ないまぜの感情にさよならを

僕が臆病だった、としか言いようがない。拗ねてもゴネても仕方がない。過ぎたことは過ぎたことでしかない。それ以上でも以下でもないのだ。
彼女が僕のものにならないかと期待し始めたのは1年半ほど前だっただろうか。良い友達というよりは悪友という感じで、周囲から見るとなかなか不思議な関係性だっただろうが、僕にとっては数少ない本気の冗談が通じる人間で、代わりなんて絶対にいなかった。僕のものにしようだなんて思わなかったが、校則で禁止された寄り道を繰り返す延長線上でずっと隣にいるものだと思っていた。高校時代なんてすぐ終わるし、自分は進学を機に引っ越す予定だったし、彼女には恋人がいることも知っていた。それでも、隣にいられると信じて疑わなかった。
大学生になって初めての夏休みも終わりに近づいたころ、久しぶりに彼女と会う機会があった。彼女と彼女の恋人とその友達、そして僕。別に、恋人に妬いたとかそういうわけじゃない。・・・いや、妬いたが。ただ、彼女とは5年ぐらいの付き合いで、それだけ長い時間を過ごしてきたはずなのに、僕は彼女の甘え方ひとつ知らなかったことに気づいて、耐えられなくなったのだ。何もかも知っているつもりだったが、何も知らなかったじゃないか。かといって僕も彼女に甘える方法を知らなかった。偶然が重なりお泊り会が開催されたときは無茶苦茶にしてくれればいいのにと願ったが、それを気づかせる術なんて僕には思いつかなかった。執着が恋や愛のないまぜになった重たいものだと気づいたのはこの日だった。
それからは疎遠になるのはあっという間だった。自己嫌悪にさいなまれた僕からの連絡頻度は減ったし、恋人とよろしくやっている彼女からも同様だ。恋人と別れたという報告も来たが、それが別にどす黒い執着を抱く僕の自己嫌悪を解消するわけでもなく、会う予定を立てる勇気なんてどこからも湧いてこなかった。
いつしかメッセージの反応が薄くなった。既読がつくのも遅くなった。恋だの愛だのどころじゃなく、この人間関係自体もうすぐ終わってしまうんだと思う。僕が両手いっぱいに抱えきれないほど持っている執着も愛情だけじゃなく怒りや恨みを含むものだから、したいのは告白じゃない。どうすればいいのかわからないままに知らないことが増えていく。ストーキングしていたSNSのアカウントもいつしか消えていた。
これでいいんだ。これでよかったんだ。僕だけが重たい感情で勝手に一人で圧死してしまえば丸く収まる話だ。たまに同窓会で会って久しぶりって笑うぐらいで丁度いいのかもしれない。
もう二度と、僕から連絡はしないことにした。

執筆のおやつ代です。