花火

 僕の教室は通路の奥まった所にある。Lの字の書き終わりの位置だ。入り口を入ってすぐ左に黒板がある。だから遅刻なんかすると廊下を走ってくるところから全部クラスメイトに丸見えだ。学校全体を見るとカタカナのルみたいな感じで、直線的な建物が中学棟、曲がっている方が高校棟である。縦画の部分はガラス張りで、向かいの校舎もガラス張りなのでお互いよく見える。


 ある夏の日の一限のことだった。例の如く朝の出欠確認でいなかった輩がいるので、ドアは開けっぱなしだった。ドアの延長上から一列中心側の列の前から二番目が僕の席で、左隣は欠席、左斜め前はまだ来ていないし連絡もなかった。破裂音とともに左斜め後ろの奴が中学棟から飛んできた銃弾に撃ち抜かれたのはその時だった。即死だった。また破裂音。その後ろの奴は上半身は伏せたが当然椅子に座っているわけだから下半身を撃たれて苦しんでいた。何事かとドアから廊下を覗いた先生も顔を撃たれ凄惨な姿になった。異常に気づいた中学棟の警備員が取り押さえるまで15分、教室にいた40人中実に8人が死傷した。撃ったのは中等部の生徒だそうで、銃は猟友会に所属しているものの現在体調を崩している伯母のものをなんとかして持ってきたそうだ。


 既にあれから5年が経っている。あの日あのあと緊急下校になって帰宅してから、僕は家から出られなくなった。耳元を通り抜ける銃弾の風切り音が離れないのだ。声もなく崩れ落ちたクラスメイトや顔に穴が空いた先生、踠き苦しむ友人と何もできずオロオロする自分の姿が身体に染み付いているのだ。穴だらけのガラスが、火薬のにおいが、忘れたくても忘れられないのだ。

 事件から1年経った頃、そろそろ一歩外に出てみようと思った夜があった。事件の日の記憶はありありと残ってはいたものの、あの時習おうとしていた色彩豊かな恒星がカーテンの隙間から見えたからだ。死んだ奴らがそこから見守っているように思えたからだ。


 家を出た瞬間、後ろの方で破裂音がした。咄嗟に伏せた。

 色鮮やかな花火だった。それ以来僕は家のドアを開けていない。

執筆のおやつ代です。