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bedside story

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どうせ死ぬならShall we dance?

どうせ死ぬならShall we dance?

人は死ぬ。

誰もがそのことをわかっている。わかっているはずだ。

誰にでも死は平等にやってくる。

でも、私たちは死を意識ながら生きてはいない。

毎日、死を意識しながら生きていくことはできないからだ。あるいは、死に目を向けないように生きているだけなのかもしれないが。

養老孟司氏の「バカの壁」を思い出す。部屋をなかなか片付けない娘さんとのやりとりだ。娘さんが「どうせ片付けてもまた散らかるし片付

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青い瞳

青い瞳

いつもの散歩道にネモフィラが咲いていた。自然と笑みがこぼれる。私は無意識にカメラを向けていた。カメラのシャッターを押す度にカシャッという乾いた音が天に響く。目を閉じ、深呼吸をした。マスク越しだが、春の匂いを感じることができた。その空気に漂っているであろうウィルスなどお構いなしに、春は今年もこの可憐な青い花を咲かせてくれた。

ネモフィラ、その言葉を反芻する。響きがいい。ネモフィラは北アメリカ原産の

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数字を追いかけない生き方

数字を追いかけない生き方

2020年も12/365を過ぎました。年々、一年が3か月ぐらいの感覚で過ぎていくのが恐ろしい。とはいえ、ぼーっと生きていくわけにはいかないので、遅ればせながら、2020年の目標を立てました。意識的に目標を立てよう!と思って立てたわけではないのですが、新しい年になり10日程生活する中でなんとなく今年はこういう風に生きていこうかなと方向が定まっていった感じです。

タイトル通りですが今年は「数字を追い

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あきらめ

あきらめ

私には決定的な何かが欠けている、あるいは何か、とても悪いモノにとり憑かれている。そう思うことがある。昔からなんか上手くいかない。人生のあらゆるポイントで、躓いてしまう。しかもとても大事なポイントで。ボタンを掛け違えたような人生である。つまり最初から何か間違っている。

 昨年はそのことをひしひしと感じるような出来事に見舞われた。滑り出し上々、緩やかな坂を下ってゴール、ならどんなにいいのだろう。いつ

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ゆく年くる年、また繰り返し

ゆく年くる年、また繰り返し

 今年も1時間を切った。だからどうということはない。毎年繰り返してきたこと。そして生きている限り繰り返されていくこと。それなのに、どうして私たちは、新年に希望を抱かずにはいられないのでしょうか。それは新品のクレヨンに似てる。真っ白な紙に似てる。またやり直せる。そんな気持ちになる。しかし実際は数字という区切りをつけているだけで、ただ今日が終わり、明日が来る。ただそれだけのこと。毎年、この時間になると

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なまえ

なまえ

 この話は分かる人にはものすごくわかる話で、分からない人にはきっと全く想像もできない話だ。子供の頃、クラスの中にいると、時々自分がどこにいるのかわからなくなることがあった。わからなくなるというのは、完全にわからなくなるわけではなくて、自分が教室にいるということはわかっているのに、どうしても教室にいるとは思えなくて、ぼーっとしてしまうことがあった。わかりやすく説明すると、自分から、意識だけが抜け出し

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心と乳房にある印

心と乳房にある印

 バスルームの鏡の前、私はそれを見つけ、ゆっくり指でなぞる。左胸につけられた小さなしるし。ほんのりピンク、パズルのピーズのように見える。それは愛された形跡である。幸せのしるしである。それはほんの少しの独占欲と支配欲である。

 そのしるしは一週間も経たないうちに消えてしまう。私は消える前に会いに来てほしいと言う。そしてまた愛をせがむ。あの人は何も言わずそれに応じる。大きな背中にしがみつきながら、私

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意味

意味

なぜ出会ったのだろう。と考えていた。

出会った意味を考えることこそ無意味だと誰かが言っていた。誰だっけ。

私だ。かつて悩める友人に投げかけた言葉が壁に跳ね返って自分に返ってくる。滑稽だ。情けない。

でも今回ばかりは、なぜ自分なのか、なぜあの人に出会わなければならなかったのか、さっぱりわからない。出会わなければよかったとも思う。これまで以上に思った。神様はなぜ、わざわざ私を選んで、あの人に出会

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time limit

time limit

 「少しだけ寝かせて」とシートを倒し、あの人は静かに目を瞑った。疲れた顔、忙しい間をぬって逢いに来てくれたのだろう。なおさら愛おしくなる。私もシートを倒して、車の窓ガラスを打ち付ける雨の音に耳を傾けていた。雨音が規則性のない一定のリズムを刻み、その合間に聞こえてくる彼の寝息がなんとも心地よい音を生み出し、私の脳の凝りをほぐしていく。

幸せとは・・・とふと思う。

幸せとはきっとこういう些細な事な

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なつのおわりに

なつのおわりに

 9月はまだ夏をひきずっていた。家の中のエアコンはフル稼働で、外に出ると夏の空気が堂々と居座っていた。まだ遠くの空には入道雲があるというのに、赤とんぼが目の前を行ったり来たりしている。

 やり残した宿題を数えるように、今年もまた少し落ち込む。毎年夏に期待をしすぎる悪い癖。結局今年も何も起こらず、夏は終わった。

 などと感じていたのは若かりし頃のこと。ここ数年は夏の終わりに寂しさなど微塵も感じな

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いちごいちえ

いちごいちえ

 人が親しく会話を持つ人と出会う確率は2千400万分の1と言われている。これはもう天文学的な数字である。クラクラする数字である。つまり、人と人が出会うことは紛れもない奇跡なのだ。そして今目の前に座っている人との出会いも、きっとそういう類のものなのだろう。偶然、必然、運命、この際どうでもいい。とにかく、今、私は2千400万分の1の奇跡の中にいるんだ。向かい合わせで他愛もない会話を交わし、同じ珈琲を飲

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落ち込んだ時に私がすること

落ち込んだ時に私がすること

 落ち込んだ時、たっぷり落ち込んだ後、私は自分がなぜ落ち込んでいるのかを分析する。 私は今なぜ落ち込んでいるのか。何にそんなに傷つき、何にがっかりし、そもそも何を求めていたのか、何を期待し、何に裏切られたのか。

 そんな風に分析することで幾分か気持ちの部分を一時的に冷却することができる。つまり頭をフル回転させ、心の動きを一時停止状態にさせる。心と頭はリンクしない、と私は考えている。心は心、頭は頭

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トルストイと恋バナ

トルストイと恋バナ

    「 恋とは自己犠牲である。これは偶然の依存しない唯一の至福である」

  かの有名な思想家、トルストイの言葉である。いくつもの名言をこの世に残したトルストイだが、彼自身は世界三大悪妻の一人とも言われている夫人との長年の不和に悩み、ある日、耐え切れずついに家出を決行する。だが鉄道で移動中に悪寒を感じ途中下車、1週間後、駅長官舎で肺炎のため死亡した。悲しい末路である。だが私はこのトルストイの話

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しゃれこうべ

しゃれこうべ

 朝起きると、一番最初に真っ白な天井が目に入ってくる。その真っ白な天井に手を伸ばす。私は”白”を手に入れたいと思う。手を伸ばしても、手に入らない”白”が毎朝私の上にある。何をしたって、なかったことにはできない。どう足掻いても白紙が手に入ることはない。

 部屋の壁に飾られたロベールドアノーのモノクロ写真、カメラ、レンズ、本棚、机、ベッドサイドに積み上げられた愛読書。全てのものが、昨日と同じ位置にあ

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