![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/146100161/rectangle_large_type_2_6b432ffb33c6023369e046f028b2b44f.png?width=800)
16歳の私は彼女に恋をした|第1話|前編
あらすじ
「私」はこの春高校に入学した女子高校生。偶然隣の席になったクラスメイトの「彼女」に心を奪われてしまう。初めて同性に恋をした私は彼女への想いを募らせて、次第に激しい嫉妬心、独占欲、さまざまな感情に揺れ動かされていく。10代の多感な心模様に振り回されながら、ひた向きに相手を想い続ける。そんな女子高校生の実り叶わぬ、切ない"初恋"を描いた物語。(前後編2部作)
前編
うららかな春の日───
私は高校の入学式を迎えた。
「優しくてかっこいい彼氏が欲しい」
私は新しい出会いに胸を膨らませている。
高校生活で青春を謳歌することが私の憧れだった。
教室のドアに貼られている座席表を眺める。
(窓側から2列目の…)
自分の席を確かめてそっと教室を覗き込む。
すると窓際に座っている"彼女"に目が留まった。
窓から差し込む日差しでフィルムカメラを覗いているように、ぼんやりと見える。
「あんなに綺麗な子は見たことない…」
彼女に見惚れているうちに思わず自分の席を忘れてしまった。
私は座席表に視線を戻す。
彼女のとなりの席だった───
「となり同士仲良くしようね」
耳心地のいい優しい声がした。
彼女の透き通るような白い肌
艶やかで長い黒髪
真っ直ぐに私を見つめた瞳から目が離せなかった。
鼓動が激しくなる。
バスケ部の先輩に恋をした時と同じだ。
私は異性にしか恋をしたことがなかった。
「きっと入学初日で緊張しているせいかも」
そう自分に言い聞かせていた。
・
私は部屋の灯りを消して目を閉じると、彼女のことを考えていた。
「明日は何て話しかけよう。好きな食べ物とか音楽、それから好きなタイプは…」
思わずため息をついてしまう。
彼女に近づきたくて仕方がなかった。
「私が男子なら絶対に告白する」
そんな妄想をしている自分に違和感を覚えながら何度も寝返りを打つ。彼女の潤んだ瞳、華奢な首筋まで鮮明に浮かんでしまう。
スマホの待受画面は3:26を示していた。
先輩に恋をしたあの日も胸が高鳴って眠れなかった。
まるで彼女に恋をしたみたい──
私は彼女に"一目惚れ"してしまった。
・
「おはよう」
玄関で靴を履き替えていると後ろから声がした。
振り返ると彼女の姿があった。
私は思わず甲高い声で挨拶を返す。
恥ずかしさのあまり彼女に視線を向けることができなかった。
・
1時間目が終わるチャイムが鳴った。
「次の授業で使う英語のテキストを忘れちゃったの」
彼女は遠慮がちに喋りかけてきた。
「よかったら私のテキストを一緒に見よっか」
「ありがとう、助かった。優しいね」
私は舞い上がる気持ちを抑えきれず、勢いよく椅子から立ち上がった。そして彼女の席に机を寄せて授業に臨むことにした。
彼女からほんのりと清潔感のある香りが漂っている。
何の香りだろう───
彼女の雰囲気によく似合う香りだった。
ついぼんやりとして教師の声は全く耳に入ってこなかった。
「ここを英語にしてみなさい。テキストを忘れてきた、君」
彼女の名前が呼ばれて、はっと我に返る。
"Well, it’s an unexpected meeting, right ?"
教室中がざわついていた。
彼女はあまりに流暢な発音だった。思わず目を丸くして彼女を見る。
「じつは去年の秋までカリフォルニアで暮らしていたの」
彼女は生粋の帰国子女だった。
他の人にはない魅力を兼ね備えた彼女に、さらに心を惹かれてしまう。
「私も海外に行ってみたいな」
容姿端麗な上に私の知らない世界を知っている彼女は"憧れ"だった。
・
彼女とは授業の合間にお喋りしたり、一緒に昼食をとる仲になっていた。
放課後は学校近くのカフェで過ごす時間が楽しみだった。
彼女はいつもミルクティーを頼む。それがお気に入りだった。
「気になる男子は見つかった?」
彼女に尋ねられた。
あれほど出会いに期待していた私が
「男子には興味ない」と素っ気なく答える。
「私もだよ。彼氏なんかいなくても楽しいもん」
そう言って私に微笑んでくれた。
これほど学校生活で充足感を得たことはなかった。
彼女に会えると思えば学校に向かう足取りは軽い。
彼女と過ごせる毎日は私の"青春"だった。
・
彼女は私以外のクラスメイトと仲良くしようとはしなかった。
彼女の1番近くに居られることが誇らしい。
いつしか「私のそばにだけ居て欲しい」そう思うようになっていた。
私にとって彼女は「ともだち」や「親友」と言えない唯一の存在だった。
それを言い表すことはできない。
言葉にしてはいけない気がしていた。
私にとって彼女の存在は"恋人"みたいだなんて、誰にも言えなかった。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?