無常を生きて

皮膚科の待合室のソファに座っていた。異様に白い空間。入口の自動ドアから見える黒々とした闇とは対照的に。薄れゆく意識の中、助からないだろうな、となぜか確信した。右足がひどく痛む。目も向けたくないほどに。
早く病院に行け、と母親が騒いでいた。なぜ彼女には自分の姿が見えているのだろう。後ろをついて歩く。何人もの人が体をすり抜けていく。ああ、自分は死にかけているのだろう。そしてここは現実ではないのだろう。きっとここは生死の狭間。・・・じゃあ、唯一実体を持っている母親は何者なのか?今のところ、自分が失った家族は祖父だけだ。
三人で歩いていた。前の二人は横並び、自分は一歩引いて後ろを。自分が認知されているかは正直分からない。認識されていないだろうと思う。一緒に歩いている彼らは誰だろう。名前も顔も、性別どころか背丈すら曖昧だ。ただ、人がいる、という影があるだけ。この雰囲気からすると、多分彼らは大切な人だったんだと思う。もう何もわからない。思い出せない。ただただ離れたくないと願った。

太ももを切られた。いや、正確には右足を太ももから下を切り落とされた。通りすがりの何者かだった。男だったか女だったかも定かではない。分かるのは、鉈で右足を切り落とされた、そのまま自分は死んだ、それだけだ。

執筆のおやつ代です。