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掌エッセイ

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心に水を。日々のあれこれを随筆や掌編に。ほどよく更新。
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#振り返りnote

【エッセイ】スキットル

【エッセイ】スキットル

そういやさ、おまえ持っていたよな、スキットルを。

そいつを西部劇のクリント・イーストウッドみたいにジーンズの尻ポケットに突っ込んで、ふと喉が乾くと、真っ昼間からそいつの金属製の口を慣れた手つきで回し開け、中に入っているウイスキーを美味そうに一口、二口煽ってから、ぷはあ、と息を漏らし、最後に必ずこう言ってたよな。

「俺ってさ、これがないと生きてけないんだよね」と。

ところがだ。久しぶりに会った

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【エッセイ】脳細胞

【エッセイ】脳細胞

このごろ物忘れがひどい。

三秒前まで覚えていたタスクを思い出せず、意識の中に手を突っ込んでかき混ぜてみても、「ハズレ」と書かれた紙切ればかり掴んでしまって結局何も思い出せない。モヤモヤだけが残る。

それでふと、脳裏をよぎった。

子どもの頃、近所の友だちとよく「脳細胞の殺し合い」をやっていたことを。

この遊びって全国区なのだろうか。

そこはよくわからないが、とにかくこれは二人で対戦するゲー

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【エッセイ】風になりたい

【エッセイ】風になりたい

風になりたい。

そういうお前(おれ)は手足に車輪をつけ、四つん這いになって崖から飛び立て。そしたらすぐさま風になれるし、ついでに塵にもなれるだろう。

どういう導入部なのかさっぱりわからないと思うが、今からするのは自転車の話だ。

かれこれ四十年以上自転車に乗っていて、いまだに不思議だなあと思うのは、ぼくの心と対向チャリの乗り手の心がシンクロし、互いが譲り合おうとするがばかりに正面衝突してしまう

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【エッセイ】聞き上手

【エッセイ】聞き上手

早朝から、クマに襲われた話を聞かされた。

北海道に現れた例のクマの話ではない。夢の中での話だ。家人が見た夢の中での。

そう、家人にはそういうクセがある。元々夢をよく見るほうで、それはそれで特に問題ないのだが、困ったことにそうした夢を克明に覚えており、どういうわけか起き抜けに、私に伝えたがるのである。

私なんかはどちらかというと、聞き上手なほうだ。というか会社員時代にさんざん、出たくもない飲み

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【エッセイ】心の分岐点

【エッセイ】心の分岐点

待っても来ないなら歩け、階段で。

以前にも言ったが極度の出不精で、生活品の大半を宅配に頼っている我が家では必定、インターフォンの画面越しに宅配の方とやりとりすることが多いのだが、こないだふと気づいた。

小包であれウーバーであれ出前館であれ、初めてうちのマンションを訪れる宅配の方はほぼ間違いなく、一階の廊下を左に向かうのである。

ちなみに左へ行っても行き止まりで何もない。デッドエンド。そこで物

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