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#デンマーク

映像のデコパージュに誘惑される| 『エーレンガート:誘惑の極意』

映像のデコパージュに誘惑される| 『エーレンガート:誘惑の極意』

先月、第96回アカデミー賞(2024年)の受賞結果が発表され、日本映画では山崎貴監督の『ゴジラ-1.0』が視覚効果賞、宮崎駿監督の『君たちはどう生きるか』が長編アニメーション賞を受賞しました。

アカデミー賞というとアメリカの賞が有名ですが、デンマークにもロバート賞(Robert Prisen)と呼ばれるアカデミー賞があります。今年発表されたロバート賞(2024年)の作品賞には、ニコライ・アーセ

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「ケア労働」へのまなざし 『あるじ』

「ケア労働」へのまなざし 『あるじ』

 夏の暑さもようやく落ち着いてきた頃、フィンランドの画家ヘレン・シャルフベックを描いたアンティ・ヨキネン監督の『魂のまなざし』を観ました。画家としての自分を生きようとするシャルフベックの強いまなざしと、スクリーンにときおり映る絵画のような場面が心地よいリズムを作り出していました。年代としては1915-1923年を扱っており、これはフィンランドの女性参政権が成立した1906年から少し経った頃です。映

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『愛さえあれば』-人生にイタリアのレモンを添えて

『愛さえあれば』-人生にイタリアのレモンを添えて

 あっという間に梅雨が明け、夏のギラギラした日差しが降り注ぐ日々が始まりました。夏休みが待ち遠しい人もたくさんいるのではないでしょうか。
一年を通して寒い時期が長い北欧では、昔から温暖な地域(イタリア、ギリシャ、スペイン)への旅行が人気です。特にイタリアは、旅行先のみならず絵画や文学の題材とされてきました。
  デンマーク映画においてもイタリアは複数の作品の舞台になっています。代表的な作品として、

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静謐な映像に表れる揺れ動く心-『わたしの叔父さん』

静謐な映像に表れる揺れ動く心-『わたしの叔父さん』

ゴールデンウィークが終わり、4月から新生活が始まった人は、少しずつ慣れて来た頃でしょうか。一方で、新年度が始まったものの新しい挑戦への一歩が踏み出せていない人もいるかもしれません。
 そんなみなさんに観てもらいたい映画が、今回紹介するフラレ・ピーダセン監督のデンマーク映画『わたしの叔父さん』(2019)です。

 本作は、第32回東京国際映画祭(2019年)のコンペティション部門でワールドプ

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『ライダーズ・オブ・ジャスティス』にみる弱い男たちの連帯

『ライダーズ・オブ・ジャスティス』にみる弱い男たちの連帯

強くなるとは、何か強い力を得ることではなく、自分の弱さを認めること。
 今年(2022年)1月、『ライダーズ・オブ・ジャスティス』が公開されました。デンマークで最も注目されている脚本家の一人である、イェンセン監督の最新作です。この映画は、列車事故で妻を失った軍人マークス(マッツ・ミケルセン)の復讐を中心とした人間ドラマにユーモアのスパイスが加えられており、予測不可能な展開で観客を驚かせる内容

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