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16歳の私は彼女に恋をした|第2話|前編
「学校一の美女がいる」
夏休みが明けると彼女は校内で一躍有名になっていた。
一目見ようと教室を覗いて群がる男子生徒。
彼女を舐めるように見る目が許せなかった。
私は苛立ちを隠せず舌打ちをする。
彼女はその視線を嫌って
休み時間になるとカーテンの影に隠れて外を眺めている。
そこには彼女に想いを寄せている男子生徒の姿があった。
彼の噂は私たちの耳にも届いていた。
「彼ってどんな人だと思う?」
彼女は私の耳元で囁いた。
「学校一のイケメンだよ。美男美女でお似合いじゃない?」
それは本心じゃない、ほんの冗談だった。
・
彼女はいつしか"誰かの彼女"になってしまった。
放課後を一緒に過ごしていた私たちの時間は失われてしまった。
彼女は毎日誰かと手を繋いで帰る。
彼女に触れないで欲しい───
抑えきれない情動に駆られていた。
付き合いたての初々しさで
頬を紅潮させている彼女を見ると胸が締め付けられた。
私にはそんな顔を見せないくせに───
「彼氏なんかいなくても私と居たら楽しい」
そう言ってくれたはずなのに。
ずっと私だけの"彼女"で居て欲しかった。
私は強い嫉妬と独占欲を抑えきれなくなっていた。
次第に彼女に声をかけられても
素っ気なく振る舞うようになってしまった。
こんなはずじゃなかったのに───
彼女との会話が減り、私から遠のいてしまった。
この喪失感はまさに「失恋」だった。
・
学園祭の最終日
私は隣のクラスの男子生徒から告白された。
彼は2クラス合同で行われる体育の授業で同じチームだった。
1年生ながら野球部で4番を務める彼のおかげでチーム対抗の球技で勝利することが多かった。
クラスメイトの女子が彼に好意を寄せていることを私は知っていた。
「ありがとう、私もすきだよ。よろしくお願いします」
そう言って彼の告白を受け入れてしまった。
「カップル誕生ー!」
私たちのそばに隠れていた野次馬の生徒達が騒がしくなった。
"学園祭の花火が上がる時に告白するとうまくいく"
そんな青春シナリオを味わってみたかった。
だけど私には彼に対する恋情はない。
偽りの言葉を並べて"両想い"を演じているだけだった。
私はただ"彼女"への想いを断ち切りたい。
この失恋を癒してくれるなら誰だってよかった。
・
彼と付き合って2ヶ月が過ぎようとしていた。
私は毎晩、彼との電話に付き合っていた。
いつものように「大好きだよ、おやすみ」そう言って電話を切る。
目を閉じて眠りにつこうとした時、LINEの通知音が鳴った。
電話を終えたばかりの彼だった。
俺以外に好きな男いないよね?
いるわけないよ。急にどうしたの?
疑ってごめん。なんか不安になった。
彼のことが好きではないと見透かされている気がした。
私は"男"になんか興味はない。
スポーツが得意だとか、背が高いとか。
異性の魅力には惹かれなくなってしまった。
私はまるで彼と恋人ごっこをしていた。
どんなに特別な言葉をくれても
彼と肌を寄せ合っても
少しも心が揺らぐことはなかった。
むしろ彼と過ごす時間が増えるほど、彼女への想いを募らせていった。
彼女に会いたい
彼女に好きと言いたい
彼女に触れていたい──
とにかく頭から離れなかった。
私が夢中になっているのは"彼女"だけだった。
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