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16歳の私は彼女に恋をした|第5話|前編

合宿2日目の朝

「おはよう、よく眠れた?」

彼女はいつもと変わらぬ素ぶりでそう言った。

私の脳裏には昨夜の"情事"が鮮明に焼きついて離れない。講義中もそのことを思い出しては陶酔していた。

私は平静を装っていつものように振る舞うことに必死だった。

だけど彼女は決してあの夜のことに触れようとしなかった。

まるで "何もなかった"ように──

彼女の本心が雲隠れするようだった。

彼女は後悔しているのかもしれない
もしも取返しのつかないことになったら……

彼女との関係が壊れてしまうのではないかと不安に駆られるようになっていた。

2学年のクラス発表の日

私たちは4月からクラスが離れることが決まった。

私はA組、彼女はE組だった。
教室は渡り廊下を挟んで別の校舎になってしまう。

「そんなの信じられない、寂しいよ」

彼女は俯いてそう言った。

それが彼女の"本心"であって欲しい。
いつしか彼女の言葉を疑うようになっていた。

私は胸の奥に"蟠り"を隠したまま
彼女とともに1年を過ごした教室を後にした──



校庭に並んだ桜の木に緑の葉が茂っている。

私はすっかり新しいクラスに馴染んでいた。

くじ引きで決められた掃除当番で
偶然一緒になった男女5人───

いつのまにかクラスで1番にぎやかな"仲良し5人組"になっていた。

放課後は教室に残って日が暮れても喋り続けていた。

1人が失恋した時は、5人で海岸沿いまで出掛けた。

「思いっきり叫んでこい」
「好きだーーーー!バカヤローー!」

そうやって悲しみを吹き飛ばすほど5人で笑い合っていた。

私たちは夏休みも5人で一緒に過ごしていた。
浴衣を着て夏祭りに行ったことは最高の思い出だ。


毎日が花火のように色鮮やかで
一瞬で過ぎ去っていく────

「私が憧れていた"青春"ってこんな感じかも」

そんなことを考えていた。


不意に彼女のことを思い出してしまった。

「そういえば、どうしているだろう?」

友情に夢中になっていた私は
彼女のことを考えないようにしていた。


あれほど私が恋焦がれて
燃やし続けていた彼女への想いは

いつのまにか色を無くして薄れてしまった。






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