Mくんの話



人生で一番はじめに「現実」をみたのは小学校の時だったと思う。

うちの小学校は特殊な地域だったからか?

親の職業がとんでもなく幅広く

医者・弁護士・大学教授・検察官・企業トップ・会社社長・教師・寺院

工務店・材木屋・ITエンジニア・看護師・タクシー運転手・年金受給者まで

年収順で上から下まですべて網羅していたんじゃないかというほど

エゲツなかった。

「世の中とは不平等なものである」

どうしようもない「現実」というのを目の当たりにした。






小学校の時、Mくんという男の子がいた。

Mくんは所謂「悪ガキ」でひとつも先生の言う事を聞かないので

よくシバかれていた。

自分の時代は体罰が許されていた時代なので当たり前の光景だったりした。

Mくんは悪ガキだけど威圧感のあるガキ大将というタイプではなく

ひょうきんものキャラでとにかくよく喋っており話がクソ面白かったので

先生からは嫌われ者だけど友達には人気者だったりもした。

自分がMくんの隣の席になった時はとにかくお喋りが止まらず

話があまりにも盛り上がりすぎてMくんと一緒に自分も殴られていた。

そしてMくんは「勉強をいかにしてサボるか」しか考えてなかったので

それに自分も乗ってMくんとのサボりの連係プレイを編み出したりもした。

Mくんの「勉強をサボりたいという夢」を実現するために

計算ドリルは自分が解いた後に当たり前のようにMくんに渡すを確立。

漢字ドリルは自力で書くしかないため断念。

さらにテスト中のカンニング成功率は90%を記録した。

(隣の席なので余裕だったが、たまにミスってまた殴られていた)

一応Mくんの夢はほぼほぼ実現されたと思う。

そんなMくんとの隣の席の日々を送っていたある日、ふとMくんに

「どうしてそんなに話をしたがるのか?」

と聞いたことがあった。

すると、一瞬だけ淋しそうな顔をして

「オレ家に帰ってもお前と違って親いねーし。喋る人いねーんだわ。」

Mくんは両親に育てられておらずおばあちゃんと暮らしていた。

おばあちゃんと不仲というわけではなかったらしいけど

Mくんには居場所がなかったらしい。

この時初めて「どうしてMくんがあんなにもお喋りをしたがるのか」が

自分は分かったような気がして、

その後なんて言っていいのかわからなくなってしまったのをよく覚えている。

Mくんがあんなに淋しそうな顔をしたのを見たのはこれが最初で最後だった。

それ以降同じクラスになることがなく疎遠になってしまったMくんと

再び直接顔を合わせたのは騎馬戦での頂上決戦だった。

自分は女子にも関わらず男女混合の騎馬戦において

異例の5人抜きを達成してしまい栄えあるファイナリストに

その頂上決戦の対戦相手がMくんだったのである。

「強いモノが残ったのならば、女でも容赦しねぇ」

Mくんは昔から「強い奴としか喧嘩しない」と徹底したところがあり

決して弱いものイジメはしなかった。

そして「男とか女とか関係ない」という超平等主義でもあった。

そのMくんがフルスロットルで自分を倒しにかかった。

人間が原始的に持っている闘争本能をまざまざと見せつけられ

自分もファイナリストになるまでにそれなりに戦テクニックを身につけてきたにも関わらず

Mくんは秒殺で自分に土をつけた。

やはりリアルストリートファイターは戦の場面になると本領発揮の大爆発で、

人間がここまでなるのかと思うぐらい、凄まじく殺気立っていた。

そしてMくんは落下した自分に同情することもなく手を差し伸べることをしなかった。

それがMくんがリアルストリートファイトで学んだ「ケンカの美学」なんだろうとも思った。

久しぶりに直接顔を合わせたMくんとはかつてのように談笑することもなく

ただただ無言で戦を終え、それ以降この話をすることもなかった。

それから中学校にあがってすぐのある日

突然Mくんは少年院に行ってしまった。

やっぱり「強い奴としか戦わなかった」らしい。

” Mくんらしいといえばらしいけど、ちょっとやりすぎだよ ”

とも思った。

かつて自分とお喋りしまくっていたひょうきんもので面白いMくんが

急に周りから「極悪不良少年」として扱われることになって

自分はたくさんお喋りしたし家庭事情とかMくんの気持ちを知っていたので

ちょっと複雑な思いに駆られていた。

「本当にMくんのことを理解しようとした大人はいたんだろうか」

どうしてMくんがイタズラばかりしていたのか

どうしてMくんがあんなにもお喋りが好きだったのか

どうしてMくんがあんなにもケンカに明け暮れていたのか

多分あの時にMくんを理解しようとした大人はいなかったんだと思う。

体罰が許されていたから、悪いことをすれば殴ればいい

そう思っていたのかもしれない。

もちろんやりすぎてしまったMくんが悪いのは間違いないけど

小さな頃から家庭に居場所がないMくんがそうなってしまった背景も

少しは考えてあげられたら良かったのにな、とは思った。

Mくんはその後一度少年院を出たけどまたすぐに少年院に行ってしまい

それ以降、Mくんの姿を見ることはなかった。

今、どこでどうしているのか知らない。




「世の中とは不平等なものである」

それを教えてくれたMくんともしもこの先ばったり会うことがあれば

その時は昔の呼び捨てで声を掛けてやろうと思う。

かつて「極悪不良少年」と呼ばれたMくんだけど

自分にとっては沢山お喋りして面白かったMくんのままである。

そして今現在

小さな頃から家庭に居場所のなかったMくんが

自分の居場所を持っていればいいなとも思っている。



「世の中とは不平等だが、誰しも幸せになる権利はある」







拙い文章お読みいただきありがとうございました。





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