人間行為の正しさ【ファンタジーサウナ&スパおふろの国@鶴見駅/川崎駅】(2/2)
鶴見駅に到着したのは午前11時になろうとしていた頃だった。この場所には初めて訪れたけれど、生活環境が一通り整っているだけではなく家賃相場も都内に比べるとかなり安いようだ。品川駅や横浜駅などへのアクセスも良く、さらに魅力的な温浴施設が徒歩圏内に複数あるとなると、引っ越しを考えてしまうのも無理はない。僕は思わず近くにあった不動産屋の窓ガラスに貼られた物件情報を眺めてしまった。
Googleマップによると、今回の目的地はここから徒歩20分ほどの場所にあるらしい。そのくらいの距離なら、運動不足の僕は迷わず歩いて移動することにしている。
鶴見駅から10分ほど歩くと鶴見川が見えてきた。遮るものが何もないこの場所で浴びる暖かくてやわらかい風は、春の匂いがして心地が良い。そして、この川沿いをさらに10分ほど歩いたところに、目指していた建物はあった。
「ついに越境の時が来たか……」
そう、今回僕が伺ったのは「ファンタジーサウナ&スパおふろの国」だ。なぜ僕が今回自宅から50分かけてここまでやってきたのかというと、以前に新橋のアスティルで受けた ”熱波道” の総本山であり、熱波師として名を馳せている井上勝正氏が在籍しているためではあるのだが、理由はそれだけではない。僕は以前から、おふろの国の林店長の存在がずっと気になっていたのである。
狂った熱波師を見たいんだよ。
10年前の熱波師たちは狂ってたよ。なんでそんなことしてるの?って言われてた時代だよ。サウナはおっさんのものという時代だよ。笑いもしないテレビが見えない邪魔だ!といわれていた時代だ。
当時、井上勝正もサトシも、他の全国の熱波師も闘ってた。向き合う客と自分自身と。そりゃそう。社会はサウナに冷たく温泉に優しい時代だったから。
サウナにバイトで入ってよくわからないまま扇いでて、毎日辛い思いをしてた人も結構いたよね。せめて仲間と出会い共感し相談し、横の繋がりから意識と技術の向上を願った。
熱波師の報われない汗。
だから熱波甲子園を始めた。
ーー引用:林和俊『最近の熱波師は狂った奴がいないじゃないか。』
林店長の経営哲学やサウナへの愛は、心に訴えかけてくるものがある。
何がきっかけだったのかは忘れてしまったけれど、林店長とは数ヶ月前からTwitterで相互フォローになっていた。直接コミュニケーションを取ったことは無いものの、店舗運営の当事者ならではのリアルな声と意志の強さに、僕は以前から魅力を感じていたのだった。
最近の僕の心には、林店長のような情熱が欠けているような気がした。
ここ、横浜・川崎エリアは今でこそ温浴施設の激戦区になっているけれど、おふろの国はその中でも先駆け的な存在として、温浴業界を牽引してきたパイオニアだ。
横浜と川崎の境に近い鶴見川と国道1号を眺める土地に2000年11月15日に産声をあげた〝おふろの国〟はエリアで初のスーパー銭湯として非常に珍しがられ、問い合わせの電話はほとんど「スーパー銭湯って何ですか?」というものでした。いつの間にか日本一の濃密な温浴密集地となりましたが、「日常使いのスパ銭」として、「土日は家族で過ごす非日常的ファンタジースパ」としての時間をご提供しつづけています。
ーーおふろの国公式サイト( http://ofuronokuni.co.jp/guide/ )
施設は3階建てで、そのうちの1階と2階は駐車スペースになっているため、店舗としての実質的な機能は3階に集約されている。僕はエレベーターに乗り込み、そしていよいよ国境を跨いだ。
ドアを通り抜けると、すぐ右手に下駄箱があった。ここでは「37(サウナ)」が空いていたのでありがたく使わせてもらう。なお、この下駄箱と脱衣所のロッカーではそれぞれ100円玉が必要になる(※返却式)。
タオル類は持ってきていたので、下駄箱のすぐそばにあった券売機で「平日 大人 入浴券(700円)」を購入した。このお手頃な料金設定に感謝である。
かくして、僕はチケットという名のパスポートを握りしめて浴場へと続く通路に向かい、そこにある受付を通過して無事に入国に成功したのである。そして、脱衣所に並んでいるロッカーは幅と奥行きが比較的大きいサイズでスムーズに準備ができたため、すぐに浴場に進むことができたのだった。
「お〜、賑やかなお風呂場だな〜」
(※おでかけ体験型メディア SPOT: https://travel.spot-app.jp/ohuronokuni/ )
そこには、さまざまな種類のお風呂や2種類のサウナ室、そして露天スペースなどが確認できた。僕はまず身を清めて、オーソドックスなアツ湯のお風呂で体を温めてから「METOSイズネスロウリュサウナ」に入ってみた。
「なかなか広くて良いじゃないですか!」
(※おでかけ体験型メディア SPOT: https://travel.spot-app.jp/ohuronokuni/ )
サウナ室の中は6人×3段の計18人が座れる広さがあり、ゆとりを持って蒸されることができる。僕は空いている最奥の最上段に腰をかけたのだが、正面を見ると巨大なサウナストーブ「イズネス」が鎮座していた。イズネスといえば、満天の湯以来のご対面である。
温度計はやや低めの70℃を示していたけれど、テレビを眺めながらじっとしていると2〜3分で大量の汗が流れ出した。ある程度の湿度が保たれていたためか、実際の温度よりも体感温度はかなり上がっていたのかもしれない。
そのまま自分に意識を向けて深く呼吸をしていると、突然正面にあるイズネスがライトで照らされた。
「これはもしや……」
時刻は11時半。そう、おふろの国では30分おきにオートロウリュが作動するようになっていたのだが、まさに今からそれが始まろうとしていたのだった。そして、いよいよその時はやってきた。
「ジャー!」
熱せられたサウナストーンの上に大量の水が降り注いだ。しかも、一度だけではなく何度も落ちてくる。あまりの迫力に動揺してしまい、はっきりとは確認できなかったのだが、たぶん4〜5回のロウリュが行われていた。
サウナ室の湿度は急上昇し、その灼熱の蒸気によって目は開けることができなくなり、鼻の粘膜と肺が灼かれ、タオルで口元を押さえなければ呼吸が困難になるほど攻撃的なロウリュだった。
この恐怖と興奮が入り混じったような感情は上野のオリエンタル1でも味わったことがある。しかし、まさかアウフグース無しでここまで精神的に追い詰められることになるだなんて信じられない。
「もう限界だ……」
僕は意識が朦朧としながらもなんとかサウナ室を出て、ドアで仕切られた「打たせ水」の中に入り、壁に設置されたボタンを押した。
「うおおおおぉぉぉおおおお!!!!!」
(※おふろの国公式サイト: http://ofuronokuni.co.jp/service/13ofuro/ )
頭上のパイプから大量の冷水が流れ落ち、脳天を直撃した。その水圧の強さは想像以上で、水飛沫が周囲に飛び散った。たしかに、これは個室にする必要がある。
そして、その物理的な刺激と冷水の心地よさとが相まって極上の快感が得られ、隣にある深さ90cmの水風呂に移動して肩まで沈み込むことで、僕の火照った身体は急激に鎮められたのだった。水温は17℃で、バイブラは無く、自分のペースでゆっくりと精神を統一することができた。これほどまでに包容力を感じた水風呂は初めてかもしれない。
その後、僕は ”ととのい椅子” を目指して露天スペースに移動し、まず39℃の「月見の炭酸泉」で呼吸を落ち着かせてからアディロンダックチェアに腰をかけた。そこで青空をぼーっと眺めていると、徐々に思考が停止していき、至福のひとときを味わうことができたのだった。最高の気分だ。
(※おでかけ体験型メディア SPOT: https://travel.spot-app.jp/ohuronokuni/ )
数分間の休憩を終えてから、僕は冷えた体を温め直すために、すぐそばにあった露天風呂に入浴をしてみた。
「ん? これって温泉?」
このお湯、なぜかしっとりとして、なめらかで、肌がすべすべする感覚を覚えたのだ。気のせいかもしれないけれど、もしかしたら水道水ではないのかもしれない。たとえ水道水であったとしても、個人的には温泉に入っているような気がして、とても心地が良かった。
そこで温まりながらリラックスしていると、ふと壁に貼られた「どうか皆様、会話をやめていただけないでしょうか」という注意書きが目に留まった。
そういえば、おふろの国には至るところにマナーを促す貼り紙が見られたが、周りには常連と思われる50代以上のお客さんばかりだったし、基本的にはおひとり様しかいなかったから静かで快適ではあったものの、とはいえマナーの良いお客さんばかりだったのは店舗の努力の賜物なのかもしれない。
僕は露天風呂で体を落ち着かせてから、今度は「高温サウナ」に入ってみた。こちらも先ほどのサウナ室と同じく18人が座ることができる広さがあり、テレビも設置されていたが、サウナストーブには遠赤外線ヒーターが使用されていた。温度は90℃で、湿度はそこまで高くなくカラカラしていた。
(※おでかけ体験型メディア SPOT: https://travel.spot-app.jp/ohuronokuni/ )
そこでも最上段に腰をかけてじっとしていると、気付いた時には大量の汗が流れ出していたため、7分ほどでサウナ室を出て水風呂へと向かい、今度は露天スペースではなく内湯の「人肌の湯」に入浴した。こちらは35.5℃の不感温で、宙を浮く感覚が得られた。あまりの気持ちよさに、僕はもうなにも考えられなくなってしまった。
それから、僕は空腹を満たすためにいったん浴場を出て食事をいただくことにした。ちなみに、おふろの国は浴場エリアと飲食エリア、そしてボディケアエリアが分かれていて、たとえば施設内にある食事処「涼みの台所・国(サウナ食堂)」だけの利用も可能だ。
(※おふろの国公式サイト: http://ofuronokuni.co.jp/service/13ofuro/ )
先ほど入国手続きをした受付で「またお風呂場に戻ってきたいのですが……」と伝えると、手の甲にスタンプを押してもらえた。どうやらブラックライトに反応する特殊なインクが使用されているようで、このスタンプを押してもらわなければ基本的に再入国ができないそうなので注意が必要である。
僕は一時的に出国をして、すぐ脇にある食事処に移動し、券売機で「からあげ噴火定食(750円)」のチケットを購入して厨房のスタッフに渡すと、程なくして僕の受付番号が読み上げられた。
山盛りのキャベツを囲む、カリカリに揚げられたサクサクの衣に包まれた6個の鶏肉は、大ぶりでジューシーだった。そこに「食べる辣油」をからめることで食欲も掻き立てられ、あっという間に平らげてしまった。窓の隙間から入り込むそよ風を受けつつ鶴見川を眺めながらいただく食事は、美味しさがより一層引き立ったのであった。
その後、僕は手の甲に押してもらったスタンプを受付のスタッフに見せて再入国し、サウナをさらに2セットいただいてから帰路に就いた。
おふろの国は、ただ大きなお風呂と気持ちのいいサウナを提供するだけの店舗ではなく、エンタメ色の強いイベントの開催やサービスを提供していることでも知られている。僕はそのチャレンジ精神を尊敬しているし、その過程で批判的な意見が出ることもあるだろうに、それでも前に進み続けている姿勢に憧れすら抱いている。
新しい発想を推し進めるには、根回し周囲の理解が必要なんてやってるうちに新しく無くなり、何の為にやろうとしていたのか、わからなくなるんだよね。
人々と分かち合うべきものか、今は理解されなくても、後に理解してもらえると信じ突き抜くものか?
ーー引用:林和俊『人々と分かち合うべきものか』
自分の中の正義を貫いた結果として、社会にとって必要なものは残り続けるし、不要なものは淘汰される。それが真理であるし、そういう意味でおふろの国の存在は正義なのだと思う。
「僕も、自分が正しいと思ったことをやり続けよう」
僕の心に、熱い波が打ち始めたのだった。僕には僕の使命がある。今日も#noteゼミを通じて、一人でも多くの「書ける人」を増やしていければと心に誓った。
(written by ナオト:@bocci_naoto)
YouTube「ボッチトーキョー」
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①僕たちは自費でサウナに伺います ②それでお店の売上が増えます ③noteを通して心を込めてお店を紹介します ④noteを読んだ方がお店に足を運ぶようになります ⑤お店はもっと経済的に潤うようになります ⑥お店のサービスが充実します ⑦お客さんがもっと快適にサウナに通えます