酒を飲んでいる。休日のこの時間から飲む酒は美味い。 平日だともっと美味いが、残念ながら一般的な会社員のため、ここ数年はご無沙汰だ。 今日は久々の丸一日オフだった…
「詩人になるのと、幸せになるの、お前はどっちがいい?」 もう連絡のつかない、本当の名前も知らないネット上の友人から聞かれた、他愛のない質問。 私にとっては忘れら…
それは、柔らかな貨幣だった ともすれば解け崩れそうな輪郭を 丁寧な所作で一口大に切り分けては どうとも表現のし難い、営みの味を転がして 手垢にまみれたそれを飲み下…
食べきれないものを並べた わたしたちの食卓は低く、真四角のこたつだった 静かな入江のような天板は 口にするもので溢れかえった 這いまわる視線にフォークが突き立てら…
鼓動と同じペースで手を叩いたら どちらか分からなくなった 手を止めた瞬間に崩れ落ちる身体を想像しては 足元を悠々と闊歩する 蟻の行進を眺めた つま先から少しずつ、…
遠くまで来た、という自覚だけを持って 切符をくぐらせる そちらは行き止まりですよ 知っていますよ そうですか、ではお元気で まっさらなロータリーの照り返しが あぶ…
わたしのデスクから斜め四十五度の視界に ペールブルーの空がのぞく けだるさを隠しもしない ぬるま湯のようなオフィスで貪るのは 春の新作とか、要領を得ない愚痴とか と…
寂びれたジャングルジムの 緩やかな回転 両手から垂れる、紙袋の重に あれこれと理由をつけて 過ぎるのは、老舗の薬屋前 橙とオレンジの区別で 夕闇を匂わせられる今でも…
色とりどりに囲まれて 瞼を閉じている ここは砂の城で うみねこが足跡をついばむから 来た道も忘れてしまった 言葉は その時だけのもので 振り返っても、目を凝らしても …
光を見た 瞼は下ろしたままだったから、それはぼんやりとしていた 遠くの方で地面へとたどり着いたあと 弾けて消えて あとには朝が残ったようだった 有り金をはたいて 青…
獏
2023年9月17日 16:37
酒を飲んでいる。休日のこの時間から飲む酒は美味い。平日だともっと美味いが、残念ながら一般的な会社員のため、ここ数年はご無沙汰だ。今日は久々の丸一日オフだったので、一通りの家事をこなした。良い天気だから洗濯機は2回回した。トイレはぴかぴかに磨いたし、ざっと掃除機もかけた。普段はやらない。死ぬほど面倒くさがりなので。そういえばアクシデントというか、ショックな出来事もあった。床に打ち捨て
2023年9月7日 23:40
「詩人になるのと、幸せになるの、お前はどっちがいい?」もう連絡のつかない、本当の名前も知らないネット上の友人から聞かれた、他愛のない質問。私にとっては忘れられない質問だ。結果から言うと、私は幸福を優先し続け、そのまま(一度は)筆を折るに至った。そもそもあのまま詩作を第一に生きたとして、職業:詩人になるというのは夢のまま終わったような気がするけれど、何にせよ私には幸福を捨てる勇気は持てな
2023年7月31日 17:47
それは、柔らかな貨幣だったともすれば解け崩れそうな輪郭を丁寧な所作で一口大に切り分けてはどうとも表現のし難い、営みの味を転がして手垢にまみれたそれを飲み下したあなたの分がまだです耳鳴りのような声色で銀行員が告げると歪に千切れた方々からぬめりを帯びた視線が滲んだので、席を立った取り立てはまだ来ない
2023年6月1日 16:19
食べきれないものを並べたわたしたちの食卓は低く、真四角のこたつだった静かな入江のような天板は口にするもので溢れかえった這いまわる視線にフォークが突き立てられると水がこぼれた器用に皿を避けて広がるそれをすくいとるのはわたしの役目だった醤油さしを取ってほしかったできればわさびのチューブも、一緒に
2023年5月31日 17:18
鼓動と同じペースで手を叩いたらどちらか分からなくなった手を止めた瞬間に崩れ落ちる身体を想像しては足元を悠々と闊歩する蟻の行進を眺めたつま先から少しずつ、食いちぎられるままおぼろげになった輪郭が朝に夜に溶けてなくなっていき音だけが残った恐らくは、それで十分だった
2023年5月19日 17:30
遠くまで来た、という自覚だけを持って切符をくぐらせるそちらは行き止まりですよ知っていますよそうですか、ではお元気でまっさらなロータリーの照り返しがあぶらで滲んだレンズ越しにわたしを刺している見知らぬひとがその通りの振る舞いでせわしなく通り過ぎていくのをただ、黙ってみている
2023年5月18日 17:41
わたしのデスクから斜め四十五度の視界にペールブルーの空がのぞくけだるさを隠しもしないぬるま湯のようなオフィスで貪るのは春の新作とか、要領を得ない愚痴とかとにかくもふんわりとした何か満足はわたしをゆるやかに分解していくから低いフェンスの向こうで手招きをするあれはなんだったかもう、思い出せない****フルコース仕立てで並べられた欲しかったものたちあなたはもういい
2022年7月11日 10:50
寂びれたジャングルジムの緩やかな回転両手から垂れる、紙袋の重にあれこれと理由をつけて過ぎるのは、老舗の薬屋前橙とオレンジの区別で夕闇を匂わせられる今でも朱色が嫌いなこと日に日に増すコーヒーの減り幅今日もまた、子供を知ってしまった連作「東京ゴンドラ(10行詩集)」 1作目初出:2011/03/17 現代詩フォーラム
2021年9月1日 13:42
色とりどりに囲まれて瞼を閉じているここは砂の城でうみねこが足跡をついばむから来た道も忘れてしまった言葉はその時だけのもので振り返っても、目を凝らしても形にはならない壊れない代わりに決して触れられない月と、手と、花と、それから薄ぼんやりとした灯りを見ているあなたはひとり、瞼を閉じている*初出:2017/01/20 現代詩フォーラム
2021年8月31日 17:32
光を見た瞼は下ろしたままだったから、それはぼんやりとしていた遠くの方で地面へとたどり着いたあと弾けて消えてあとには朝が残ったようだった有り金をはたいて青い鳥を買って息を潜めて夜明けを待ったそうして救われる日のために不幸の真似事をする酷く干からびた甘い日々を繰り返し繰り返し咀嚼しながら耳をふさいで一人さざなみを聞く光があったあたたかい、やわらかな、まる