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その正解を誰も知らない【水道橋サウナ&カプセルホテル アスカ@水道橋駅】(2/2)

  水道橋駅に着いたのは午前10時を少し過ぎた頃だった。記憶にある限りでは、ここに来たのは人生で3回目である。1回目は気になっていたラーメン屋を訪れた時、2回目は東京ドームホテルに泊まった時だが、基本的に用事ができなければ来ることは無く、つまり土地勘なんてものは無い。

 ただ、今回の目的地は駅を出てすぐに見つけることができたのだった。改札を抜けた正面のビルに大きく「ラドンサウナ」と書かれた看板が設置されていたためである。

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 僕はそのビルを目指して歩き始めると、脇道に入ったところで味のあるネオンの看板が目に留まったのだった。

「これが最初で最後になるんだよな……」

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 そう、今回伺ったのは「サウナ&カプセルホテル アスカ」だ。なぜ今回が最初で最後になるのかというと、実は9月10日で閉店することが決まったためである。
 僕がそれを知ったのは8月26日のことだった。いつものようにTwitterを眺めていると、目を疑う情報がタイムラインに流れてきたのだ。

 まさか、すでに行く予定を立てていたサウナが閉店を発表するなんて信じられなかった。もちろん、一番良いのは普段から売り上げに貢献して閉店という最悪の事態を回避できるようにすることではあったが、いかんせんアスカは僕の生活圏外にあり、なかなかそういうわけにもいかなかった。
 そんなサウナにたまたま閉店直前に伺う予定ができたのは、僕からすると運がいいことではあるけれど、正直なところ複雑な心境でもある。
 ただ、せっかくの新規開拓なのだ。ここで変に気持ちを抑えるよりも、この1回を精一杯楽しませてもらうことが、アスカへの感謝の気持ちにもなるだろう。

 そう思いながらエレベーターに乗り込み3階に上ると、Twitterで何度も見かけたことのあるヴィーナスが僕を迎えてくれた。いったい今まで何人のサウナ愛好家がこの像をカメラに収めたのだろうか。その歴史を想像すると気持ちが高まってしまい、僕もつい反射的にスマートフォンを取り出して、シャッターを切っていた。

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 受付は、ヴィーナスに向かって左側に進んだところにあった。僕はまず下駄箱に靴を預けて、それから受付で「90分入泉コース」を利用したい旨を伝えると、1,300円を支払ってロッカーキーと館内着、そしてタオルセットを受け取った。
 ロッカースペースは受付と隣接していて、噂に聞いていた細長いロッカーがアスカらしさをさらに演出していた。僕はさっそく準備を済ませて、そこから直接繋がっている浴室へと足を踏み入れたのだった。

「お〜、なかなかシンプルだ」

 全体的にコンパクト浴場からは、場末的でノスタルジックな雰囲気を感じ取ることができた。とてもシンプルな構造で、お客さんは僕のほかに2〜3人程度しか見当たらない。
 僕はさっそく身を清めて、お風呂に浸かったあとに全身の水分をタオルで拭き取り、サウナ室の扉を開けたのだった。

「意外と広めだな」

 サウナ室の中は2段構成で、対面するように左右の壁にベンチが設けられている。物理的には16人程度が座れるほどの広さがあるだろうか。照明は比較的明るく、突き当たりには音声つきのテレビが設置されていた。
 先客は一人だけいたので、その男性から距離を取ったところの空いている上段に腰をかけて温度計を見てみると、116℃を指していた。しかし、湿度は低くカラッとしているので、かいた汗がすぐに蒸発してしまうために体感温度としてはそこまで高くはない。まさに「昭和ストロング系」に括られるタイプのサウナだ。男のオアシスが、ここにある。
 そこでテレビを眺めながら静かに蒸されていると、徐々に全身からは大量の汗が流れ出すようになり、呼吸が荒れ始めた。僕はタイミングを見計らってゆっくりと立ち上がり、サウナ室を出て汗を洗い流してから水風呂に肩まで沈み込んだ。

「おお、これは大好きなセッティングだ」

 水温は19℃でバイブラは無く、他のお客さんとタイミングがかぶっていないために貸し切りだ。そこでじっと冷やされていると羽衣が徐々に形成されていき、次第に意識がぼんやりとしてきたのだった。

「そろそろだな……」

 僕は立ち上がり、浴室内に設置された ”ととのい椅子” に腰をかけて全身を脱力させ、目を閉じてアスカが紡いできた物語に思いを馳せた。
 アスカはサウナ愛好家だけではなく、近くに後楽園ホールがあるために数々の格闘家も足を運んでいたそうだ。そのひとりひとりがこのサウナで汗を流し、時には涙を流して生きる活力を見出してきたのだろう。
 今日は「気持ちいい」という言葉では表現しきれないさまざまな感情が、僕の心に湧き上がってきたのだった。このような郷愁的なサウナも、悪くない。

 結局、僕はそれからさらに2セットをいただいて、下のフロアにあるリクライニングシートで少し休憩をしてからアスカを後にした。

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 僕は僕が正しいと思った道を選択した結果、偶然にも閉店前にアスカに訪れる機会を得ることができた。自分の心と向き合って、自分の気持ちに素直に生きていれば、運はあとからついてくるのかもしれない。未来の正解なんて誰にもわからないのだから。

 帰り際、壁に貼られた店舗からのメッセージが目に留まった。そこには「長い間本当にありがとうございました。」と書かれていたが、ありがとうと言いたいのはこちらのほうである。36年間おつかれさまでした。そして素晴らしいサウナをありがとうございました。

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(written by ナオト:@bocci_naoto)

YouTube「ボッチトーキョー」
https://www.youtube.com/c/boccitokyo


①僕たちは自費でサウナに伺います ②それでお店の売上が増えます ③noteを通して心を込めてお店を紹介します ④noteを読んだ方がお店に足を運ぶようになります ⑤お店はもっと経済的に潤うようになります ⑥お店のサービスが充実します ⑦お客さんがもっと快適にサウナに通えます