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詩人・李白が【心がモヤモヤする感情】を表現した美文は、三国時代の影響を受けていた!お話し。


*個人的なエピソードを含みます*
手っ取り早く「李白の美文」「三国時代の影響」が知りたい方は、目次からジャンプしてください。


私がモヤモヤした時にとる行動は
「文章を書く」「漢詩を読む」


「あいさつをしたのに無視されてしまった」

「コンビニで商品を買ったら、なんだか見下されたような接客をされた」

このような日々のモヤモヤ、ありますよね。
これを書いている私もそうです。
つい先ほど経験したモヤモヤを、
詳細に説明してやろうと思い文章を書き始めました。

でもそれは、やめることにします。
私がモヤモヤを感じたその人も、
また別の誰かにとっては大切な人。
たったひとつの、たった一瞬の出来事で
その人の人間性を判断してはいけません。

それに、なんだか書いてるうちに
モヤモヤが薄くなってきました。
文章を書くことが
私のストレス発散なのだと改めて気づきます。

さらに気持ちを落ち着かせるため、
最近勉強を始めた漢詩の本を
パラパラとランダムにめくりました。
これまで1ページずつ、きっちりと
順番通りに読んでいましたが、今日は特別。

何気なく開いたページの漢詩に目がとまります。

それは、李白
宣州朓楼别校叔云」です。

「宣州の谢朓楼」という場所で、
李白が「叔云」という人物に別れの餞別をする
という詩。

その詩の一節に
「心の中がモヤモヤする」感情を表した
美しい表現がありました。


【李白の美文】
「刀を抜きて水を断てば水更に流れ、杯を挙げて愁いを消せば愁い更に愁う」

流れる水を刀で断ち切ろうとしても
水はさらさらと流れ続けるように
酒でうれいさを晴らそうとしても
悲しみは次から次へとわき上がってくる

抽刀断水水更流,举杯消愁愁更愁。

白文:唐诗三百首诵读本(插图版) (Chinese Edition)


いかがでしょうか?
この一文から滲み出る
「憂い」と「もどかしさ」に
私は美しさと敗北感を覚えました。

私がずっと「モヤモヤする」
としか表現できなかった感情を、
千年以上も前に、的確に美しく、
表現した人がいるのです。

この時点で、私が経験したモヤモヤは
消えかかっていました。
私のくだらない日常の出来事より、
「言葉にできない感情を言葉にすると美しくなってしまった李白」のエピソードのほうが勝ります。

…という経緯で
この記事を書いている、というわけです。


この詩の全文が知りたくなったという方は、
この後もぜひお付き合いください。




【李白】宣州谢朓楼饯别校书叔云

読み上げ音声はこちらです。

【白文】

弃我去者昨日之日不可留,
乱我心者今日之日多烦忧!
长风万里送秋雁,对此可以酣高楼。
蓬莱文章建安骨,中间小谢又清发。
俱怀逸兴壮思飞,欲上青天揽明月。
抽刀断水水更流,举杯消愁愁更愁。
人生在世不称意,明朝散发弄扁舟。


【書き下し文】

我を棄てて去る者は、昨日の日留む可からず。
我が心を乱す者は、今日の日煩憂はんゆう多し

長風万里秋雁しゅうがんを送る、
此れに対して以って高楼にかんす可し。

蓬莱の文章 建安の骨、中間の小謝又清発。

とも逸興いっきょういだいて壮思そうし飛び、
晴天に上って明月をらんと欲す。

刀をきて水を断てば水は更に流れ、
杯を挙げて愁いを消せば愁いは更に愁う。

人生世に在って意にかなわずば、
明朝髪を散じて扁舟へんしゅうろうせん。


【日本語訳】

私を棄てて去ってゆくもの それは
昨日の日 留めることはできぬ
私の心をかき乱すもの それは
今日の日 悩み憂いばかりが多い

万里 雁を吹き送る秋風の中
君と高楼に別れの杯を重ねよう

漢代の文章 建安の風骨
その間 謝脁もまた清新

ともに高逸なる感興を抱き
そのさかんなる思いを馳せて
青天に上って明月をろうとした

刀を抜いて水を断っても水はさらに流れ
杯をあげて愁いを消しても愁いはさらにまさる

この世に生まれて意に叶わずば
明朝官をやめて小舟に棹さし
きままに江湖を放浪するまでだ


【三国時代の影響】
李白は曹操たちの詩風を評価していた


「蓬莱文章建安骨」
という一節があります。
「蓬莱文章」は漢代の文学を指し、
「建安骨」は格式高い詩風を意味するものです。

建安は後漢末の年号で、
このころは三国志で有名な
「曹操」「曹丕」「曹植」「孔融」「王粲」「陳琳」「徐幹」などの詩人が現れました。

建安七子と呼ばれたこれらの人々の詩を
「建安体」といい、
その気概があり格式高い詩風は
「建安の風骨」と称されます。

李白は建安までの剛健な詩風を評価していて、
華美な詩風は避けていました。


人間の悩みは尽きない


心に浮かぶ迷いのひとつひとつに
むりやり答えをひねり出す。
もうこれ以上は考えまいと決意するそばから、
新たな迷いがわき上がってきて
疲労困憊してしまう。

色々なことを気にしすぎてしまって
生きづらくなることもあるでしょう。

しかし気にしすぎることは、
感性が豊かであるとも言えます。
今回、私は偶然にも
「文章を書くこと」「漢詩」が結びついて、
モヤモヤを浄化することができました。

ここまで読んでくれているあなたも、
ストレスを感じたら
文章・絵・音楽・SNSなどの
「表現」をするときっと心が落ち着くはずです。

その中に、
この李白のような名文を生み出す方が
現れるかもしれませんね。

この記事を読んで、
漢詩に興味を持ってくれた方は、
ぜひこちらも見ていってください!
漢詩の読み上げ音声と白文です。


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