寄り道を求めて【オアシスサウナ アスティル@新橋駅】
人格は、さまざまな「経験」によって形成されていく。どの地域で生活をするか、だれと付き合うか、どのような芸術に触れたか、なにを食べたか、どれだけの失敗や成功をしてきたか……。このような数々の経験が、その人物たらしめるのではないだろうか。
(※僕が最近食べたもの)
そう考えると、人生とは「道」そのものなのかもしれない。きっと人間には死ぬまでに到達すべきそれぞれの「目的地」があって、そこにたどり着くために数々の「寄り道」が必要になるのだと思う。
それでいうと、僕は結婚のことを「ゴールイン」と呼ぶのは相応しくないと考えている。結婚は、お互いが自分自身の目的地に到達するための通過点で発生するライフイベントであって、人生のゴールはそこではない。結婚とは目的ではなく「目標」であり、目的地に到達するためにその人自身が必要とする「寄り道」だ。
さて、なぜ僕がこのような思想に至ったのかというと、僕が人生で唯一「判断を誤った」と言い切れる経験をしているからだ。それは大学受験のこと。
僕には、どうしても入学したかった大学があった。そこは受験業界において「難関大学」と呼ばれていて、僕は1日10時間以上を勉強に費やし、なんとかその大学への進学を決めることとなる。だが、そこから先が問題だった。
憧れていた第一志望の大学に進学できたのは良いものの、完全に燃え尽き症候群になったのだ。なにかやりたいことがあってその大学に進学したわけではなく、その大学のネームバリューに魅力を感じていただけだったことに入学してから気付いた。「◯◯大学のナオト」と言いたいだけだったのである。
今振り返ると、大学時代の思い出なんてほとんどない。その4年間でなにかをやり切ったわけでもないし、友人もほとんどできなかった。授業の内容も覚えていないし、勢いで加入したサークルにも途中から顔を出さなくなった。
当時はそんな自分が嫌になって、とにかく「何者か」になりたくて、興味を持ったものにはどんどん飛びついた。憧れていた大学に入学した意味を見つけたかったのだ。でも、その意味を見つけようと思えば思うほど空回りして、なにをやっても続かなかった。
そして、すべてが中途半端な4年間を過ごした結果、社会に出てから自分の未熟さを痛感させられたのである。
ただ、その経験がなければ今の自分が存在していないことも事実だ。かなり遠回りをしてしまったかもしれないし、時には道を引き返したこともあったかもしれない。しかし、最近になってようやく「自分らしさ」を見つけることができた気がしていて、本当の意味で人生が楽しくなってきたように思う。もっぱら、最近の自分はというと生活の80%程度をサウナが占めているのだが。
そんな今日、11月20日(金)も僕はサウナに向かうことになる。天気は曇り。Siriいわく午後からは晴れるらしく、気温は23℃まで上がるそうだ。
しかし、11時過ぎに自宅を出ると傘がぎりぎり要らない程度の雨がぽつぽつと降っているではないか。Siriはたまに僕を裏切る時がある。
最寄り駅まで急いで歩いて、向かった先は新橋駅。到着したのは正午ごろで、改札を出ると昭和と平成と令和が混在した風景が視界に飛び込んできた。飲み屋街とビジネス街がお互いに支え合っているようだった。
そして普段の生活圏とは違い、やはりこのエリアはスーツを着た30〜50代のビジネスパーソンが非常に多い。先日行ってきた赤羽は酒とタバコが似合う街だったが、新橋は酒とタバコに「ビジネス」の要素も加わった街だと思う。
この人たちも、きっとそれぞれの「道」を歩んでいるところなのだろう。僕も僕の道を進むとする。新橋駅を出て1分ほど歩くと、今日の目的地が見えてきた。
「ここが噂の……ずいぶんと立派な建物だ」
そう、今日の舞台は「オアシスサウナ アスティル」である。しかも、ただアスティルに来てみたかったわけではなく、明確な理由があってわざわざこの地にやってきたのだ。
その理由とは、熱波師「井上勝正」氏である。この日は、僕の自宅からのアクセスがそこまで悪くない新橋という地で、井上勝正氏による「熱波道」が催されることになっていたのだ。
以前から名前だけは何度も見聞きしていたアスティルに初めての訪問。それだけでも期待が高まっていたのに、さらに僕が数ヶ月前から気になっていた井上勝正氏の熱波を受けられるとなると、「楽しみ」という言葉では表現できないほど気分は高揚していた。
(「パネッパ」ってなんなんだろうか……?)
それにしても、井上勝正氏にここまで魅力を感じてしまうのはなぜだろう。普段のツイートから感じるエネルギーの源泉はどこにあるのか。そもそも、どのような方なのだろうか。
新橋駅に向かう電車の中でそんなことを考え始めた僕は、Googleで「井上勝正」と検索をしていた。そこでたどり着いたのが、井上勝正氏の半生に迫った記事だった。
ーー「泣き叫ぶ母と父を下ろして……」イジメ、父からの暴力、闇金、そして……カリスマ熱波師の人生は壮絶だった(五箇公貴 著)
https://bunshun.jp/articles/-/38488?page=1
幼少期のいじめ。父の死。傷だらけの心を救ったサウナの存在……。新橋に向かう電車の中で、僕の感情は大きく揺さぶられていたのだった。
その井上勝正氏の熱波をようやく受けることができる。覚悟を決めて、3階の受付へと移動した。初めて利用する場合は会員証(無料)を発行しなければならないそうで、ここで5時間コースの税込3,278円を支払い、ロッカーキーを受け取って奥へと進んだ。ちなみに館内着は2種類から選べるそうで、「ガウン」は少しオトナの香りを感じたため、僕は「カジュアル」を選択した。
(アスティル公式サイト: https://www.oasissauna.jp/img/20170516133842.jpg )
ロッカーを開けると、その中に館内着とフェイスタオル2枚、そしてバスタオル1枚が入っていた。館内着に着替えてさらに奥へと進むと、その広さとサービスの充実度に驚いた。
まるでホテルのようなラグジュアリーで落ち着いた空間。そしてヘッドスパやエステなどのリラクゼーションサービスをはじめ、館内のレストランではサウナ施設だとは思えないほどのこだわりのメニューがラインナップされている。まさに都会のオアシスだ。
【3階】
【4階】
(アスティル公式サイト: https://www.oasissauna.jp/sauna/ )
3〜4階は吹き抜けになっていて、らせん階段で繋がっている。さっそく4階へと上がり、パウダールーム(脱衣所)の中へ。ここもゆったりとした広さがあり快適である。館内着を脱いでロッカーにしまい、いよいよ浴場へと足を踏み入れた。
「すげぇ……」
浴場もめちゃめちゃ広い。なぜか「やっぱりアスティル!100人入っても大丈夫!」というセリフが脳内再生されたが、そのくらい広かった(実際には最大50〜60人くらいのキャパだと思う)。その広さに対して、この時間帯は僕を含めて15人ほどのお客さんしか浴場におらず、混雑している様子も見られない。
浴場の中心には大きなサイズのお風呂が設置されていて(上記マップQ部分)、それを囲むように ”ととのいベンチ” や十分な数のシャワー、奥には2種類のサウナと水風呂、さらにミルキーバス「湯布院の湯」の存在を確認することができた。
パネッパを心の底から味わうために、まずは事前にアスティルについて一通り把握して慣れておかなければならない。体を清めて、さっそくメインのお風呂に入浴してみた。ほどよい熱さのお湯で体がポカポカと温められる。次に「湯布院の湯」に入ってみると、こちらはやわらかい肌触りの優しいお湯だった。先ほどのお湯よりも温度が少し低く、リラックスしながら入浴することができる。
(アスティル公式サイト: https://www.oasissauna.jp/sauna/ )
「さて……では蒸されてみますか」
タオルで全身の水分を拭き取り、サウナ室へと向かう。入り口には「新橋サウナ道」の札が掲げられていて、少し気が引き締まった。現在のサウナ室内の温度が室外に表示されていたが、「実際の温度はそれよりも10℃ほど高い」との注意書きがある。ここでは70℃台が表示されていた。
いよいよ扉を開けて中に入ると、目の前にはサウナマットが積み上げられている。そこから1枚手に取って、2段構成の上段に腰をかけた。
(アスティル公式サイト: https://www.oasissauna.jp/sauna/ )
サウナ室の中は公式サイトの写真よりも薄暗く、広さは20人以上がゆったりと入れるほど。そして中心には神々しさを放つサウナストーブが鎮座し、その天井部分には近未来的なデザインのオートロウリュ装置があった。温度を確かめると80℃ちょうどだったが、体感では(おそらく)20〜30%の湿度が保たれていて、十分な熱さを感じる。すぐに全身から滝汗が流れ出した。とても気持ちが良い熱だった。
まずは軽めに7分ほど蒸されて、少し呼吸が荒くなってきたタイミングで水風呂へ移動したが、これに関しては見ただけでわかった。「絶対に気持ちいいやつだ」と。
(アスティル公式サイト: https://www.oasissauna.jp/sauna/ )
全身の汗を流してから、一歩ずつ奥へと進む。青い照明による絶大な癒し効果。そこで壁を伝って流れ落ちる17℃の冷水に身を委ねると、極上のヒーリングタイムが訪れた。
1分ほどが経過して水風呂から移動し、今度はタイル張りの”ととのい椅子”に体を預けてみる。
「うおおぉぉ〜〜〜!!」
興奮しすぎて心の中で叫んだ。ここで横になった人なら分かるかもしれないが、フィット感が半端ないのだ。危うく昇天するところだった。
(アスティル公式サイト: https://www.oasissauna.jp/sauna/ )
それから少し休憩し、今度はミストサウナの様子も確認してみる。中の温度は50℃弱。しかし、猛烈な蒸気が体を包んでくる。月光泉を思い出すほどの大量のスチームに視界が遮られて何も見えなくなった。経験上、ここで蒸されたら肌質が最上級に仕上がることなど僕にはお見通しだ。
(アスティル公式サイト: https://www.oasissauna.jp/sauna/ )
ミストサウナで5分ほど蒸されて、再び水風呂でクールダウンしてから”ととのいベンチ”で休んでいると、時刻は12時50分に。
(アスティル公式サイト: https://www.oasissauna.jp/sauna/ )
パネッパは13時から。スタッフの男性が浴場全体に呼びかけ始め、覚悟を決めた僕は5分前にサウナ室の中へと進んだ。
サウナストーブの正面上段に場所を確保する。13時ちょうどになると満席になり、ついに登場した井上勝正氏。僕は心の中で「うおぉ! 本物だ……!」とこっそり興奮していた。
とはいえ、ここからが少し特殊(というよりも僕が経験したことが無いロウリュ)だった。
いったいどのようなパフォーマンスを見ることができるのかと期待が高まる中、驚いたことに最初の5〜6分ほどはずっと一人で喋っているではないか。ただただ「サウナ」について語り続けているのだ。
「目で見えるものは水蒸気であって、ロウリュとは違います。ロウリュは気体で、だから目では見えません。では、サウナとはなにか? サウナとは呼吸です。呼吸をととのえ、『気』を感じてください。ロウリュは心で感じるものであって、人によって見え方・感じ方が違うんです。熱せられた空気を体内に取り込んで、日頃の不安や悩みをすべて焼き尽くしてください」
一通り語り終わった後、アシスタントの男性がジンジャーのアロマ水を大量にサウナストーンにかけていく。それからもひたすら語り続ける井上勝正氏。熱に耐えきれない退室者が続出し、そのたびに「紳士に拍手を」と送り出す。
その後、「気」を送り込むように手で室内の空気をかきまわし、「バンッ!」とダイナミックな音を立てながらタオルで気流を生み出していく。空気に生命が宿り、井上勝正氏の身体から鳳凰が羽ばたいていく。
それからだった。いよいよ108回仰がれる熱波。煩悩という煩悩が焼かれていく。今この瞬間に集中せざるを得ない。少しでも油断したら危険だ。これが噂のパネッパか……。熱い。熱すぎる。正直、僕の体は限界を優に超えていた。退室者も後を絶たない。しかし、待ちに待ったパネッパ。この108回を乗り越えた先になにかが待っている。そう信じて最後まで熱波を受け続けた。
ようやく108回目の熱波を受け終えた僕は、すぐに水風呂へ駆け込んだ。1分ほど経過すると、五感は研ぎ澄まされ、思考が徐々に停止していき、心臓の鼓動がゆっくりと鎮まっていった。そっと目を閉じる。
「そういえば、サウナ室の中にいる時はあまり意識していなかったけれど、ユーモラスで無邪気さがあって、少年がそのまま大人になったような方だったな……」
ふと、先ほど電車の中で読んだ記事のことを思い出した。井上勝正氏の人生に思いを馳せる。
10年前にはロウリュや熱波という言葉は定着していなかった。それゆえ当初は、お客さんには不評で全く受け入れられなかったという。
「最初は月に1回程度で、全く生活の足しにはなりませんでした(笑)。林さんはいずれ他の施設にも派遣して……というようなことを考えていたみたいですけど、僕自身全くピンときてなかったし、そもそもロウリュをちゃんと理解できていなかった。熱された石にアロマ水をかけて、とりあえず『あおぎます』とか言いながらやっていました。
お客さんに『いらない』ってはっきり言われたことや、タオル投げられたことも数え切れないほどありましたよ。それでも地道にやり続けたら少しずつ喜んでくれる人が出てきて。なによりやっているうちに、自分がどんどん健康になっていることに気づいたんです」
ーー大日本プロレスの元レスラーが熱波師に…… 「いらない」と言われてもサウナで“熱波”を送り続ける理由とは(五箇公貴 著)
https://bunshun.jp/articles/-/38489?page=2
これまでの人生で多くのことを抱えて、その度に乗り越えてきた一人の人間が放つ「魂の熱波」。今まで僕が受けてきたアウフグースはエンタメ要素が強く、それはそれで満足度が非常に高いパフォーマンスだった。ただ、井上勝正氏が放つ熱波は、僕がこれまで受けてきたものとは比較ができない「重みと厚さ」があった。
いつの間にか、僕の目には大量の涙が溢れていた。
ーーなるほど。たしかに軽快なタオルパフォーマンスによる”魅せるアウフグース”とは異なり、これは心に通じる「道(どう)」だ。”熱波道”たる由縁はここにあるのか……。
体は十分に冷やされ、再びタイル張りの”ととのい椅子”へ。視界がぼやけてくる。もうなにも考えられない。筆舌に尽くし難い幸福感。深く息を吸い込み、時間をかけてゆっくりと吐き出すと、先ほどの涙は微笑みへと変わっていった。
人生には、心のオアシスが必要になる時がきっと来る。そんな時に「熱波道」という道を通る人生も、悪くない。
それから約2時間後。僕は再び108回の熱波を浴びて、水風呂へと向かった。
(written by ナオト:@bocci_naoto)
YouTube「ボッチトーキョー」
https://www.youtube.com/channel/UCOXI5aYTX7BiSlTt3Z9Y0aQ
①僕たちは自費でサウナに伺います ②それでお店の売上が増えます ③noteを通して心を込めてお店を紹介します ④noteを読んだ方がお店に足を運ぶようになります ⑤お店はもっと経済的に潤うようになります ⑥お店のサービスが充実します ⑦お客さんがもっと快適にサウナに通えます