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16歳の私は彼女に恋をした|第7話|前編(終)

満開の桜が風にそよいでいる。

私は高校の卒業式を迎えた。

2年間を共にした私たち5人は、一緒に受験を乗り越え、それぞれの進路を叶えた。

5人で過ごした毎日は馬鹿みたいな無駄話も、涙も、すべて笑いに変えられるほど笑顔で溢れていた。

私の高校生活は"青春"に彩られていた。

最後に5人で桜の木の下で記念写真を撮った。

「おいー!俺だけ半目じゃん」
「待って、あたしの頭に桜の花びらついてる」
「じゃあもう1枚!」

そう言って何枚も何枚も撮り直して、
最後のさいごまで別れを惜しんでいた。



だけど私はただ1つ
胸の奥にある"蟠り"を燻らせていた──

卒業式が終わって私は立ち寄りたい場所があった。

彼女と通っていた学校近くのカフェだ。

あれから彼女の姿を見かけたのは数えるほどしかない。

彼女がどう過ごしていたのか
これからどんな道を歩んでいくのか

私は何も知らない。


カフェの扉を開ける───


「久しぶりだね」

耳心地のいい優しい声がした。

先に待っていたのは彼女だった。

私はどうしても"あの夜"のことを謝りたくて
高校生活の最後に彼女を誘い出した。

鼓動が激しくなる。


「ミルクティーにしよっか」

彼女はそう言って2人分を頼んだ。

彼女の透き通るような白い肌
艶やかで長い黒髪
潤んだ瞳から目が離せなかった。


3年前の春、彼女と出会ったあの日をはっきりと、色濃く、思い出させた。


「ずっと、会いたかった」

彼女の言葉で時計の針が戻っていくような気がした。


私はずっと彼女を思い出さないようにしていた。

毎日を友情で覆い尽くして、
彼女のいる教室さえも避けてきた。

「わたしも、会いたかった」

胸の奥に隠していた言葉が溢れだしてしまった。

それから私たちは互いの進路を話したり、クラスが離れてからあった出来事を共有して過ごした。

2人の "会わなかった" 時間を取り戻すように。

笑顔を見せていた彼女が急に伏し目がちになる。

「"あの夜"のことを覚えてる?合宿の…」

彼女の口からその話が飛び出すなんて
信じられなかった。
あれほど触れようとしなかったのに──

「好きだった。…好きで、どうにもならなかった」

彼女は唇を噛み締めてそう言った。


「私も…」

声が震えてしまった。

彼女と交わったあの夜──
私は理性を失くすほど彼女に溺れていた。

彼女を連れ去ってどこか"2人だけの世界"に行きたい。

彼女への愛で自分がどうにかなりそうだった。

それは彼女も同じ。
私たちは確かに愛し合っていた。


私はテーブルに添えられた彼女の左手に指を絡めた。

"運命" なら私たちを結んでほしい──

彼女の薬指を見つめてそう願った。


だけど私たちはこの先も"別々の道"を歩んでいく。

もう二度と交わることのない私たちの時間を
これで終わらせたくはなかった。

「もう行かなくちゃ」

彼女は私の目を見つめてそっと手を離した。


「ありがとう」


それが、彼女の最後の言葉だった。


残された私は
どれだけの時間が過ぎたか分からないほど涙をこぼしていた。


ミルクティーを口にすると冷たくなっていた。

それはずっと、
口に残るほど甘かった──



これは、16歳だった私が
初めて同性を好きになった"初恋"の物語。



前編・終わり




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