新川万詩郎

ほぼ毎日19時頃に創作の文章をアップしています。 365日後に自分が創作に何を見い出す…

新川万詩郎

ほぼ毎日19時頃に創作の文章をアップしています。 365日後に自分が創作に何を見い出すのかを確認するために

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  • 小説『琴線ノート』

    一人の若手作曲家とSNSで歌のカバー動画をアップしていた女の子が出会い、 音楽と人間性に触れて心動かし、共に歩んでいく物語を お互いの側面から語る小説『琴線ノート』のまとめです

最近の記事

小説『琴線ノート』第16話「事後」

ヒナ太を駅まで送り届け自室に帰ってきたのは 午後8時を回っていた 本当は気を遣ったのと喋り過ぎたのもあって 一休みしようかとも思ったけど ヒナ太の録音した歌を仕上げたい想いが上回って 早速パソコンに向かって今日録音した歌のテイクを選ぶ 大体の歌の録音はAメロやサビなのどのブロックを 4、5回ずつくらい録音してその中の良いテイクを 歌詞の節ごとや時には1文字単位で差し替えて 最も良いテイクを通しで1本作るのが流れだ 普段は自分で歌ってしまうので この作業はそんなに経験がなく

    • 小説『琴線ノート』第15話「大人で子供」

      私の歌は小川さんにどう聞こえたのだろう SNSのカバー動画では褒めてくれたけど カバーは“オリジナル”と言う完璧なお手本があって それを真似れば良いだけだけど この仮歌は小川さんが作った曲でまだ 誰も歌っておらずお手本がないから正解がわからない 「私の歌どうでした?」 と聴いてみたいけれどなかなか言い出せない すると小川さんの方から振ってくれた 「マイクでレコーディングするのって ごまかしが効かないから最初は難しいのだけど 全然そんな気がしないのはなぜ? しかもまだ誰も

      • 小説『琴線ノート』第14話「耳の中を作る」

        「あー、あー、」 マイクに向かって声を出すと ほんのりリバーブがかかっている自分の声が ヘッドホンの中に戻ってくる 「何か声を出してもらえる?」 小川さんの言うように声を出しているけど 一体これで良いのだろうか 小川さんはパソコンに向かいその横にある 謎の機材のつまみを触って設定らしきものをしている そういえば小さい頃に父の仕事部屋で 同じような事を遊びでさせてもらったな マイクに向かって声を出すとヘッドホンから 自分の声が聞こえて楽しかったっけ 父が魔法のようにその声を

        • 小説『琴線ノート』第13話「DNA」

          自分がアイドルに作曲で提供した曲を SNSでカバーしていたのをたまたま見つけ 歌声とその風貌に惹かれた女の子が今 自分の部屋でマイクに向かっている 何か有名人が画面から飛び出して 目の前の現実にいるような不思議な感覚だった ヒナ太は想像していたよりもいわゆる普通の子で バンド上がりの自分が変な人と思われないように 最大限の気配りで接するようにして 慣れない女子との世間話も頑張った 一応有名アイドルに楽曲提供をしているので 彼女に悪い印象を与えてそれをどこかのSNSで 愚痴

        小説『琴線ノート』第16話「事後」

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        • 小説『琴線ノート』
          16本

        記事

          小説『琴線ノート』第12話「ギャップ」

          電車で降りたことのない駅に私は向かっていた ノイズキャンセリング機能付きのヘッドホンをつけ 送られてきた楽曲の歌のガイドメロディを聴き 歌詞を見ながら歌うイメージをしていると 小川奏多さんが指定した駅の名前がアナウンスされた 父が貰ったけど使わないからと私にくれた 自分では買えない値段のヘッドホンのおかげで かなり集中できたけど心臓は落ち着かない 「東口を出てまっすぐ5分くらい歩いたところの コンビニに着いたら電話すればいいのか」 改札を出て見慣れない景色を見ながら進む

          小説『琴線ノート』第12話「ギャップ」

          小説『琴線ノート』第11話「独り言」

          ヒナ太が仮歌を入れてくれる日が2日後の 平日の午後に決まった 場所はこの自分の部屋で行うことになった リハーサルスタジオで録るのも考えたが ヒナ太が偶然電車で来れる距離に住んでいるのと この部屋はたまたま構造的に歌とアコギくらいなら よほどの大きさな音でない限り 苦情も来ないのでそうなった 本当のことを言うと出費を抑えられるのが助かる 「七色スマイル」の印税も話によると入ってくるのは 半年以上先になるようではっきり言って貧乏なのだ 曲の方は今日中に仮歌を録れる状況にできそ

          小説『琴線ノート』第11話「独り言」

          小説『琴線ノート』第10話「儲け物」

          仮歌とは何なのかを知るべく父の仕事部屋へ向かう 分厚い防音扉に耳を寄せ音が鳴っていないか確認し これまたゴツい扉のハンドルをガチャリと上げる 「どうしたー?」 パソコンに向い背を向けたまま呼びかける父 母は仕事の邪魔はしない性分なのか興味がないのか 仕事部屋に滅多なことで入らないので 入ってきたのが私だとわかっている 「仮歌ってなに?」 唐突に聞く私に父は顔をこちらへ向けた 「“仮“の歌だよ。字そのまま」 何かを悟ったようにあえて“そこじゃない“事を 意地悪そうな顔をし

          小説『琴線ノート』第10話「儲け物」

          小説『琴線ノート』第9話「魚口」

          「作曲を教えてくれませんか?」 小川奏多という若手作曲家に送ったメッセージ 唐突に湧き上がったこの感情は きっと音楽の世界のもう一つ内側に入りたいという 自分の本能的な欲求とベテラン音楽家の父の言う 「音楽に関しての貪欲さの塊」と言われる人の いる世界を感じてみたい欲求が混ざって 湧き上がったのだろう 作曲するだけなら父に教えを乞う方が 自然だけど私が求めているのは 同世代の音楽に没頭する熱さのようなものだった 父の名を伏せたのは相手に気を使わせないのと やっぱり「お前

          小説『琴線ノート』第9話「魚口」

          君へ

          自分をよく見せようとする姿と鏡を見るのは同じだ 君にしか見えていないものを必死に取り繕っても 君以外の誰かはそこじゃないところを見てる 君がなりたい君を演じようとも その部分は誰も見ていない 君がその鏡を見ることをやめてはじめて 君があるべき姿が君自身に見えてくる

          におい

          目が覚めると君が隣で眠っていた 帰ってこない君を気にしながら眠りについた昨夜 君は何時に帰って来たのだろう 君に罪悪感がある事は 私が眠っている間に帰って来て 正確な帰宅時間を誤魔化そうとしている事で分かった 朝の支度も済ませ時刻が昼を迎える頃 目覚めて来た君の声はかすれて低くなっていた 私はその声が嫌いだ それを聞いた時は決まって嫌な匂いがする 子供のように洗濯機の下の方に潜り込ませて隠した服も 玄関に乱暴に脱ぎ捨てられた靴も かすれた声に混ざった息からも 私の細胞が

          酔った時につぶやいてはダメなのに 酔った時くらい言葉を発したくなる 人は言わなくていい時に言ってしまい 言わなきゃいけない時の言えない でも誰もそのは通言にそれほど興味はない 何か言われるのは耳鳴りかもしれない だったら言いたい時にモノを言う その為にもその声帯は震えるんだ 君から放たれた言葉はそれだけで意味がある 受け取る側の事を意識するなら 飯だけ食べていればいい

          変わる

          同い年に囲まれるのが小学生 年上との関係性が生まれるのが中学生 どこに行っても大抵は最年少になるのが二十代 上と下に挟まれるのが三十代 どこへ行っても大抵は最年長になるのが四十代 下も上も意識することさえ無くなるのがが五十代 なんの苦労もしなくても 時間が勝手に自分を推し進めてくれる 歳を重ねるのが嫌なのは今を楽しめていないサイン 若さを失いたくないのは それ以外に自信がないからだ 何も変わらない人生を 選択したいと思う人はいない 変わっていいんだ

          無色透明

          傷付けられて込み上げる悲しい涙も 心無い力の痛みに耐える涙も 失ってしまってもう戻らないと惜しむ涙も 無色透明だ 厳しく怒られても反論できない悔しい涙も 感情が抑えきれずに息ができない苦しい涙も 自分を酷使しすぎて訳もわからず溢れる涙も 全部無色透明だ 悲しみも 痛みも 苦しみも 目には見えない 唯一それを表現できる涙も 色が付かないから 無色透明の涙の訳は他人にはわからない だから誰かに気持ちをわかってもらうには 自分で伝えなければならない 君の本当の気持ちは君

          小説『琴線ノート』第8話「カウントイン」

          礼儀正しく失礼のないように さらに言えば怪しい人に思われないように 細心の注意を払ってヒナ太というアカウント名の子に やっとのことで送るメッセージを書き切った 「初めまして。アカウント名は〇〇ですが 七色スマイルの作曲をした 小川奏多(かなた)と申します。 七色スマイルのカバーめちゃくちゃ素敵な 歌声で思わずコメントしてしまいました 作曲を教えて欲しいとのことですが お恥ずかしい事に僕は誰かに作曲を教えたことが 一度もないからうまく教えられるかわかりません ただヒナ太

          小説『琴線ノート』第8話「カウントイン」

          僕は君じゃない

          君がもし誰かを憎むなら 僕は目の前に立って相手を見えないようにしよう 君がもし誰かの言葉に傷ついたなら 僕はその傷口に手を当てよう 君がもし悲しい涙を流していたら 僕はそれを黙って拾い上げよう 君がもしこの世から消えたいと想うなら 僕は一緒にこの世から消えてあげよう 僕がしてあげられることは 君に寄り添う事だけ 心を曇らす原因を取り除いてあげることはできない 君を救えるのは君自身だ 必要のないものを見ないようにできれば 誰かを憎むこともない 自分の信念をまっすぐに

          僕は君じゃない

          小説『琴線ノート』第7話「モンスター」

          「七色スマイルの作曲者ですめちゃくちゃいい歌ですね」 まさか作曲者本人からコメントが来るなんて 思ってもいなかった しかも私の歌をいいと言ってくれている その後のコメント欄は作曲者本人登場で 軽いお祭り状態で相変わらず 私の事はほったらかしだったけど 初めて歌の投稿に意味を感じたような気がして 深夜なのに目が冴え渡った すぐにコメントに返信しようと 何度も書いては消しを繰り返したけど よく考えてみればこの曲の編曲者は私の父な訳で 父の仕事仲間に勝手にコメント返すのには

          小説『琴線ノート』第7話「モンスター」