死ねない

人生とは難しいもので、もうやっていられないと思ってからどんなに死にたいと望んでも死ぬわけにいかない要素が思い浮かぶものである。

それはある春の月曜日の話だ。たまたまサークルの私の部門の活動が早く終わり、夕食がすんだ直後にスマートフォンを開いた。関わりは多いが私的な連絡を取ることはない隣の部門の人間からの着信履歴が残っていた。慌てて折り返しの電話を掛けたところ、「早く戻ってこい」との一言だけだった。
呼び出されて戻った先は、落ち着いているように見えるが異様な雰囲気になっている同期とと付き添う周囲だった。「あなたに話を聞いてほしいそうよ」と私に指名が入り、夜も遅かったのでそのまま周囲の人間は帰っていった。
同期と最寄りのコンビニまで少し買い物に出て、戻ってからしばしの逡巡ののち彼女は語りだした。彼女の友人が亡くなったこと、先週の木曜日、次の月曜日に会う約束をして別れたこと。友人が好きだったチョコレートケーキを、彼女は好きでもないのに買ってきて泣きながら食べていた。守られなかった約束を代わりに果たそうというわけじゃないが、明日、サークルの部屋で会おう、と取り決めてその日は別れた。

もう人生なんかやめてやる、と何度も考える。それでも死なないのは真面目に死ぬ準備をするのは億劫だからではあるのだが、その準備に取り掛かろうと思い立つたびに彼女との関係がもう少し離れるまでは死ねないと思ってしまうのだ。私のせいで彼女を泣かせたくないと思うのは私のエゴでしかないが、そのおかげで何とか今日も生きている。

執筆のおやつ代です。