売れない歌い手、もしくは底辺YouTuber

―本日は、人気急上昇中、歌い手のこぶまきさんにお話を伺いたいと思います。
よろしくお願いします。

―過去にはお仲間が亡くなられたことも・・・?
ああ、田中のことですか。あれは昔のことですよ。自転車で旅に出る企画をやろうと思った時です。朝の9時ごろでしょうかね、カメラを回し始めてから、「カタカナに殺されるかもしれない」って言いだしました。・・・ええ。当然「お前何バカなこと言ってるんだ」みたいな雰囲気で企画はスタートしようとしました。家の前で自転車に乗ろうとしたその時ですよ、道の向こうから突然両手に包丁を持った男が現れたのは。・・・どのように田中が刺されたかなんてわかりません。なんせこちらも動揺していたもので、とにかく逃げるだけでした。警察を呼ぼうとしたのですが、田中は「子作りをしてから死ぬんだ」と言ってききませんでしたので、朝からネットで近くの水商売のお店を探しましたよ。今、冷静になって考えてみると目的には適してないですけどね。・・・とにかく、田中含めメンバー四人で朝からガールズバーに行きました。田中は笑ってましたよ、パックリと割れた腹なんて気にせず飲んでました。その後彼は店員と朝の街へと消えていきました。・・・止めなかったのかって?・・・当時何を考えていたのか正直分からないですが、一応カメラ回しっぱなしだったのでね、それが面白いと勘違いしていたんでしょうね。普通に人ひとり死にかけてるのに。
三日後、警察から連絡がありました。身元確認に立ち会ってくれと。遺体が田中本人であることは間違いありませんでした。その時は正直、何の感動もなかったです。ふらっと出かけて一週間ぐらい帰ってこないのは普通でしたから。でもメンバー全員で同居していた広めのワンルームマンションに帰った時、宮本がぽつんと言ったんです。「田中のバイト先に電話しないと。やめますって。何をって聞かれたらタバコをって。あいつヘビースモーカーだったからそれで伝わるだろう。」って。意味が分からない。でも、机の上に置きっぱなしの一カートンを消費する人間はもうこの家には帰ってこないのだと思うと虚しくなりましたね。・・・ちなみに、カタカナっていうのは、田中を刺した男、我々のファンだったみたいなんですよ。Twitter上でのハンドルネームが「カタカナ」。田中には何が見えていたんでしょうね。
―その経験は今のこぶまきさんにどのような影響を与えましたか?
当然ですけど、人が死ぬのは面白くない。コンテンツとして間違っている。自分は馬鹿なので本当に死んでしまうまで気付かなかったんです。
あの時のメンバーはネット上でビジネスとして集まったのでそこまでの愛着というか・・・こだわりがお互いに対してなかったので、事件の直後は死に対して大した感情は抱きませんでした。でも、年々自分の中で彼の存在感が大きくなっていくんです。思い出す回数が増えているんです。記憶はあいまいになっていくのに。だから、その残像から逃れるように休む間もなく仕事をしています。
―当時の他のメンバーは今何をしていらっしゃいますか?
宮本はおととし自殺しました。「ガールズバーで笑っていた田中が忘れられないんだ」とグループメッセージに残して。もう一人は先日MDMAで捕まった、YouTuberの明朝です。彼も何かから逃げていたんでしょうね。自分もいつまで正気を保っていられるんでしょうね。・・・頭がまともな限り仕事は続けていきたいですね。

―ありがとうございました。
こちらこそありがとうございました。

この記事が世に出た一週間後の二月二十九日、こぶまきは冬山で雪崩に巻き込まれ亡くなった。享年二十八。

執筆のおやつ代です。