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ビーイング・ドローイング・ビューイング

 手元にはiPhoneで撮影した空の絵。俺は模写に入る。が、集中力は二十分が限度だ。雲の輪郭が掴みにくく、鉛筆で雲を表現するのは思った以上に難しい。

「何やってんの?」と声をかけたのは俺の同居人だ。

「お前を金にする方法」と向き直る。ジャージ姿の少女が壁際に座っている。見たところ女子高生だが透明で、体が透けている。幽霊だ。
「いくら読経してもお前って消えないだろ。なら、ヌードでも描こうと思って」

「やめてセクハラ!」
 少女がふくよかな胸を隠した。正直、たまに目がいくのは否定できない。
「男一人なんだし、女性がいるならラッキーでしょ!? 異性と住むアタシの身にもなれっての!」

「食費がかかんだよ! こっちは生活費が不足してるんだ!」

 幽霊が現れた当初、俺は自分がおかしくなったと思った。が、無慈悲に使われるシャワーと虚空に消える三人前のご飯、容赦なく作動するエアコンを目の当たりにして、現実だと理解した。

 しかし、無職三ヶ月目でこの金額は正直ヤバい。いますぐ対処する必要がある。

「やはりお前を売るしかない。大人しく描かせろ。それかバイト探しに行ってこい」

「アンタが行ってよ! じゃ、じゃあアタシをビデオに撮って――」

「実はお前が寝ている間に一度やったんだが、透明な画面しか写らない」

「最低!」
 幽霊は俺を座布団で殴打する。普段は触れないのにこういう時だけ手が出せるのはズルいと思う。

 殴り合いの後、お駄賃五百円で描かせてくれることになった。俺がぼそっと「パパ活」というと、凄い目つきで睨んできた。

 真正面から彼女をスケッチする。正座姿を鉛筆で写し取り、線を付け足す。絵を撮影し、仲介サイトに出品する。

「売れるといいな」

「万札万札万札……」
 こいつ話聞いてないな。

 ポン、ポン、ポン――とグッドボタンが押される。ペースが早いのに驚いていると、コメントがつく。

「このモデルの娘、私の家族ではないですか」

【続く】

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