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白い街路(かげみぼう第2話)

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■本編

 砂川とは彼女の郷里で落ち合うことになった。
 日光駅前からバスに乗ること約二十分。いろは坂という長く、とぐろを巻いた蛇のような山道を眺めて、大谷川沿いにかすめて行ったところに、最寄りのバス停はあった。
 バスに乗っている間から不安だったのだが、辿り着いてみるとその不安は一層強くなった。バスは街中を横断するように走っていたのだが、車窓から見える民家や商店がみな雨戸やシャッターで閉ざされており、日中のことなのに人っ子一人歩いていない。観光地からほんの少し外れただけでも、日光市の抱える問題というのが、割れた卵から雛が顔を出すように、生々しく覗くのだった。
 降りたバス停のすぐそばにも、たばこ屋、という看板が立った店があるのだが、シャッターを完全に下ろしてしまっている。その傍らにある錆びたポストが物悲しさを誘う。
「すみません。こんなに奥に来てもらって」
「いや、構わないよ。こういう場所を見ておくのも、創作には役立つからね」
 私が笑ってそう言うと、砂川は恐縮したように頭を下げる。
「それで、白い街路って?」
 周囲を見渡してみるが、寂れた雰囲気が漂っている以外、禍々しいものを感じない。
「もっと奥です。まずはわたしの実家へどうぞ。両親も水瀬さんに会いたがっていますから」
「ご実家」と身構えてしまう。女性の実家にお邪魔するなんて機会は、人生でそうそうない。この年になってしまえばなおさらである。身構えない方がおかしいだろう。
「大丈夫ですよ、気楽で。父も母も形式ばらない人ですから」
 そうかい、と頷いたものの、緊張するなという方が土台無理である。一体砂川は何と言って私を両親に紹介したのだろう。
「この街で、楓は育ったのか」、気を取り直して、歩き出した砂川の横顔を眺めながら訊ねる。
「ええ。今はこんなですけど、昔はもっと活気があったんですよ。ちょうど今の時期には夏祭りなんかしたりして」
「へえ、夏祭り」
 砂川は過ぎ去りし日々を懐かしむように目を細める。
「はい。この街では天狗を信仰していて、街の奥地にある神社では天狗を神様として祀っているんです。夏祭りの日には年に一度天狗様が里に下りてくるということで、その年の未成年の男子一人が天狗様に扮してお神輿と一緒に練り歩くんです」
 面白いな、と思う。この街は旧日光の市街地よりも一層山が近くに感じられる。確か、男体山と言ったか。山肌は大きく削れていて、その跡が何やら巨大な四足の恐竜が朽ちて骸になったかのように見える。
 これだけ山が近いと、山伏など山岳信仰が活発だったのだろうか。そこから天狗を神として祀るという発想が生まれたのかもしれない。
「山の中には、小さなお社が置かれているところがあって、そこに悪戯をすると天狗様に連れて行かれるぞ、なんて親には脅かされたりしました。お社にはお神酒やお供え物が常にあって、今思うと山の中までお社に通っていた方がいらっしゃったということですよね」
「そういうことになるだろうね」と私は頷く。
「白い街路と何か関りが?」
 私は直感的に二つの話は繋がっているような気がした。白い街路と天狗信仰。その二つは不可分のものじゃないのかという確信があった。
「……はい。白い街路は、天狗様をお祀りしていた社の山を崩して作られた住宅地なんです」
 砂川は言いにくそうに口にした。恐らく街ではタブーとされているのだろう、白い街路と天狗様を一緒にして語ることは。
「なるほど。例えば、お社に義理を果たさず、無理に開発を進めた、とかかな」
 砂川は驚いて目を丸くし、私を見上げるとふるふると首を振って、「市が強行に進めすぎたんです」とぼそりとこぼした。
「住民はみんな反対していたのに、地権者の了承が得られたからと言って。市の方でも予算の執行の問題などがあったようです。大規模な事業なので、市単独の予算では無理です。地方債の借入の時期や審査の問題があって、急いで進めようとした」
「それで天狗様に義理を果たさず、社を取り壊してしまったわけか」
 ええ、と砂川は頷く。
 信号に差し掛かる。車が来る気配はないが、進行方向は赤なので、立ち止まって待つ。こういう規範意識というか律義さというか、砂川らしいな、と思わず笑みがこぼれる。
 信号が青になる。車の音のない、静かな道路に私たちの靴音だけが響く。
「地権者も目先の金に飛びついたようです。その後、住宅地が造成され、家が立ち並んでいくにつれて、地権者の家に次々と不幸が降りかかり、最後は地権者自身が失踪し、行方知れずになりました」
「ただの偶然、でもないのかな」
「はい。市側の担当者の間でも不幸が起こっていたようです。主の担当者として関わっていた職員と直属の上司、係長が自ら命を絶っています。その他の職員にも少なからず変事があったようです。『ホワイト・レポート』によれば」
「『ホワイト・レポート』か……」
 呟いて顔を上げると、二つの横断歩道を繋ぐ中州のような道が駐車場に隣接していて、そこが崖のようになっているのだが、その崖の上に、白い少女が立っていた。
 私は息を飲んで思わず立ち止まった。砂川も怪訝な顔で振り返って立ち止まる。
「真理乃……」
 少女はにっと笑うと踵を返して崖の向こうへと走り去る。
「待ってくれ」と叫んで追いかけようとすると、砂川が私の腕を掴んで首を振っていた。「行っては、だめです」、腕に込められた力は女性のそれとは思えないほど強かった。華奢な砂川のどこからそんな力が、と訝しく思ったが、すぐに真理乃のことを思い出して崖の向こうに視線をやると、そこにはもう誰もいなかった。
「なぜ邪魔をした?」
 咎めるような目で砂川を見下ろした。彼女は私の目をしっかりと受け止め、見上げながら言う。
「あれはかげみぼうです。あなたを連れて行こうとしているの」
「かげみぼう? それは昨日の広小路じゃないのか」
「彼もそうです。そしてあなたが今見ていたあれも。かげみぼうは何も一体だけじゃない。心の空白が大きければ大きいほど、数も存在も大きくなります」
 そんな、と私は項垂れる。だが、本物の真理乃ではなかったことで、安心した側面もあったかもしれなかった。本物であったとしたら、なぜこの日光で姿を見せたのか、私には見当もつかないからだ。だが、真理乃が私の心が生み出した幻影であるならば、この旅先で広がった私の心の隙間に、魔が付け込んだのだと考えることができる。
「かげみぼうとは何なんだい」
 砂川は私の目を、その奥にいる怯懦な私自身を見透かすような瞳でじっと見つめ、ふうとため息をつくと、軽く首を振った。
「わたしにも詳しいことは。ただあれは、人の心の空白が生み出すと言われています。かげみぼうと目を合わせると死ぬのだとも」
 昨日浴場で一ノ瀬から聞いたことだ。
「偽物は、本物に憧れると思いません?」
 砂川のその言葉が、やけに真に迫っていて、寒々しく響き、ぞっとした。
 私は私自身の似姿というかげみぼうと、記憶の中の真理乃、というかげみぼうを作り出してしまったのだろうか。
「白い街路に……行ってみますか?」
「白い街路に。なぜだい」
 砂川はかぶりを振って、「行けば分かります」と足をくるりと崖沿いの横断歩道に向けて歩き出す。
 彼女について歩きながら、私は真理乃が私の前に現れる理由を考えてみた。
 真理乃は幼い頃遊び友達だった少女の一人で、学校も同じクラスだった。放課後になると仲のいい五人組で集まって、野山を駆け巡って遊んでいた……。いや、ちょっと待て。野山を駆け巡って遊んでいたはずがない。私の生まれは海沿いの町だ。山など近くにない。それに、仲良し五人組。真理乃だけは思い出せるが、他の三人が思い出せない。小学校のときのクラスメイトは思い出せる。だが、その誰とも一致しないような気がする。
 そう言えば、幼い時の記憶がほとんど私にはない。大人になったらそういうものだと思っていた。だが、小学校のときの記憶が、パズルのピースを抜き取られたようにぽっかりと空白になってしまっているのだ。それも一時期。小学校低学年の頃の思い出が、私にはない。それ以降の級友たちの顔は全員ではないものの、何となく思い浮かべられる。どうしてこの状態を不自然だと思わなかったのだろう。
 真理乃と記憶の欠落。何か関りがあるのだろうか。
 坂道を上っていき、人気のない、遊具が雑草に埋もれてしまった公園の傍を通って街をさらに奥深く入り込む。
「わたしは子ども時代、この公園でよく遊びました。仲のいい男の子がいて、その子と日が暮れるまで遊んで、心配した兄が迎えに来て」
 ほら、あれ、と砂川が指さす。その先には錆びついたブランコと、塗装が剥げた魚の骨のような形の遊具があった。
「あのブランコで靴飛ばしをして。わたし、靴飛ばしが上手だったんですよ。その子は負けず嫌いで、わたしに負けるともう一回もう一回って。夏にあの魚の骨の中で風船アイスを食べてたら、あ、風船アイス知ってます? 形のせいでおっぱいアイスなんて呼ばれたりもしてましたけど。そのアイス食べてたら突然爆発しちゃって、その子アイス塗れになって」
 在りし日の影を思い出して、くすくすと砂川は笑う。
「本当に仲がよかったんだね」
 ええ、と眩しいばかりの笑顔で頷くが、すぐに砂川の表情に影が差す。
「でも、その子とは離れることになってしまって。遊べたのはほんの数年でした。すべて」
 白い街路が悪いんです。
 そう絞り出した砂川の言葉には、やり場のない怒りや憎しみ、悲しみが満ちていた。
 公園を過ぎ、一本道を奥に進んで行くと、道が雑木林の中に突っ込んでおり、その中を通って行く。寂れたから草木が繁茂したのか元々なのか、私には判断がつかなかったが、その中は日中でも鬱蒼としていて、空気が冷えているが心地よくはなく、どこかじめじめとして張り付くような冷気だった。
 その雑木林を抜けると、開けた住宅地に出る。
 住宅地の入り口には、海外なんかで見かけるような方向指示板が立っていたが、真っ白に塗り潰され、文字は一文字も書いていなかった。建ち並ぶ住宅も壁も屋根も白一色で、夏に雪が降り積もっているかのように見えた。
 白い街路だ。
 私はごくりと唾を飲み込んだ。目の前の景色に圧倒され、言葉が出なかった。
 白い街路とは言うが、道自体は白くなく、放棄されたために道路に隆起があったり、アスファルトを雑草が突き破って生えていたりなど、荒れ果てた様子が窺えるだけで、普通の道だった。ここを白い街路たらしめているのは、建ち並ぶ住宅だろう。白い箱のような建物がひしめき合うように並んでいる様を知っていると、確かに昨日砂川が角砂糖が並んでいるのを嫌がったのも分かる気がした。
 私は一歩を前に踏み出した。そして指示板が立っている、街路の境目に立つと、家々を眺めた。そこはすでに廃墟であるはずなのに、ひっそりと息づいているように思えた。息を殺し、誰かを待っているような。
 誰を待っているのだ?
 そんなことは問うまでもないことだと思った。街路は私を待っていたのだ。何年も、何十年も。なぜ分かるのか、分からない。ただ私の直感がそう告げている。彼らは私を待っていたのだと。彼らとは誰だ? この白い建物という形をとった、この街に潜む何か、という存在だ。
 ふっと一つの白い家の二階の窓辺に、人影が立つ。目を凝らして見ると、白い服の少女だった。風もないのに肩口の髪は揺れ、鮮烈なまでに赤い唇は一文字に固く引き締められている。目は、虚ろに私を見ていた。
 真理乃だ。私は彼女の顔を見返した。目が合った。目が合えば死ぬ。私は恐怖に駆られそうになったが、それでも彼女の目を捉え続けた。やがて真理乃は薄く笑うと、すうっと部屋の中の闇に溶けるように消えていった。
 私は彼女と目が合っている間息をすることも忘れ、彼女が消えて初めて息を吐いてぜいぜいと息を切らしながら呼吸した。両手を膝に突いて脂汗を流していると、砂川がハンカチで額の汗を拭ってくれる。
 ありがとう、と礼を言って体を起こすと、もう一度白い家の二階を眺めた。だがもう真理乃の姿はそこには現れなかった。

 白い街路からはそこで引き返した。砂川が怯えて、一度引き返して明日出直そうと言い出したため、彼女に従って彼女の実家まで戻ることにした。
 訪問しての砂川家の歓待ぶりは上にも下にも置かないお祭り騒ぎのようだった。縁側では既にバーベキューが展開され、寿司や様々な料理がテーブルに所狭しと並べられ、近所の人たちも集まって酒盛りが始まっていた。
 そこに私が登場してしまったものだから、酒飲みたちは度を外れたはしゃぎっぷりを発揮し、女性陣から呆れられていた。砂川の父もどうやら娘は恋人を連れてきた、と誤解したらしく、涙ながらに「娘を頼む」だとか、「娘を泣かせたら殺す」などと物騒なことを叫んでは娘に窘められるということを繰り返していたが、最後まで誤解したままだった。彼女の母も「分かってるから、大丈夫よ」と言いつつ彼女の寝室に私の寝床を設えようとするなど、ずれたところを発揮していて、その都度訂正するのが厄介だった。
 砂川の父はだいぶできあがっていたが、酒には強いのかずっとビールを飲み続けていた。私は彼の横に据えられて、娘に手を出さないか目を光らせられていたので、父の相手をせねばならなかった。
 思い出したように、「かげみぼうって何なんでしょうか」と訊いてみると、酔っぱらいだけにまともな回答は期待していなかったのだが、砂川の父ははっきりとした口調で言う。
「かげみぼうってのは、自己否定の果てに生まれるもんだ。自分の否定したい部分を責め続けて、自分の中から追い出してしまった結果、かげみぼうが生まれる。まあ、迷信だがよ。自分にそっくりな人間がうろついているってのはいい気がしないわな」
「自分とは似ても似つかないかげみぼうっているんでしょうか」
 んー、と唸って、だいぶ後退した額をひたひたと叩いて、「聞いたことないなあ」と言うとビールを呷り、グラスを差し出すので瓶から注ぐ。
「あら、水瀬さん、あんまり飲ませちゃだめよ。お父さん、健康診断で肝臓が引っかかってるんだから」
 砂川の母が瓶を手繰り寄せようとする父の手から瓶をかっさらって立ち上がる。
「バカヤロー、これが飲まずにやってられるか」
「あらあら。ただ飲んで騒ぎたいだけでしょうに。水瀬さんを巻き込んじゃ気の毒よ」
 ふん、と砂川父は真っ赤な鼻を鳴らして腕を組み、そっぽを向いて、「いずれ楓と一緒になるなら、覚えてもらわねえとな」と言っているものだから砂川母も呆れて、「ああそうですか」と料理を下げ始める。
 砂川父がご近所さんと釣りの話で盛り上がり始めたので、私はそっと輪から抜けてテーブルの片づけを手伝う。空いた食器を重ねて流しに運び、台拭きでテーブルを拭く。
「あら、ごめんなさいね。お客さんにお手伝いさせちゃって」
 いえ、このぐらいは、と笑って台拭きを濯いでいると、砂川母は、思案気な目で私を見つめて、「ねえ、本当にあの娘と結婚してみる気はない?」と真剣な声で言い出すので、私は水を止めて、申し訳ない気持ちに胸を痛めながら、「はい」とだけ答えた。
 そう、と寂しそうに母は俯いたかと思えば陽気な笑顔を浮かべて、「でも気が変わったらいつでも言ってちょうだいね」と言って立ち去った。
 その後は湯だけいただくと、与えられた一階の和室に引っ込み、布団の上で思案に耽った。真理乃の姿をしたかげみぼうと私は目が合った。一ノ瀬や砂川の言葉が正しいのならば、私はもう死んでいるはずだ。それとも、死はこれからやってくるのか、そうでないのか。そもそも、今回白い街路に向かうのは砂川の不安を取り除くためだ。なぜ縁もゆかりもない私の身の回りに、こんな不可思議なことが起こるのだろうか。
 考えているとうとうととまどろんできたので、電気を消して眠りにつくことにした。
 夜更けに気配がして起きると、扉の外を誰かが歩いていた。足音を押し殺したように、ぎ、ぎ、と床板の軋む音と、衣擦れの音がする。
 私はかげみぼうか、と布団にくるまって歯を食いしばり、恐怖に耐えていると、足音は扉の前を通り抜けて玄関の方に向かって行く。私は怪訝に思って、扉を僅かに開け、外を覗き込むと砂川の背中が見えた。
 こんな夜更けにどこへ、と思って足音を殺しながら追いかける。砂川は靴を履くと外に出る。私も少し間を置いて外に出て、人気も車の気配もない道路を歩いて行く。
 坂道を上り、公園の脇を通り。向かっている方向で私にも彼女の目的地が分かった。砂川はやはり白い街路に向かっている。だが、あれほど怖れていた街路へ、夜更けに、しかも一人で向かうというのはどういうことなのか。
 砂川は迷わず街路の中へと入って行く。漆黒の闇の中、白いワンピースを着た彼女の姿は幽玄と浮かび上がって見えた。明かりも点けず、勿論街路の街灯は死んでいる。その中を淀みのない足取りで進んで行く。
 街路の中ほどまで進んだところで、砂川は一軒の白い家に入って行った。そこは他と同じく白く角ばった建物で、窓はひび割れ、バルコニーは腐食して崩れ、子どものものと思しき自転車の残骸などが散らばっていた。
 私は意を決して中に入ると、玄関の中にはむっとした熱気が溜まっていたのに、私が来たことでその熱気が家の中に収束されるかのように引いていき、代わって沼のようにぬめった感触の冷気が漂い始めたように感じた。
 玄関には花のない花瓶が飾られ、その横に生気に満ちたように瑞々しいプリザーブドフラワーが置かれていた。そのプリザーブドフラワーに群がるかのように虫の死体が転がっていた。
 入った瞬間、違和感を覚えた。その違和感が何なのか、明確にこれという言葉を与えて形容することが難しい。近い感覚で言うのならば、懐かしい、だろうか。だが、懐かしい、と言うにはその感覚にはえぐみのようなものがついているような気がした。
 玄関から、右手に二階への階段があって、階段下にはパントリーがある。左手のガラス戸の向こうがリビングとキッチン、正面奥にバスルームとトイレ――。なぜか間取りをありありと思い出すことができた。
 どういうことだ、と私は額を押さえて呻く。なぜ知っているのか、初めて入ったはずの家の間取りを。
 混乱する頭を抱えながら、リビングに入る。リビングにはソファやテレビがあって、子どものものと思われる賞状が壁に飾ってあった。子どもの描いた絵も、所狭しと貼られていたのだろう。その残骸の鋲だけが壁に無数に残り、絵は床に落ちて変色してしまっていた。
 部屋の中央にはダイニングテーブルがあり、そこに真理乃が座って待っていた。
 楓は、と問うと、真理乃はうっすらと微笑み、「彼女は先にいる」と言って立ち上がる。
「きっと来ると思っていた。待っていたの」
「待っていた。なぜ、僕を」
 真理乃は歩み寄ると私の手を取った。冷たい、というより温度を感じさせない手だった。生者でも死者でもない手、私はそう感じた。
「ここは、あなたとわたしの思い出の場所だから」
 馬鹿な、と絶句する。「僕は今日初めてきたんだ」
 真理乃は首を振って、「違うよ。思い出して」と私の手を額に当てる。
 すると、脳裏に映像が浮かぶようだった。真理乃の笑顔、はしゃいで回っていた子どもの私――。
「この家で人形遊びをよくしたよね。おままごともした。いつも夫婦で。かくれんぼをしたときには、お父さんに怒られた。そして押入れに隠れて、こっそりキスをした。ねえ、覚えている?」
 いやだ、やめてくれ。
 私は呻きながら頭を抱えて後退し、躓いてソファの上に倒れる。記憶が上書きされていくことへの恐怖が私を支配していた。ピースの欠けた記憶が埋まっていくのではなく、ピースを埋められることでそれ以外の記憶も上書きされていくような不快感。それ以上聞いていたくなかった。だが、真理乃の言葉は真実だろうと思えた。私の記憶の欠落に、ぴたりとはまっていくような感覚があるからだ。
「かくれんぼをしようよ。あの頃のように」
「かくれんぼ?」
「そう、かくれんぼ。わたしを見つけて」
 そう言って、すっと真理乃は消える。
 懐中電灯を点けて部屋を照らし出す。そこにはもう誰もいなかった。キッチンには割れた皿やカトラリーが散乱しているが、隠れられそうなところはない。戸棚も全部開いていて、ライトで照らすと中が覗けた。
 リビングを出て、奥に向かう。トイレには誰もいない。放置された便器は奥の方が黒ずんでいた。中途半端にトイレットペーパーが引き出されて垂れている。
 浴室を開ける。恐る恐る蓋を開けるが、中は空だった。空っぽのシャンプーやボディソープが床に転がっている。
 そういえば、浴室では夏に、水着を着て、浴槽に水を溜めて水鉄砲で遊んだりした。私はむきになる性分で、顔にかけられたのが悔しくて執拗に顔を狙い、目に当ててしまって泣かせてしまったことがあった。母にはこっぴどく叱られた。女の子には優しくするものだと、そのときはっきりと教わった気がする。でも、どうして母が出てくるんだ? 浴槽で遊んでいるとき、母もいたのか。
 分からない。
 次に回ることにする。
 階段下のパントリーが怪しいなと思って開けると、かび臭い臭いが鼻をついた。中には食材らしいものは転がっていないが、米が入っていたと思しき麻の袋や、小麦粉の袋、藤籠などが散らばっていた。
 ここでは、真理乃と二人隠れて、食パンをちぎって食べていた記憶がある。朝食にスライスされて出てくると、大して美味しいものだと思えないのに、一斤丸々齧りつくと、どうしてあんなに美味しく感じるのだろうか、と不思議でならなかった。やはり母に見つかって二人仲良く拳骨をお見舞いされたのを覚えている。その日の晩御飯は食パンだけで辟易したな。なぜ、こんな記憶があるのか。
 分からない。
 次に回ることにする。
 次は一階の和室だ。仏壇があって、小さな和箪笥があるだけの狭い部屋。仏壇の上の位牌は倒れ、線香が散らばっている。遺影は若い男だ。今の私と同じくらいの年の頃。眼鏡をかけていて、スーツ姿で、実直そうな印象の男だ。
 そうだ、私は仏壇の前で泣いていた。母は涙も枯れてしまったのか、虚ろな目でただ仏壇を見つめていた。その私たちを、真理乃は懸命に励ましてくれた。私の背を擦り、一緒に泣いて慰めてくれた。遺影の男は、私の父だ。だが、そうだとするならば今の私の父は一体どうなる。この遺影の男とは似ても似つかない。母は再婚だったのか。そして、この父はなぜ死んだのか。そうだ。突然錯乱した街路の住人にスコップで殴られ死んだのだ。父が最初の犠牲者だった。その後次から次へと奇怪なことが起こるまで、誰もこの土地が呪われているとは知らなかったのだ。私は、白い街路に住んでいたのか。
 分からない。
 次に回ることにする。
 一階は見終えた。どこにも真理乃も砂川もいなかった。階段に足をかけ、上ろうとするが、足が前に進んで行かない。それでも恐怖に震える足を叱咤し、先に進もうと足を踏み出すと、てん、てん、ころころと二階から丸い何かが転がってくる。
 それはもぎ取られた人形の首だった。そうだ、あの日も二階から首が転がってきて、慌てて駆け上って、自分の部屋に飛び込んだのだった。
 私はその記憶を辿るように駆けあがり、階段を上がって三方に広がる部屋の右側の部屋に飛び込む。
 そこで目にしたのは、大きな男に組み敷かれ、首を絞められている真理乃の姿だった。彼女は抵抗もできないほどぐったりとして、男の背中には常軌を逸した怒りのようなものが蒸気を上げて猛り狂っているように見えた。
 そのとき私はトロフィーを手にしていた。部屋に飾ってあった、長距離走で県大会で入賞したトロフィー。それを男の背後から近づいて、渾身の力で振り下ろした。一度では男の手は真理乃から外れず、二度、三度と殴り続ける内に、男の体から怒りが萎むように抜け、弛緩していくのが分かった。それでも反撃されることを恐れて殴り続けた。私が、得体の知れない怒りに支配されていた。気づけば男は倒れて動かなくなり、トロフィーは砕け散って無惨な姿になっていた。
 真理乃が死んだ。そうだ、真理乃は死んだのだ。死んでどうした。そうだ、母が自分に任せろと言ったのだ。あなたは何も心配しなくていいと。そうして母は、真理乃はどうなった。
 気づくと男も真理乃もすべて消え、朽ちた学習机とベッドの残骸が横たわるだけの殺風景な部屋に成り果てていた。トロフィーの残骸は見当たらない。
 分からない。
 次に回ることにする。
 父母の寝室の扉をゆっくりと開ける。隙間からのぞき込むが、真っ暗で何も見えない。ライトでそっと照らすと、部屋の中央にある天蓋付きのベッドに、誰か横たわっていた。ああそうだ、と私は嘆息する。真理乃が死んで、次に死んだのは母だった。大量の睡眠薬を飲んで、安らかに眠るように逝ったのだった。私を残して。
 これで私の父母は死んでいる、ということになる。なら、私をここまで育てたのは誰だ。思い出す。母の姉夫婦だ。父母を亡くした私を引き取り、実の子のように育てた。私が白い街路で過ごした記憶を失っているから、養父母は真実に口を噤み、欺瞞とは知りつつ私を実の子として育てたのだろう。
 なぜ私は記憶を失ったのか。真理乃の死後失ったのか。それとも母の死後か。思い出せない。
 分からない。
 次に回ることにする。
 ここが最後の部屋だ。かつては物置として使われていた部屋。扉を開けると、崩れた箱の残骸や何かの本であったらしい紙束などが床一面に散乱しており、窓は板を打ち付けて隠されていた。そしてその中に砂川が佇んでいた。
「楓……?」
 一歩足を踏み出して、書類の海に片足を突っ込み、声をかけると砂川はおもむろに振り返った。
「ああ、ここまで来てしまいましたか」
 砂川は苦笑する。ワンピースの胸元にはべったりと赤い染みが付着し、それは彼女の顔にも飛び散っていた。手には赤く濡れた包丁を下げ、足元を一瞥する。そこには、書類に埋もれて溺れるようにして、私が横たわっていた。目を閉じたまま、ぴくりとも動かない。
 もしかして、と思って息を飲み、ひゅうという音が喉から漏れ出る。
「そう。広小路です。あなたのかげみぼうですよ」
 それが何を意味するのか、私には分からなかった。かげみぼうが死んで、どのような影響があるのかなんて、考えたって分かりっこない。被害者がドッペルゲンガーだなんて、小説でも聞いたことない。
「どうして殺した」
 ようやくそれを口にすると、砂川はにいっと笑った。
「かげみぼうを失ったものは、心に空いた空白がずっとそのままなんです。そしてそれを埋めるため、飢えた狼のように代替となるものを探す」
「なぜそんなことを」
 砂川は包丁を腰に当てて構え、「少しは自分で考えてみません?」と壊れたように笑って書類をかき分け突進してくる。
 私は避けようと思って左に動き、しかし足を書類にとられて尻もちを突いてしまう。すると立っていたら心臓があったであろう場所を包丁の切っ先が通過し、扉に突き立った。砂川は舌打ちをして構え直す。
 這う這うの体で書類の海の中をかき分けて逃れるが、やがて追いつかれて足を掴まれ、足を斬りつけられる。斬られる寸前腕を蹴り飛ばしていたため、かすり傷で済んだが、傷口に燃えるような痛みが走った。
「最初から僕を殺す気で呼んだのか」
 懸命に立ち上がって、何とか窓に張られた板にしがみつく。砂川はゆらりと立ち上がって、包丁をぶら下げながらゆっくりと歩み寄ってくる。
「いいえ。水瀬さんを殺すつもりなんてこれっぽっちもありません」
 嘘だ、と思わず震えながらも笑みがこぼれる。冗談にしても笑えない、そう思っても恐怖で感覚が麻痺しているせいか、可笑しくなってしまう。
 本当ですよ、と言いながら砂川は包丁を腰に構え、まっしぐらに突進してくる。左右どちらに躱すか、一瞬迷って右に避けようと考えて体を動かすと、何かに引っ張られた感覚があった。背中を見ると、板から突き出た釘がシャツに引っかかってしまって、咄嗟に足を止めてしまった。
「しまっ」
 どん、と体がぶつかって、私は尻もちを突いて倒れた。
 だが、痛みはこなかった。
 目の前には真理乃が立っていて、拳を握りしめて私と砂川の間に立ち塞がっていた。真理乃は振り返ると口の端から血をこぼしつつ、「大丈夫……?」と弱々しく訊いた。腹には大きな血の染みができており、床に流れ落ちていた。
「真理乃、どうして」
 真理乃はふっとうっすらと微笑むと、脱力したように崩れ落ちる。私は慌てて彼女を抱き留め、手で傷口を押さえる。そんなことをしても無意味なことは分かっていた。それでも、何かをせずにはおれなかった。どうして私は、幼馴染の、真理乃の死を二度も見なければならないのか。
 真理乃は私のかげみぼうだったのか。だから、本体である私を守ったのか。だがちょっと待て。真理乃と私は目を合わせたが何ともなかった。この真理乃は本当にかげみぼうなのか。もしかげみぼうだとしたら、誰のかげみぼうだ。
 私は思考を巡らせる。砂川がしたことを思い出せ。私をこの地に呼び寄せ、私のかげみぼうを殺した。そして、真理乃を殺した。なんのために。それに私を殺す素振りを見せつつ、私を殺す気はないと言った。結果的に真理乃を殺すことになったが、それが目的に叶ったことだったなら。
 つまり砂川は真理乃を殺すために私を呼び寄せたということだ。彼女の目的は真理乃を殺すこと。それは、私がいれば叶えられる目的だったということだ。恐らく、砂川は私に命の危機が迫れば、真理乃が姿を現すことを知っていた。
 問題なのは、なぜ砂川が真理乃を殺さねばならないか、二人はどういう関係なのか、だ。
 砂川の言葉を思い出す。
 天狗の夏祭り。
 靴飛ばしでは負けなかった。
 風船アイスが爆発した。
 そのエピソードは私の記憶の中のものとも一致する。砂川とではない。真理乃との思い出と一致するのだ。なぜ砂川が真理乃の記憶を有しているのか。あるいは真理乃の記憶を有しているふりをするのか。後者には意味がない。真理乃の振りをして砂川が得られるものはないだろう。とするならば、砂川も真理乃の記憶を持っている。それが意味するところは、砂川もまた真理乃だということだ。
 偽物は本物に憧れる。
 砂川はそう言った。それはつまり、砂川こそが真理乃のかげみぼうであり、真理乃は信じがたいことだが、本物の真理乃だということだ。
「楓、お前はかげみぼうだったのか」
 砂川は目を丸くして驚き、「よくその結論に達しましたね」と教師が生徒を褒めるように、穏やかな笑みを浮かべて言った。
「ご明察です。わたしはそこの本体、砂川真理乃のかげみぼうです」
 やはりか、と唇を噛み締める。真理乃の呼吸が浅くなってきている。意識が薄れかかっているのだ。
「一つ分からない。お前が本体を殺して成り代わるつもりだったのは分かった。だが、なぜ本体である真理乃は幼いままなんだ」
「恐らくですけど、命を取り留め意識を取り戻した真理乃が最初にしたことは、あなたを人殺しにしてしまったことへの悔恨でした。その心の隙間がわたしというかげみぼうになったわけですが、死にかけている肉体からかげみぼうを生んだので、かげみぼうであるわたしに存在の大部分をもってかれてしまったようです。おかげさまでわたしは人間の中で違和感なく生きることができました」
 私が追い詰めてしまったのか、と力が失われていく真理乃の体を強く抱きしめた。
「お前は本体以上に人間らしい暮らしを手に入れたのに、どうして真理乃を殺す」
 砂川はけたけたと笑って、「簡単なことですよ」と人差し指を立てて小首を傾げた。
「どこまでいっても、わたしは虚構の存在の砂川楓なんです。幼少期の記憶はすべて真理乃のもの。わたしはその上に積み上げられた偽物の楼閣。ならば、本物に成り代わってしまえば、すべてが真実になる。まあ、本物でありながら、都合よく幼少期の記憶を失っていた間抜けな人もいるみたいですけど」
 信じられませんよね、と砂川は素っ頓狂な声を上げる。
「己のアイデンティティである記憶が、その土台がぐらぐらなのに、それに構わずその年までのんべんだらりと生きているなんて。愚鈍さにもほどがあります」
 そう、鈍いにもほどがある。だが、きっと私は思い出したくなかったのだ。大切な幼馴染を守れなかった過去など。家族を次々と失っていった過去など。そうして過去に蓋をしてその上に自分という建物を築いたのだ。蓋が開けば、建物が倒壊するであろうことは、心の奥底で理解しつつ。恐らく、幼い私にはそれほどの衝撃の出来事だっただろうと思う。
「お願い、逃げて。後のことはわたしに任せて」
 真理乃は震える白い手で私の頬にそっと触れ、微笑みながら言う。
 私は首を振って、「二度も逃げるのはごめんだ」と真理乃を床に横たえて立ち上がる。
「砂川楓。お前を虚構の彼方へ送り返してやる」
 ふふっと砂川は笑って、「できますか」と包丁を構える。
 私は猛然と突進して、砂川が包丁を突き出すタイミングを見計らって横に勢いよく飛び退き、床に倒れる。
「随分と大仰な避け方ですね」、呆れたように砂川は言う。
 私はじりじりと後方へ下がりながら、書類の下に右足を潜らせる。
「お前は自分の立ち位置を見誤った。だから消え去る」
 何を、と言いかける砂川に対し、右足を振り上げて書類の山を舞い上がらせ、目くらましに使う。そしてしゃがみこんで、そこに砂川が勝利を確信した笑みを浮かべながら包丁を振り下ろす。
 包丁が肉を裂き、骨で止まった。血は溢れなかった。滲むように流れ落ち、床に血だまりを作った。砂川の顔は驚愕で歪んでいた。
 包丁が裂いたのは、砂川が殺した私のかげみぼうだった。私のかげみぼうは打ち捨てられて書類の山に埋もれており、私はその位置まで砂川を誘導したのだった。
 唖然とする砂川から包丁をもぎとり、その胸に刃を突き立てる。砂川は信じられない、といった顔をして立ち尽くし、やがて糸の切れた人形のように崩れ落ちた。
「これ、で……と、生きて、……けると、思った、の、に」
 息も絶えんとする辛うじて出せる声で囁くように言うと、砂川は涙を右目からつつと流してそのまま事切れた。
 私は慌てて真理乃に駆け寄り、彼女を助け起こすと、先ほどよりも血色がよく、体温も感じられた。恐らくかげみぼうに奪われていた力が元に戻ったのだろう。傷も塞がり、血も止まってはいたのだが、落ちた体力までは奪えなかったのか、呼吸は浅く速く絶えなんとするようで、額に触れるとあまりの熱さに手を引っ込めた。発熱している。それもかなりの高熱だ。
 真理乃を抱きかかえて立ち上がると、ぐらりと家が大きく揺れた。そして大きな生物が蠕動するように建物が揺れると、老朽化し、腐っていた柱や壁は容易に倒壊し、天井が崩れ落ちてくる。
 私は必死になって走ったが、真理乃を抱えている上、足元が揺れて覚束ないということもあって、まともに前に進めなかった。
 廊下の窓が割れてガラスがダイヤモンドダストのように降り注ぐ。外を見ると、揺れているのはどうもこの家だけらしかった。砂川が死とともに、この家にまつわる一切を地の底へと引きずり込もうとしているように、私には思えた。
 廊下の壁が崩れ、その礫片が私の頭を直撃し、床に倒れ込んだ。そこに、容赦なく瓦礫が降り注いでくる――。

 私は車いすを押して川べりの道を歩いていた。
 川の面は陽光を受けて星屑を散らしたように瞬いている。時折魚が飛び跳ねるので、子どものように「あ、魚」と声を上げる。
 散歩中の老人などとすれ違うと、彼らは私たちを見て目を細める。私も会釈をして返し、ときには今日も暑いですね、などとしばし立ち止まって世間話をしたりする。
 私は今回の出来事を小説に書こうと思った。自分の経験を小説にするのは、なんだかしっくりと来ないやり方というか、反則技というか。小説家は虚構を物語ってこそ小説家なのだ、という自負があるだけに、今回のことを原稿にまとめるのには勇気が要ったし、途中で投げ出したくなる誘惑にも負けない根気も要った。それらが結集して、一つの原稿になったのだと思うと、それはそれで感慨深いものがある。
 書き上げるまでには紆余曲折あった。最初は私の名前などは出さないで書こうと思ったのだが、編集のG氏から主人公は私なのだから、名前を水瀬にすべき、ただ、真理乃と楓は名前を伏せた方がいいという指摘が入ったことで、今の形になった。それから、現実にあったことだけを書いても小説とは言えないから、そこにエンタテイメントとしての虚構を織り交ぜる必要があるとの指摘もいただいたので、物語に大きく手を加えることとなった。
 そうして書き上げたのが、この『かげみぼう』である。どうしてこの言葉をタイトルに冠したかは、ここまでお読みいただいた方には分かっていただけるかと思う。
 今日はその原稿が書き上がってからの散歩なので、解放感があった。やっと書き上がったという充実感と、もう書きたくない、という脱力感に苛まれて、今日はもう一字たりとも書けそうにない。

 この作品を公開するにあたり、多大なる尽力をいただいた、
  砂川真理乃、編集のG氏両名に、心より感謝を捧げます

〈了〉


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