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16歳の私は彼女に恋をした|第3話|前編


「放課後、時間ある?」

彼女に声をかけられて驚いた拍子に
スマホを落としてしまった。

「うん、今日は何も予定ないよ」

彼との図書館に行く約束はそっちのけで彼女の誘いに応えた。

私は嬉しさを隠しきれず笑みが溢れてしまった。

最後に彼女と放課後を過ごしたのは、もう2ヶ月も前のことだった。


学校近くのカフェに立ち寄る。

彼女が好きなミルクティーを2つ頼んだ。

「じつは昨日彼氏と喧嘩しちゃって」


彼女の潤んだ瞳に影が見える。
儚げに憂いた表情さえ美しかった。

彼女を見ていると蝋燭の炎が揺れるように心がぐらついてしまう。

「大丈夫?彼と何があったの?」

「私、彼のこと怒られせちゃって…」


そう言って彼女の頬を1粒の雫が伝う。
私はそれを零さないようにそっと手を差し伸べる。

初めて触れた彼女の頬
柔らかくて滑らかな肌
ずっと触れていたかった。


私を誘うなんてよほど何かあったに違いない。

だけど彼女はそれ以上何も言い出さなかった。

彼女はひとしきり涙を流してこう言った。

「やっぱりここのミルクティーが1番好き。
毎日ここのカフェに来てた頃が懐かしいね」

目を細めて笑っていた。


"このまま彼氏と別れてしまえばいいのに"

彼女の思いとは裏腹に私はそう願っていた。

私は彼女とまた一緒に過ごせる時間を取り戻したかった。

私なら彼女を絶対に悲しませない
彼女を笑顔にできるのは私だけなのに───


それから他愛もない話をしているうちに19時を過ぎてしまった。

急いで最寄駅に向かって歩き出す。

外はもう暗い。小雨が降り出して肌寒かった。
私は鞄に忍ばせていた折り畳み傘を広げて彼女を迎え入れる。

私の腕にしがみついた彼女からふんわりといつもの香りがする。

私よりも細くて華奢な腕。守りたくなるほど愛おしい。

最寄り駅に着くと彼女は立ち止まった。

「どうして待っているの?」

視線の先にいたのは彼女の彼氏だった。
喧嘩したことを謝るためにずっと待っていたのかもしれない。

すると彼女は私のことを紹介した。

「この子がわたしの"大切な人"」

「ともだち」や「親友」ではない。
彼女が選んでくれた言葉に私は動揺していた。

私にとって彼女が特別であるように
彼女にとっても私が特別であることが嬉しかった。

私は彼女の"大切な人"だった。

彼と図書館に行く約束を断った日の夜、
いつものようにベッドに寝そべりながら彼と電話していた。

私はこの退屈な時間を過ごすことにうんざりとしていた。


「そういえば、今日はどうしたの?」
「大切な人に会ってた」
「やっぱりそうなんだ」
「うん」
「俺より大切な人ってこと?」
「ごめん」

これ以上何も言えなかった。
私には彼女より"大切な人"は存在しない。

彼を好きだと偽って傷付けていることなんか始めからどうだってよかった。

その日から毎晩彼としていた電話は途絶えてしまった。

廊下で顔を合わせても言葉を交わさなかった。


「今までありがとう」

彼と付き合って3ヶ月を迎えた日、さよならを告げられた。

私は安堵していた。
ようやくこの煩わしさから解放される。

これで彼女を"一途"に想えるから。



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