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かえるです。ディストピア愛好者。

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花火

 僕の教室は通路の奥まった所にある。Lの字の書き終わりの位置だ。入り口を入ってすぐ左に黒板がある。だから遅刻なんかすると廊下を走ってくるところから全部クラスメイトに丸見えだ。学校全体を見るとカタカナのルみたいな感じで、直線的な建物が中学棟、曲がっている方が高校棟である。縦画の部分はガラス張りで、向かいの校舎もガラス張りなのでお互いよく見える。  ある夏の日の一限のことだった。例の如く朝の出欠確認でいなかった輩がいるので、ドアは開けっぱなしだった。ドアの延長上から一列中心側の

    • お泊まり

      あと一言なにか言われたらベランダから飛び降りてしまいそうな時ってないだろうか。そのあと一押しをしてくれる知り合いすらいないから僕は生きているんだと思う。デリカシーのかけらもない事を言って、崖から突き落としてくれる人が欲しい。物理的にでも精神的にでもいい、トドメの一撃をくれる人が欲しい。 勢いで人生初の「お泊まり」をしてしまったのもこんな生ぬるい希死観念からだろうか。異性の部屋ではないが。たまたま送ったメッセージに、たまたまビデオ通話が返ってきて、たまたま2時間かけて移動して

      • 死ねない

        人生とは難しいもので、もうやっていられないと思ってからどんなに死にたいと望んでも死ぬわけにいかない要素が思い浮かぶものである。 それはある春の月曜日の話だ。たまたまサークルの私の部門の活動が早く終わり、夕食がすんだ直後にスマートフォンを開いた。関わりは多いが私的な連絡を取ることはない隣の部門の人間からの着信履歴が残っていた。慌てて折り返しの電話を掛けたところ、「早く戻ってこい」との一言だけだった。 呼び出されて戻った先は、落ち着いているように見えるが異様な雰囲気になっている

        • 女子論議

          いわゆる「普通」の枠から逸れているのを実感したのはいつのことだろうか。小学生の頃だっただろうか。一般的な概念から外れた行動を続けていた僕のことを、わざわざご丁寧に親を巻き込んで詰った教師が結婚したことを聞いた。その後校庭の池の前で会ったとき、名字が変わった名札を見て黒い感情が渦巻いたことをよく覚えている。もしかしたら、そんな世間一般的に幸せだとみなしてもらえる未来は自分には訪れないとうっすら気づいていたのかもしれない。 女の子にも男の子にもなりきれなかったことに気づいたのはつ

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          売れない歌い手、もしくは底辺YouTuber

          ―本日は、人気急上昇中、歌い手のこぶまきさんにお話を伺いたいと思います。 よろしくお願いします。 ―過去にはお仲間が亡くなられたことも・・・? ああ、田中のことですか。あれは昔のことですよ。自転車で旅に出る企画をやろうと思った時です。朝の9時ごろでしょうかね、カメラを回し始めてから、「カタカナに殺されるかもしれない」って言いだしました。・・・ええ。当然「お前何バカなこと言ってるんだ」みたいな雰囲気で企画はスタートしようとしました。家の前で自転車に乗ろうとしたその時ですよ、道

          売れない歌い手、もしくは底辺YouTuber

          あなたに最高の終末を

          ある日曜日の昼下がり、彼女とソファーで何気なく見ていた昼のニュースが終わり穏やかな街ブラ番組が中盤に差し掛かろうというところだった。「人類の滅亡は不可避 首相官邸」と書かれたニュース速報のテロップが画面最上部に流れ、蔵が立ち並ぶ古い町並みは無機質なニュースセンターの画像に切り替わった。伝えられたのは明日の夜に地球は生命の生存には適さない環境になるであろうこと、変化は23時から10分程度で終わることだった。不安もあるし人類滅亡までにやらなければならないことは多くあるが、今までに

          あなたに最高の終末を

          手頃な冤罪をくれないか?

          いつしか友情と呼ぶにはとうに重くなりすぎていて、恋情と呼ぶには甘さは足りないが、ある一件から愛情と呼ぶには腐り切ってしまった感情だ。もうドス黒くなってしまっていて、相手からの謝罪があろうとそれを許そうと、もう二度と過去の関係には戻れないだろう。主に僕のせいで。 生物学的に同性の友人に対して、世間一般的に抱くものなのかわからない感情がある。同性の友人が男女問わず他の人間と喋っていれば嫉く。異性には思わないのが不思議な話だ。今度恋人がいる知人に聞いてみるつもりだが、何されてもいい

          手頃な冤罪をくれないか?

          ないまぜの感情にさよならを

          僕が臆病だった、としか言いようがない。拗ねてもゴネても仕方がない。過ぎたことは過ぎたことでしかない。それ以上でも以下でもないのだ。 彼女が僕のものにならないかと期待し始めたのは1年半ほど前だっただろうか。良い友達というよりは悪友という感じで、周囲から見るとなかなか不思議な関係性だっただろうが、僕にとっては数少ない本気の冗談が通じる人間で、代わりなんて絶対にいなかった。僕のものにしようだなんて思わなかったが、校則で禁止された寄り道を繰り返す延長線上でずっと隣にいるものだと思って

          ないまぜの感情にさよならを

          天才だと思っているあなたへ

          多分、自分にはこのタイミングで苦しみを語る資格はない。10代にも満たないころに他人を蹂躙した過去があるからだ。 だから、明日学校に行きたくないあなたじゃなくて、明日からの学校に何も思っていないあなたへ。なんなら、周囲を見下すことで自尊心を保ち、危害を加えることすらいとわなかった昔の自分のようなあなたへ。 人を見下すということは、他人からも見下されるということである。人を見下す思想というものは他人に伝わらなかったとしても、何らかの負の態度として映るものである。 敗者を救え

          天才だと思っているあなたへ

          ベースを始めたきっかけ

          夏になるとiPod上の再生回数が増えてしまうのが、KEYTALKの楽曲である。とはいえどの楽曲が多い、というわけでもないので、好きな曲を2曲ほど紹介する形をとりたい。どちらもMVが公式で公開されている曲なので、お時間があれば気軽に是非。 ①MURASAKI(収録は1stアルバム"OVERTONE") 夏、という今回の観点からは少々逸脱している曲かもしれない。秋の夜とかが似合う曲だと思う。稀にある夏のくせに肌寒い日の午前4時とかに聴いて、なんとなくしんみりしたい。男女関係を

          ベースを始めたきっかけ

          Everything

          最後に「目が覚めていた」のはいつだっただろうか。もう思い出せない。 この空間が夢の中だというのは分かっている。もしくは生死のはざまかもしれない。少なくとも、何度もループする風景を見る限りここが現実であることはあり得ない。彼の目の前で、彼の身代わりとして、死ぬ瞬間が何度も廻る。 吹けば飛ぶ、という言葉が存在するが、残念なことに彼の命はそうだった。危険と隣り合わせだというのに、人間の替えの利く仕事。俺なんか言葉の通じる道具に過ぎないからさ、と、陽気だがどこか翳った表情で笑った

          Are You Happy?

          sideA 少しだけ話を聞いていただけませんか、込み入った、暗い話ですけど。 私、今、双子を妊娠しているんです。妊娠三か月。これだけならただの幸せな話でしょう? でもね、先月乳がんが見つかったんですよ、ステージ3。妊娠中は免疫力が落ちるから、このまま子供を産んだら私はすぐに死ぬでしょうね。 夫と何日も話し合ったんですよ、朝から晩まで。最終的な決断は私にゆだねられました。 私は子供を産むことにしました。胎児二人分の命より私に価値があるとは到底思えなくて。 夫には申し訳ないな、と

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          或る芸術家の話

          昔々、或る國には或る芸術家がありました。 新しく創った曲は瞬く間に國全体で人気になり、描いた絵は途轍もない高値で取り引きされました。 戯曲を書けば上演する劇場の前から人がいなくなることは無く、書いた本も気付いた時には國民全員に行き渡っていた程でした。 或る時、彼は政治家になりました。「光り輝く藝術の國を創りたい」と公約を掲げて。 最初こそ反対する者もありましたが、次第に支持を伸ばしていき、遂に大統領になりました。 彼は公約通り、学校から藝術以外の授業をなくしました。藝術に関

          或る芸術家の話

          マネキンで飾りたい

          スーツが好きだ。 レディースも良いのだが、真骨頂は直線により形成されるメンズものだろう。まあこれは自分があまり曲線美を解さないというだけだとは思うが。 そして生身の人間や二次元の人間が着ている必要もないと思っている。そのシルエット自体が美しいからこそだ。願わくばマネキンに着せて飾りたい。美しいと思ったスーツをいくつか並べて鑑賞したい。こんなことを言っているので、周囲にはスーツ好きの変態だと思われている節はある。いやいや推しはスーツ着てないから・・・いやデフォルトがスーツだ

          マネキンで飾りたい

          無常を生きて

          皮膚科の待合室のソファに座っていた。異様に白い空間。入口の自動ドアから見える黒々とした闇とは対照的に。薄れゆく意識の中、助からないだろうな、となぜか確信した。右足がひどく痛む。目も向けたくないほどに。 早く病院に行け、と母親が騒いでいた。なぜ彼女には自分の姿が見えているのだろう。後ろをついて歩く。何人もの人が体をすり抜けていく。ああ、自分は死にかけているのだろう。そしてここは現実ではないのだろう。きっとここは生死の狭間。・・・じゃあ、唯一実体を持っている母親は何者なのか?今の

          無常を生きて

          スタメン発表

          もちろん、試合を見に行くのが野球観戦の主な目的である。当然だ。しかし、極論試合自体はテレビやラジオで味わうことができる。その場だからこそ楽しめる要素があるのではないだろうか。 コロナ渦を無視すると、僕のおすすめは二つある。まず一つ目は試合前の練習時間。一般的に試合開始の一時間半前から球場に入ることができる。コーチ陣によるノックが見られたり、選手のバッティング練習が見られたりする。ただただ純粋にアスリートの凄さを感じられる空間だ。軽々と飛んでいくボールを見ていると目の前の風景

          スタメン発表