#旅
月の砂漠のかぐや姫 第70話
「あれは、先導役の王花の盗賊団の男だ。どうして、後ろに向かって走っていくのだろうか」
王柔の姿は、山脈のように連なっている駱駝の背の影から見え隠れしながら、遠ざかっていきました。それを目で追いながら、寒山は、腹の中で不安という黒い塊が、ずしっと存在を主張し始めたのを感じました。
「何事もなければ良いが・・・・・・」
自分を落ち着かせるためなのか、また無意識のうちに髭をなでながら、寒山はつ
月の砂漠のかぐや姫 第63話
盗賊に襲われてから数日の間、交易隊には大きな問題は生じず、羽磋たちは、ただ黙々とゴビを歩き続けていました。月の民の者は、辛い仕事や単純な作業に当たるときは、精霊に捧げる唄を歌いながら行うことが多いのですが、ゴビを歩く際には、唄を歌いながら歩くわけにはいきませんでした。
その理由は「喉が渇くから」でした。
これは、単純なことではありますが、同時に、命にもかかわる深刻な問題でもありました。水の補
月の砂漠のかぐや姫 第62話
「そうか、俺は人を殺そうとしていたのか・・・・・・」
羽磋は、自分の右手をじっと見つめました。自分がそのようなことをするだなんて、これまで、想像したこともありませんでした。でも、それは事実ですし、また、ひょっとしたら、今後も有り得ることなのかもしれないのでした。
「いいか、羽磋。俺はお前を気に入った。だから、前もって言っておく。俺は、交易隊の護衛なんかしているせいで、色んな危ない場面にあって
月の砂漠のかぐや姫 第55話
三日ほど前、ゴビの赤土の上で、羽磋はひたすらに馬を走らせていました。替え馬もない状態でそのように馬を走らせていては、馬がつぶれてしまう恐れがあるのは、羽磋にもわかっていました。でも、気が急いて急いて仕方がなかったのでした。
「輝夜が消えてしまうなんて嫌だ。絶対に、何とかする手段を見つけるんだ」
そう胸の中で繰り返しながら、道なきゴビの大地を進む羽磋は、自分の身体にのしかかってくる不安から逃
月の砂漠のかぐや姫 第54話
たったの五人。いくら不意を突いたとはいえ、野盗の群は数十人はいたのです。冒頓たちは、たったの五人でそれを殲滅して見せたのです。羽磋には、彼らが傷一つ負わず、そして、それを当たり前のようにして振舞っていることが、全く理解できませんでした。
「あ、あれは?」
羽磋は、冒頓の部下たちの働きを観察している中で、野盗の生き残りが浅い川を渡って山の斜面へ逃げていくのを、視界の端に捉えました。
「ぼ、
月の砂漠のかぐや姫 第51話
自分の周囲に何もなかったところから、両側が高い面で区切られた狭間の中に急に飛び込んだせいか、何かが頭をぐっと押さえてくるような感じが、羽磋にはしてきました。
ゴビの荒地と地平線で結びついていた空は、頭上と前方にしか見えなくなってしまいました。
馬を走らせながら左右の壁を見上げると、北側の岩壁はほとんどまっすぐに立っていて、人が隠れる場所は無いように思えましたし、壁の上で待ち伏せをしてその壁を