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逆噴射小説大賞2022感想覚書 #02

 寒い日が続いておりますが、皆様体調はいかがでしょうか。
 休日は布団にくるまりながら、逆噴射小説大賞に投稿された作品を読み漁る一日を過ごしております。

【#01】 【#02】


泥と鯨のワルツ

 これは……面白い。
 ガンダムとか、ロボットモノの1話を感じさせる、冒険の始まりを告げるようなスタートアップなんですけど、そこに組み込まれているSF的仕掛けが非常に巧妙なんですよね。
 途中で明らかになる真実が明らかになる瞬間、読者が脳内で想像していた映像が180°ガラッと変わるんですがー。その状態で、また頭から読むと、初読の時に描いていたものとはまったく別の光景が広がる。繰り返して読むほどに味わいが深まる作品といった感じ。
 そして、それだけ大がかりな仕掛けを施しておきながら、決してそれがメインになってしまっていないというのが超絶技巧なんですよね。ショートショート的叙述トリックになってしまっていない。あくまで世界観のセットアップのギミックであり、本筋を妨害していないというバランス感覚がすごい。



Dragon's Rest(ドラゴンズレスト)

  信じて送り出した息子が、ドラゴンに懐柔されてビデオレターを送ってくるなんて……。ドラゴンの女王かわいいよドラゴンの女王。冒頭~前半でダークファンタジーかな? と思わせておいてから、後半加速度的にトンチキ指数が上がっていくのがいいですね。
 とんちき♪└(^ω^ )┐ ┌( ^ω^)┘とんちき♪
 そして、初見は「ドラゴンの休息」かな? って思っていたタイトルが、まさかの要素で回収される(ヘッダー画像をよく見れば気づけたかもしれない)。ドラゴン女王が初めてのウォシュレットで「ふおおおおおお!!」ってなってる姿が見てぇなぁ!



水底の教室

 ひええ……。やべー女が支配するタイプのパニックホラー。この手の一見八方美人で裏では恐ろしいタイプの女が支配するタイプのホラー(なんかジャンル名あるのかな)は、まあ恐ろしいことは恐ろしいんですが、社会的な面に目をつぶれば暴力でぶっ殺すという最終手段がある(もちろん基本的にそれを封じている)わけなんですが、あろうことかこの作品ではすでにそれを実施済み――であるにも関わらず復活してるからもう逃げ出しようがないんですよね。
 復活した超常存在だから、暴力が通用しない。究極の切り札が切れないという絶望感。さらに最悪な事実として、全員が結託して手を染めているから、無実で逃げ切ることもできない。チェスや将棋でいう『詰みチェックメイト』にはまったのだ。



女神の疾走

 とにかく読み味が爽快で読んでいてスカッとする作品。タイトルにある通り、疾走感を持って小気味よく進んでいくエピソードは、スピード感があり、多分この先も読んでて絶対に退屈しないんだろうなという期待をもたらしてくれますね。
 一応復讐譚ではあるらしいのですが、それっぽい湿っぽさを一切感じさせないのは、やっぱりヒロインであるミアのキャラクターの軽快さや、カラッとしたセリフ回しがなせる業なんでしょうか。ここから先も、主人公をがっつり引っ張って、クッソ振り回してくれるんだろうなという予感します。これから先、立ち塞がるファッキン野郎どもを「うるさいバカ」で蹴り飛ばしてくれ!!
 あと、展開のテンポの良さが異常なんですよね。
 私がもし同じ題材で書いたら、たぶんラッキー・ジムを倒すところか、よくて車で走り出すところまでしか800字で書けないと思うんですけど、この作品だと2件目の犯行のスタートの部分まで入れ込んでいるんですよ。すごい。



黄色の谷 世界の緑

 雰囲気がしゅきぃ……。
 既存の現代社会とか、ロードオブザリング的ファンタジーとか、一言でサイバーパンクといえば伝わるような世界とは違って、いわゆる『独自の世界観』と呼ばれるものを出すの、この逆噴射小説大賞ではすこぶる難しいと思うんですけど(いうまでもなく文字数制限が極端に少ないので、それだけ割ける描写や使える説明が限られてくるから)、この作品は見事にバチっと決まっていてすごいですねこれは……。
 海外の児童文学のような幻想的な語り口がハオ
 「異人」だったり「魔法」だったり、さらりと配置されたワードたちが、「これはいったいどういう……?」というクエスチョンを読者にもたらし、先へ先へといざなってくれる感覚がいいですよね。



煙霧竜銃戦線

 スチームパンク!!!
 ぼくはねぇ……スチームパンクがねぇ……大好きなんだよ! 蒸気と歯車で動く機械……。ヴィクトリア朝のシックな街並み……。そういった世界観からしか取れない栄養素が――ある! 創作界に、スチパンブームが来ないかなーと常日頃おもっちょります。大正時代モデルの和風スチパンでもええよ。
 閑話休題それはさておき
 この作品では、最高のスチームパンクだけでなく、魔法といった要素まで取り入れていおります。すごい! 私が好きな要素しか入っていない! 魔法の要素も、刺青を媒介して発動するタイプのやつで、「あ、これ好きなやつだ」ってなってしまった。
 スチームパンク+ガンアクション+機械のドラゴン+光る刺青魔法は、アニメ化とかしたときに、かなり映像映えするだろうなー。アニメ化しろ。



ジオラマの境界線

 う、うますぎる……。うますぎて、馬になったわね……🐍
「これが『小説』だッ」って言って頭を煉瓦でぶん殴られるような感覚。一読して、「ん? これ800字じゃなくない? 2000字くらいない?」って思って最初から読み直すと、やっぱり800字の情報量じゃない。恐ろしいのは、文字数が少ないことじゃなくて、文字数が少ないと感じさせないこと。何か魔術的なことをしてるとしか思えないんですよね。
 ジオラマオタクである主人公の、どたばたコメディかなーと思わせておいて、最後の最後の一文で、ぐおっと不穏さが顔をのぞかせ、ジャンルが一気にスパナチュとかサイコホラーに振られる感覚がやばいですね。
 さらっと流されてるし、最後の一文のインパクトが強くて忘れがちだけど、中学で心に傷を負って三十年、隠れジオラマニストを貫いている主人公もなかなかにやべーやつだと思う。他人のジオラマ作品が見たくてとる一番最初の手段が、顧客のボイラーを細工して壊すとか、そんなこと、しちゃあ……駄目だろ!



ビーイング・ドローイング・ビューイング

 ヒロインがかわいい!!! 
『逆噴射小説大賞2022このヒロインがかわいいで賞』受賞でしょ。そんな賞はない。
 かわいいヒロインは、ただかわいい要素を並べればいいというものではなく、主人公との会話劇の中でインタラクティブに作り上げられるものなんですね(メガネクイー)。ここらへんの会話劇のうまさという点がずば抜けてるなーという印象。食費がかかる幽霊、いやすぎる。
 もう一方の応募作品である『ティターニア』も主人公とヒロインに焦点を当てた構成になっていましたが、あちらが退廃的でデカダンな雰囲気の作風なのに対して、こちらはコメディ色がある明るめな感じということで、同じテーマでも作風が180°違っていてすごいと思いました。陰と陽を行き来する者が一番強い。みんなも読み比べ……しよう!
 懸念点をあげるとすれば、幽霊ヒロインモノには宿命的につきまとう『成仏エンド』の存在でしょうか……。ハッピーエンド至上主義者の私にとっては、今からもう泣きそうなんですが。成仏エンドやだー!!!!! 生霊オチになってくれ頼む!!!!!!!



CHEF

 殺し屋がオニオンフライを揚げる小説。
 映画とかでよくあるサイコパス殺人鬼が丁寧な日常生活を送る描写が好きな人におすすめです。私みたいな。こういうのは、細やかな描写が丁寧であればあるほど、異常さが際立つ感じがして好きなんですよね。私がていねいな生活に無縁な雑日常送り人なこともあって、憧憬の念もあるのかも。殺人鬼にあこがれを持つな。
 おいしそうなオニオンフライの調理描写と、血なまぐさい殺し屋の仕事のギャップがいいですね。そして、提示される謎。いったい誰が主人公の仕事を横取りしたのか?
 自分が殺した仕事のあとの現場で、調理+食事をするのもまあまあイカレているなと思いましたが、他人がやったあとでも余裕でクッキングしてるのは……やばいぜ!



鉛のあしゅら

 ノワール……! 暴力……! おもしろい……!
 めちゃくちゃダークでバイオレンスな作品。血がブシュー! 脳みそボーン! みたいなカラッとした暴力ではなく、じめっとした感じで生々しいのがあれですね。いいと思います。どひー。
 主人公の手足がない(声も出せない?)状況についてだとか、仲良く食事してたリンドウを拉致する理由(体を乗っ取る?)だとか、エビスの存在とか、いくつもの「?」が浮かぶ中、説明を一切せずにひたすらドライブするのが……めっちゃいいですよね。「いったいこれは……どういうことなんだ!?」って気になりページを捲る手が止まらないわけで(まあ800字しか存在しないのですが)(なんてことだ)。
 「続きが読みたくなる作品」という意味合いでみると、これほど逆噴射小説大賞の事心ことのこころに則った作品はないかもしれないですね。続きを……続きをください……。




ユグドライズ -YGGDLYZE-

 私の放った2発目の弾丸。植物パンクSFです!

 こっちは1発目。ダークファンタジー。


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