新川万詩郎

ほぼ毎日19時頃に創作の文章をアップしています。 365日後に自分が創作に何を見い出す…

新川万詩郎

ほぼ毎日19時頃に創作の文章をアップしています。 365日後に自分が創作に何を見い出すのかを確認するために

最近の記事

心を温める歌がある 悲しみに寄り添ってくれる歌がある 幸せを祝福してくれる歌がある 人生を支える歌がある 好きな人と結ばれた時にも 恋人と別れた時にも 誰かに背中を押して欲しい時にも 苦境を乗り越えたい時にも 心を響かせる歌がある だから僕は歌を作る側になった 誰かの心に寄り添いたくて でも今の僕は 聞きたくないものに蓋をするために歌がある 自分が描いた夢の先は その夢を曇らせていくばかりか 溺れて窒息してしまわぬよう抗ったが 僕には自分を救ってくれる歌は作れなかった

    • カササギの橋

      春は桜を眺め暖かくなり始める季節を感じ 夏は人混みの隙間から手を繋ぎ花火を見上げた 秋は人懐っこい猫を撫で 冬はプレゼントし合った手袋をつけて雪を見た 君と歩いた遠くの海まで続く長いこの河川敷は 君と過ごした思い出が溢れている 移りゆく季節の変わりが二人の背景を彩っていた 川の向こう側に僕 渡ってこっち側に君が住んでいたから 天の川だねと僕が言うと なら川にかかる橋はカササギの橋だねと君が言う 漢字も分からないその橋は 天の川にかかる橋だと教わった 僕の知らない言葉を君が

      • ルーヴルの朝

        早朝にホテルから出ると 空気は朝の清々しさを感じるが空はだいぶ明るい 目的がないただの散歩の行き先は とりあえずルーブル美術館の方へ向かうことにした 日本と比べると頼りなさのある信号機や 歩きタバコで人目を気にせず吸い殻を 道端に捨てるパリの人を横目に進む 途中どうやら今日ストライキか何かがあるようで ライフルを持った警備隊員が道を塞ぎ ここは通れないと促される もう少し先のノートルダム大聖堂まで 行きたかったけどしたかなく来た道を戻る 完成された街並みは歩いているだけで

        • 大人になってわかるとこがある 毎日まだ起きている子供に顔を合わせるために 遅くない時間に帰るのが容易でないことが 親になってわかることがある 仕事の後に遊んでと駄田をこねる子供の 相手をするのに相当な体力が必要なことが 家庭を持つとわかることがある 経済的余裕を求めて頑張るほど 家族と一緒に過ごす時間が短くなることが “父の日はお父さんに感謝を伝えましょう“ そう決められていたから 思春期になるまでは父に形ばかりの感謝を伝えていた 自分が父になった日 幸せの扉が開くよ

          花空夜行

          この街のどこにこんなにも人がいたのか そう思うような人の波をすり抜けるように歩く 非日常の中に連れゆく君と 離れ離れにならないように ドーンドーンという破裂音が近づくほど 人々が色めき立っていくのがわかる 歩行者天国となった道の両脇は たこ焼きや焼きそばなんかの屋台が並び その提灯の灯りが非日常感をさらに演出する びっしりと人が並んでいる河原沿いに着き たまたま空いた特等席とは言えないけれど それなりに見えるスペースに君を導いて 見上げた空には色とりどりの花が次々と咲き

          彼女だった人

          君の寝息が首をくすぐる 多少の寝苦しさも感じながら 起きてしまわないように動かないようにする 広い方がいいと奮発して買ったダブルベッドも 君がくっつくから左端ばかりに寄っていたね でも今はベットでは二人の間に空間がある 週末にはおしゃれなレストランに行って 閉店まで二人は色んな話をしていたね 何が食べたいと聞くと決まって焼肉というのが 笑っちゃうけど美味しくて 身震いするような仕草が好きだった でも今はそんなところなかなか行かなくなって 二人だけの会話が長く弾むようなこ

          彼女だった人

          パーマ

          僕はモブだ “なんとかを探せ”の本の中ではじの方に スペースを埋めるために書かれている風の人間だ 人は内面が重要だって言われて育ってきた だけど目から入る情報に人は左右されるのも いくらか生きてくると分かってくる 鏡を見れば見るほど典型的なこのモブ顔を どうにか自らの手で変身させてあげたい ああ、小さい頃は楽しかったな そんな風に思いに老けている今 目の前には美容室で頭に色とりどりのカールを びっしりと乗せられタオルに包まれた ヘンテコな生物と鏡の前で向き合っている

          サカサマコトバ

          辛い時 落ち込む時 ついていない時 不幸せな時 心と言葉を逆さまにする 辛くないし 気分上々 ついているし 幸せだ 胸の気持ちが口に出るなら 逆に口に出した言葉が胸の気持ちにもなるはず だからサカサマコトバには前向きになる力がある 夜の公園で僕に奢らせた 缶コーヒーを飲みながら君が自身満々に言う 君なりの自己敬拝らしい 疲れてもいないし 全部うまくいく 頭もしっかりしているし 明日も楽しみだ 続け様に君が言うから 調子を合わせて僕も言う うちの会社最高だよね あの上

          サカサマコトバ

          胸の中のシーソー

          「カロリー消費したいから一駅歩くから送るよ」 君と少しでも長くいたい僕の願望を 値引きシールが重ね貼りされたような 安い誘い文句で誤魔化した それなりに都心に近いこの辺りでは となりの駅までは高架下を歩いて十数分ほどの長さ 僕に残されたタイムリミット さっきまでの店が美味しかったとか 明日の仕事が憂鬱だとか 話したいこととは別のものが空を舞う 等間隔で設置されたLEDの街灯が 二人の影を伸ばしては打ち消し また伸びてを繰り返すたびに タイムリミットは近づいていく 二人

          胸の中のシーソー

          はじまりのファンファーレ

          心を写すような空模様 長く続く雨の日々も 青に染まるパノラマも 二人を包む景色になるだろう 花束を持って向かい合い 目を合わし交わした約束は どこに刻まれるわけでもなく 二人で守る大切なもの 寄り添うように並んだ道が重なり 息を合わせて一緒に踏み出す 純白は花びらに包まれ 歌声が未来を照らす 喜びはあなたと共に 悲しみもあなたと共に 幸せとは小さな光の粒 一緒に集め心のカゴいっぱいになった時 二人を温かく満たしてくれるでしょう 重ねた日々が長ければ長いほどに 始まりの

          はじまりのファンファーレ

          僕は猫

          僕はどうやら猫という生物らしい 興味はないけどスコティッシュフォールドという 種類だそうで同じ仲間は耳が垂れているらしいけど 僕の耳はピンと立っている 僕の主は背の大きな男の人で 撫でてくれるしブラシで毛をとかしてくれるし 何よりこのピンと立った耳が好きと言ってくれる 大好きな人間だ 僕が生まれて間もない頃に主とその彼女に 連れられて今の家にきた 彼女も優しくしてくれるし遊んでくれるから 子分にしてあげることにした 抱っこくらいは許してあげよう お気に入りのキャットタ

          甲羅

          強張った表情で見つめ返す その奥に潜むかもしれない 悪意に飲み込まれないように 人の肌の色をした硬い甲羅が 棘を立ててあらがうのは 柔らかく脆い内側を 食い荒らされないための尊厳 全ての手足を失っても 這いつくばるように 残酷なエピローグが待っていようと 意識と実態が切り離されるて 抜け殻になるその時まで 無意識の群行 無責任な躊躇 無秩序の快楽 無慈悲な冒涜 思考を止めたら飲み込まれる 壊れやすく綺麗事でできたこの意志を 踏み荒らされてしまわないように 硬い甲羅で守

          『いたい』

          下北沢の駅を一つ通り越して わざわざ池の上で降りて静かな道を 下北沢へ向かって歩く あの賑やかで明るくて若いエネルギーが 密集している光景が今の僕は見たくなかった 道端で立ち話しているグループも カフェの中で見つめ合うカップルも あの日の僕らが重なるのが嫌だったから 30人でいっぱいになる様な小さなライブハウスで 僕は目立たないように一番後ろの席に座る 客席と同じ高さの薄暗いステージには アコースティックギターがポツンと置いてある あの子のギターだ 「別れても応援するから

          『いたい』

          電気ポット

          キッチンからパンが焼ける音がして 昔からある緑色のトースターが「ガシャン」と鳴く 貰い物で揃えたダイニングテーブルセットの いつものところへ座ると母が朝食を並べる 何年も前の日常がそこにあった コンロでは食後のコーヒー用にと 火にかけられたヤカンがシューシューと 熱そうな息を吹いていた 「最近の電気ポットは早くて安全で良いんだよ」 そう教えてみても母は「へー」というだけで まるで興味がなさそうだった 次の帰省の時に手土産で 最新の電気ポットを買って行った コンパクトだけ

          電気ポット

          半分の笑顔

          小さな頃から笑顔が苦手だった 太陽のように笑う他の子達が羨ましかった それでもみんなが笑っている時に 自分だけ笑っていないのが 仲間外れになったような気がして 無理矢理に笑っているような顔をしていた 笑っているけど笑っていない 半分の笑顔だ 赤ちゃんがよく笑うのは 可愛がられないと生きていけないからだって 何かで読んだ 笑顔は誰かに好かれるためにするもの まるで生きやすくするための手段な気がして やっぱりうまく笑えるようにはならなかった それでも一人ぼっちになりたく

          曇りガラス

          誰かを信じられたら もっと笑顔でいられるのかな 誰かに心を開いたら もっと強くいられるのかな 恋することができたなら もっと胸が高揚するのかな 愛を感じられたら この世界に色がつくのかな 曇りガラスの向こうの景色を 臆病な私は見ていた 傷付かない方法を知るたびに 低体温になっていっていく 変わりたくないけど変わりたい 矛盾にばかり飲まれていく 誰かに信じられたら 笑顔でいられる 誰かに心を開かれたら 強くいられる 恋してもらえたなら 胸が高揚する 愛せたら