それは許容と理解から始まった【サウナ&カプセルホテル北欧@上野駅】
社会に出て1年目の頃、僕はとにかく仕事ができなかった。もちろん今でも完璧に仕事ができるようになったとは思っていないのだけれど、そんな自分でも分かるほど、当時は営業マンとして全く成果を出すことができなかったのだ。上司からは毎日のように叱られ、鬱の一歩手前まで精神が病んだこともあった。
ただ、それから必死にもがいた結果としてトップセールスになることができた時に気付いたのは「仕事ができなかった」というよりは「仕事の内容が自分に合わなかった」ということだった。トップセールスになったところで心が満たされなかったのである。営業という仕事は僕には向いていなかったのだ。
とはいえ、あの時に自分自身の能力不足や上司・同僚との人間関係の歪みを感じ、そしてそれを乗り越えることができたからこその今の生活があるのも事実。苦労はしたけれど、お金には代えられない貴重な経験ができたと思う。
あの時の経験から学んだことは山ほどあるが、その中でも特に今の僕の価値観に影響を与えているのは「人を動かすための作法」だ。これは、性格が真逆な2人の上司とのコミュニケーションを通して気付くことができた。
最初に僕の上司に就いた方は体育会系の気質があり、2人目の上司に就いた方は文化系の気質だった。僕はその1人目の上司のもとで働いていた時に全く成果が出せず、次の上司のもとで働くようになってからは右肩上がりで営業成績を伸ばすことができたのだ。
その2人の上司の違いは明確で、僕のことをどれだけ理解したマネジメントをしてくれたのか、これに尽きるのだった。
僕が何度も繰り返し読み込んだD・カーネギーの著書「人を動かす」にも以下のようなことが書かれている。
人を動かす唯一の方法は、その人の好むものを問題にし、それを手に入れる方法を教えてやることだ。
相手はまちがっているかも知れないが、彼自身は、自分がまちがっているとは決して思っていないのである。だから、相手を非難してもはじまらない。非難はどんなばか者でもできる。理解することにつとめなければならない。賢明な人間は、相手を理解しようとつとめる。
相手に動いて欲しいのであれば、まずは相手のことを理解するところから始めると効果的なことが多い。その点、僕の1人目の上司はとにかく自分の考えややり方に僕を従わせようとしてくるばかりだったが、2人目の上司は僕にたくさんの質問を投げかけて傾聴してくれて、僕のことを理解しようと努めてくれたのだった。
あの時に僕が感じた苦しみは誰にも味わって欲しくないし、僕自身ももう味わいたくは無い。ただ、それを実現できる会社となかなか出会うことができないので、僕は会社に属さずに独立することにしたのだった。
フリーランスという生き方について、現在までに多くのメリットを感じているが、その中の一つに「時間のコントロールが自由になったこと」が挙げられる。混雑必至の人気のサウナにも、空いている時間帯を狙って伺うことができるのだ。
そして今日、2020年12月21日(月)も、僕は「今年のサウナは今年のうちに」を合言葉に、一人のサウナファンとしての使命感に駆られて超有名店に伺うことを決めたのであった。サウナに通う習慣があれば知らない人はいないであろう、上野の「サウナ&カプセルホテル北欧」に。
僕がなぜこのタイミングで北欧に伺うことを決めたのか。それは、いくら人気のサウナであっても突然閉店する可能性があることを知ったためだ。
だからこそ、以前から気になっていたサウナには行ける時に行かなければならないと思ったのだ。特に北欧はドラマ「サ道」の舞台になっていることもあって、いつか行ってみたいと思っていたのだった。
公式サイトを見たところ、料金は現地払いだが完全予約制となっているようだった。3時間の制限つきで税込2,000円。これによって混雑は回避できそうだ。
スケジュールを確認しながら、無事に当日の朝に予約手続きを済ませることができた僕は、予定時刻の10分ほど前に上野駅に到着した。しかし、改札を抜けて外に出るとすぐに北欧の看板が視界に入ったのだが、ここで思わぬハプニングが。
なんと、看板を目指して建物に近寄ったところ、どうやら入り口は反対側にあるらしい。5分前に到着できたと思って安心しきっていたのだが、少しだけ動揺してしまった。
気を取り直し、先ほどの裏口から3分ほど歩いて、ようやく正面の入り口に到着。ドラマ「サ道」で見覚えのある看板はこちら側で撮影されたものだった。
建物の中に入り、エレベーターで受付がある6階に降りると、目の前には大量のサインが飾られていた。さすがサウナの名店である。
靴箱に靴を預け、受付でスタッフの方に名前を告げるとすぐ脇にあるロッカースペースに通された。そこに設置されている棚からタオルセットと館内着を受け取って着替え、ロッカーに荷物を預けてさっそく7階の浴場へと階段を経由して向かった。
(北欧公式サイト: https://www.saunahokuou.com/facility )
脱衣所に到着し、脱いだ館内着を棚にしまって、いよいよ浴室への扉を開ける。
(北欧公式サイト: https://www.saunahokuou.com/hot_spring )
「意外と広いな〜」
中は全体的にゆとりのある設計で、洗い場のシャワーは十分な数があり、各浴槽のサイズも申し分なかった。
そして完全予約制かつ平日のお昼の時間帯だったからか、この時点では混雑している様子は見られない。
(北欧公式サイト: https://www.saunahokuou.com/hot_spring )
さっそく身を清めて、まずは奥にある内湯(ジェットバス)に入浴。ここと露天スペースはドアで仕切られてはいるものの、基本的にそのドアは常に開放されているので半露天状態だった。外気を浴びながら入浴できる熱めのジェットバスは気持ちがいい。
(北欧公式サイト: https://www.saunahokuou.com/hot_spring )
体を温められたところで、次に北欧名物でもある露天風呂の「トゴールの湯」に入浴。トゴールとは新潟県栃尾又温泉の湧出地帯で産出される鉱物のことで、この成分がお湯に溶け出すことで水質が変化するらしい。たしかになんとなく肌触りがなめらかな気がする。しかも僕の大好きな不感温の設定。これは水風呂後に活躍すること間違いなしだろう。
(北欧公式サイト: https://www.saunahokuou.com/hot_spring )
「トゴールの湯」は新潟県栃尾又温泉付近から産出される風化鉱物(トゴール・ウォームタイト/医薬部外品45D283号)を使用した入浴設備です。
「トゴールの湯」に含まれる科学成分が皮膚を軽く刺激して新陳代謝を盛んにするため、血液の流れが活発になり保温・保湿・洗浄効果に優れ、筋肉の凝りを和らげます。
ーー北欧公式サイト( https://www.saunahokuou.com/hot_spring )
また、露天スペースには ”ととのい椅子” がずらっと並んでいるだけではなく、スカイスパに置かれているものと同じタイプのリクライニングチェアも複数用意されていた。
「役者は揃った。では、向かいますか」
サウナ室の前にはビート板のサウナマットが用意されていて、サウナハットを掛けるためのフックも大量に設置されていた。さすが北欧様、わかっていらっしゃる。
いよいよドアを開けると、すぐ左手に大きなサイズのサウナストーブと弧を描いたダイナミックな反射板が視界に入った。中は写真で見た印象よりも広く、おそらく20人程度が入ることができる3段構成。上部に設置されている温度計は110℃を示していたが、実際のところは最上段でも体感で100℃程度だろうか。低い段は70℃前後のようなので、体調や好みに合わせて座る位置を調整できるのはありがたい。そして嬉しいことに、セルフロウリュも可能だった。これで湿度もばっちりキープできる。
(北欧公式サイト: https://www.saunahokuou.com/hot_spring )
ここで意外だったのは、音声ありのテレビが設置されていたことだ。ドラマ「サ道」では登場人物たちの会話が盛り上がる場所という印象が強かったこともあって、他の音は聞こえて来ることがなく、テレビの存在には気付かなかった。そのため、黙々と静かに過ごすタイプのサ室かと思いこんでいたのだ。
とはいえ、やはり名店のサウナは妙な高揚感を抱くものだ。ずっと前から憧れていたサウナで蒸していただけることに感謝である。他のお客さんがロウリュをしてくれたこともあって、気付けば数分で全身から汗が流れていた。
1セット目は軽めにいただこうと思っていたので、限界を迎える少し手前でサウナ室を出て、汗を流してからすぐ隣の水風呂に肩まで沈んだ。
「うおおおぉぉぉおおお!!! 冷たい!!!」
(北欧公式サイト: https://www.saunahokuou.com/hot_spring )
水温は14℃で、バイブラは無し。十分な深さがあるので全身を満遍なく一気に冷やし上げることができる。このタイプの水風呂、大好物です。
30秒ほど冷水を味わい、露天スペースへと移動して、僕は ”ととのい椅子” に腰を掛けた。
「ふおおぉぉおお〜〜〜……」
肺の中に溜まっていた空気が自然と外に漏れていく。全身の力が抜けて、そのまま空を見上げていると、なんともいえない幸福感に包まれたのだった。そこで何度か深呼吸を行って心拍を落ち着かせてから不感温のトゴールの湯に身を委ねれば、昇天しないわけがなかった。
しかし、やはり超人気店でもある北欧。グループ客が何組も来ていて、至るところで楽しそうな会話が繰り広げられている。これも人気店ならではの光景なのだろうか。ただ、温浴施設を利用する目的は人それぞれで、コミュニケーションの場として利用したい方々もいるのだろう。近くを通りかかったスタッフの方もなにも注意をされていなかったので、僕も「ここはこういう場所なのだ」と割り切ることにして、軽くもう1セットをいただいてからいったん浴場を出ることにした。
(北欧公式サイト: https://www.saunahokuou.com/facility )
次に向かったのは5階のレストラン。階段を降りると、リクライニングシートが大量に並んでいるリラックスルームに到着した。漫画も豊富に揃っていて、この間接照明に照らされた無音の空間で横になったら、あまりの居心地の良さに時間を忘れてしまいそうだ。そして少しわかりにくかったが、レストランはリラックスルームの更に奥にあった。
(なんとなく見覚えのあるテーブルに着いてしまった)
さっそくメニューを確認。人気が高いのは「北欧特製カレーライス」らしく、これはもちろん注文することにしたのだが、せっかくならもう1品くらい追加したい。
迷った挙げ句、僕が選んだのは「若鶏の唐揚げ(500円)」だ。これに関しては直感だった。でもきっとハズさないだろう。
この時点で僕の他にお客さんはおらず、注文してから数分で品物が運ばれてきた。
ーーおいしくないわけがない……。
これは見た目でわかる。絶対に美味しいやつだ。僕は興奮を抑えながら、まずはカレーを一口いただいてみることにした。
「んめぇえええええ!!!www」
噂は本当だった。確かにこれは美味しい。もう少し具体的に感想を述べるなら「この値段でこのカレーをいただくことができるのは満足度が高い」という表現が適切かもしれない。
僕は今回400円のハーフサイズを注文したのだが、余裕で牛丼(並)くらいのボリュームはあるし、むしろそれよりもやや多いかもしれない。そしてなによりルーが美味い。スパイシーではあるものの、おそらく長時間煮込まれた牛肉の脂と旨味が溶け込んでいるのか、奥深いコクと甘みも感じることができる。ごろっと大きめにカットされた野菜も柔らかく仕上がっていて、どこか懐かしさを感じることができる家庭的な欧風のカレーライスだった。これは僕の期待を軽く超えてきた。
次に唐揚げもいただいてみたが、こちらもなかなかのボリュームで期待通りの美味しさ。なにか特徴があるわけではないのだが、一つ一つが大きいわんぱくサイズで、王道中の王道を攻めた万人受けするストレートな味付けが食欲をそそる。サクサクな衣に包まれた鶏肉からはジューシーな肉汁が溢れ出し、飽きが来ない中毒性の高い唐揚げだった。
(気付いたら唐揚げをカレーに乗せて合法ドラッグを生み出していた)
あっという間に食事を終えてしまい、僕は少し休憩をしてから再び浴場に戻った。ただ、今回はあるアイテムを持ち込むことにしたのだ。そのアイテムとは「耳栓」である。
実は以前から、温浴施設での周囲のお客さんの会話が気になって仕方なかったのだ。僕は自分自身と落ち着いて向き合う時間が欲しくてサウナに通っているのだが、そのためにはなるべく外部刺激を受けないようにしたいものの、人気の店舗ほどグループ客の会話によって集中力が削がれてしまうことがあったのである。
そこで購入したのが耳栓だった。そして今日、いよいよその出番がやってきたのだ。僕はロッカーに戻って耳栓をカバンから取り出し、サウナへと再び向かった。
だが、結果的にこれが期待以上の効果をもたらしたのだった。サウナ室に入って耳栓を装着してみると、おもしろいくらいに心臓の鼓動(正確には脈拍だと思う)が聞こえてくるようになったのだ。
初めの頃は「ドク………ドク………ドク………ドク………」という間隔だったが、次第に「ドク…ドク…ドク…ドク…」と加速し、数分後には「ドクッドクッドクッドクッ」と大きく激しくなった。耳栓を着けただけで周囲の雑音が聞こえにくくなるだけではなく、より一層自分自身と向き合うことができるようになったのである。
心臓の鼓動は、それから水風呂に入っている時にも変化を感じることができた。冷水に浸かった直後は「ドクッドクッドクッドクッ」と激しく動いているままなのだが、深呼吸をしながら20秒ほど経つと「ドク……ドク……ドク……ドク……」とペースが遅くなっていくことが鮮明にわかる。これはすごい。
それから外気浴を始めると、やはりここでも心臓の動きをダイレクトに感じることができた。すると、無意識に目が半開きの状態になり、そのまま体内の音に耳を傾けていると、次第に目の前がクラクラしてきた。
ーーなんだ、なんなんだ、この感覚は……。こんなに没入感のあるサ活は初めてかもしれない。周囲から隔離された一人だけの世界。これは僕だけの世界なんだ……。
時間を忘れて心臓の鼓動に耳を傾け続けた僕は、気付いた時には上野の空をぼーっと見上げながら、宇宙と一体になっていたのであった。
今回、僕は周囲の環境を自分好みに変えようとせずに、まずは相手を受け入れて、状況を理解してから自分の行動を変えることによってサウナの新しい嗜み方を会得することができた。
「この経験は、お金には代えられないな……」
僕は多幸感を覚えながら、再び悦びを得るためにサウナ室へと向かい、耳栓を装着し直した。
(written by ナオト:@bocci_naoto)
YouTube「ボッチトーキョー」
https://www.youtube.com/channel/UCOXI5aYTX7BiSlTt3Z9Y0aQ
①僕たちは自費でサウナに伺います ②それでお店の売上が増えます ③noteを通して心を込めてお店を紹介します ④noteを読んだ方がお店に足を運ぶようになります ⑤お店はもっと経済的に潤うようになります ⑥お店のサービスが充実します ⑦お客さんがもっと快適にサウナに通えます