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【マガジン】月の砂漠のかぐや姫

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今ではなく、人と精霊が身近であった時代。ここではなく、ゴビの赤土と砂漠の白砂が広がる場所。中国の祁連山脈の北側、後代に河西回廊と呼ばれる場所を舞台として、謎の遊牧民族「月の民」の… もっと読む
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2021年2月の記事一覧

月の砂漠のかぐや姫 第163話

月の砂漠のかぐや姫 第163話

 もちろん、これから先にも地震が続くかどうかなど、冒頓にわかるはずがありません。
 ただ、それがあるかもしれないと考えに入れて指揮を執るのと、それを考えに入れないで指揮を執るのとでは、結果が大きく異なってくる場合があるのです。そして、その違いが現れる要素とは、自分が率いる部下の体と命なのです。
 冒頓は素早く考えを巡らせ、戦いを引き延ばしたところで自分たちにとって有利になる要素は少なく、むしろ、疲

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月の砂漠のかぐや姫 第162話

月の砂漠のかぐや姫 第162話

 ズッズズンッ! ビリビリビリィツ! 
 ズズンッ。グラングラアアァアン・・・・・・。

 冒頓がサバクオオカミの奇岩の群れを突き破り、今まさに反対側に出ようとした、その時のことでした。
 何の前触れもなく、冒頓たちの足元の大地が大きく振動しました。
 それは、激しく揺れる馬上においても感じることができたほどの大きな揺れでした。
 突然に襲ってきた激しい揺れのために、騎馬隊の馬は体勢を大きく乱して

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月の砂漠のかぐや姫 第161話

月の砂漠のかぐや姫 第161話

「うおっ、あぶねぇっ」
 大岩の塊をぐるりと回ったところで、冒頓は大声をあげました。
 馬の駆ける速度を上げてサバクオオカミの奇岩の後ろへ回り込むつもりだったのですが、いざ大岩の塊を回り切ってみると、自分たちの目の前に現れたのは、サバクオオカミの奇岩の後ろ姿ではなく正面から見た姿だったのです。つまり、彼の試みを遠くから見通していた母を待つ少女の奇岩が、それを逆手にとってサバクオオカミの奇岩に待ち伏

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月の砂漠のかぐや姫 第160話

月の砂漠のかぐや姫 第160話

 冒頓の騎馬隊は、盆地にいくつも転がっている大きな砂岩の塊やところどころに口を開けている大地の割れ目をかわしながらも、できるだけの速度で馬を駆けさせました。
 隊の最後尾を走る苑は、サバクオオカミの奇岩が近くまで迫ってきたら、自分の怒りを込めた矢をその頭に打ち込んでやろうと、なんども背後を確認しました。でも、どうやら馬の走る速度に比べるとサバクオオカミの奇岩が走る速度はわずかに遅いようで、苑が矢を

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月の砂漠のかぐや姫 第159話

月の砂漠のかぐや姫 第159話

「マエ・・・・・・ダ。アイツラ、ノ、マエニマワリ、コメッ」
 それは、母を待つ少女の奇岩がサバクオオカミの奇岩に対して発した指示でした。その声が出たとたんに、サバクオオカミの奇岩は、ザッと進む向きを左手に変えました。これまでのように一直線に騎馬隊の方へ向かうのではなく、その前へ回り込むように走る方向を変えたのでした。

「くそっ。やっぱり、あいつらの中でも、あの奇岩だけは違うなっ」
 騎馬隊の先頭

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月の砂漠のかぐや姫 第158話

月の砂漠のかぐや姫 第158話

 自分たちから距離を保ったままで矢を放ってくる冒頓の騎馬隊に向って、サバクオオカミの奇岩たちが一斉に走り出しました。
 バダダアッ、バダダ、バダダダッ!
 野生のサバクオオカミは決して上げることのない重みのある足音が、サバクオオカミの奇岩の群れの足元から響いていました。
 開けた盆地とは言っても、そこには人の背丈よりも高さのある砂岩が幾つも転がっています。その大岩の陰を上手く利用すれば、いくらかは

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