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【旅エッセイ88】釧路の街歩き
真冬の釧路を散歩したことがある。
寒冷地用の滑り止め付きの靴を履いて、釧路の駅前から何時間も歩きとおした。
釧路は都会なので、背の高いビルが立ち並んでまるで東京を歩いているのと変わらない。けれど、氷点下の寒さなので都会なのに空気が澄んでいる。
それに人も少ない。東京に比べたらほとんど歩いている人がいない。
そこら中に雪が積まれて残っていたり、道が凍結してアイスバーンになっている。
「路面が凍結している」という言葉で、私は道の上に見えないくらい薄い氷が張っている状態、東京で珍しく降雪があった翌日のような状態を想像していた。
ところが北海道はアイスバーンもスケールが違った。分厚い数センチある氷の板が、道の上に乗っかっている。そんな場所が何ヶ所もあった。
滑らないように慎重に一歩一歩、すり足のようにして歩く。そうしてアイスバーンを渡り切った時には、奇妙な達成感すら覚えた。
私が見たもっとも大きなアイスバーンは、地下へと下る歩道だった。
立体交差のようになっていて、歩道は地下へと下っている。地下の長さはそれほどでもなくて、数メートル歩くとまた地上へ上がる坂道になっている。
ただ、日が当たらない。そのせいか坂道、地下道、地上への道すべてが凍り付いていた。氷の滑り台だ。
当然そんなところは誰も歩かないし、もし反対側へ用事があったとしても迂回する道を選ぶだろう。
けれど私は果敢にもアイスバーンに一歩を踏み出した。
果敢にもというか、バカというか、どうしてもそのアイスバーンに惹かれてしまった。「ここを歩けたら面白そうだ」というバカげた発想に負けてしまった。
慎重に歩けば大丈夫だろう、と数歩を歩いた時だった。
まず右足がずるりと前方に滑った。
咄嗟に踏ん張ろうとした左足も、釣られて前方へ滑った。
両方の足が前方へと滑る。
するとどうなるか。成す術がなくなる。
一切の抵抗がなくなって、まるでマンガのように両足を空へ突き出すようにして私はすっ転んだ。
そしてマンガのように背中を打って、転んだままツーと坂道を滑り落ちて、地下道の中ほどまで運ばれて止まった。
「マンガか!」
誰もいない地下道に私の怒号が響いたという。
写真は、そんな釧路の街を撮った一枚。
とても素晴らしい場所だけど、真冬の街歩きには細心の注意を払ってもらいたい。
また新しい山に登ります。