい本だけを置いて丁寧に売る店で働きたいと。

一方で辻山さんはこうも書いています。

「わたしの店なのだから、何か問題が起こったとしても、その問題をほかの誰かが解決してくれるわけではない」
「仕事量は増え、肉体的には勤めていたときよりもきつくなった」

自由と引き換えの責任。サラリーマンのときは会社が代わりに引き受けてくれていた諸々を自分でやらないといけない。それでもと一歩踏み出すか、いやここは耐える局面だと己に言い聞かせるか。

世の中は前者を推奨する声であふれています。起業のススメとか。それも正解のひとつ。しかし後者を選ぶことが臆病とは思いません。覚悟を決めて動くのが勇気なら、腹を据えて留まるのも勇気でしょう。足りないものではなくいただいているものに目を向け、縁のあった仕事に感謝し、ベストを尽くす。簡単なことではありません。

辻山さんの文章に触れ、初めて自分の店を持つ可能性を考えました。同時に己の甘さを見直す機会もいただけました。ありがとうございます。書店員だけではなく、本屋を愛してくださるすべての方々にオススメです。ぜひ。

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